第20話 なぞなぞの終焉

 今日は町内会のイベントでお出かけする事になった。

 行き先は美術館で開催されているエジプト展だ。

 燐火りんかちゃんはとても楽しそうにしている。

 呪われるかなって物騒ぶっそうな事を言っているのは気になるけど……

 いつもの健斗君と翔太君も一緒だから、危険な事は止めて欲しいな。

 危険な状況になったら、燐火りんかちゃんの魔法に頼れば良いから不安はないんだけどね。

 僕は燐火りんかちゃん達三人で一緒に展示を見て回った。


「あっ、スフィンクスだ!」


 燐火りんかちゃんがスフィンクスの展示物を見つけて駆け寄ろうとしたがーー


「待ちたまえ、そこの少女。この先は危険だから私が解決するまで待ってくれないかな?」


 蝶メガネをした謎の男性に止められた。

 誰だろう?

 裾が広がった少し短めのズボンをはいている。


「貴方は誰ですか? 何で止めるのですか?」

「私は怪盗ガウチョパンツ。この先にはスフィンクスがいる。アレはただの展示物ではない。本物のスフィンクスの魂が宿っているのだ。だから、なぞなぞに正解しなければ命を奪われるんだ。危険だから下がっていてくれたまえ!」


 怪盗ガウチョパンツ?

 なにそれ?

 展示物のスフィンクスが、神話の様になぞなぞを言うより気になるよ!


「あっ、陽翔はるとお兄さん。こんにちは!」

「なんだよ陽翔はると。俺は早くスフィンクスが見たいんだよ!」

「何を着ても似合うのは認めますけど。やり過ぎは嫌味ですよ」


 燐火りんかちゃん達は怪盗ガウチョパンツが陽翔はるとお兄さんだと即答した。

 そ、そうなんだ……言われてみれば、何となく分かる様な……


「な、何を言っている! 私は陽翔はるとお兄さんではないぞ。私は怪盗ガウチョパンツだ!」


 一回しか言っていないのに、名前を反芻はんすう出来る時点でおかしいよ陽翔はるとお兄さん……

 燐火りんかちゃんたちは怪盗ガウチョパンツの脇を抜けて、スフィンクスの展示の前まで行ってしまった。

 僕は怪盗ガウチョパンツと一緒に燐火りんかちゃん達を追いかけたが、既に手遅れだった。

 燐火りんかちゃん達の目の前でスフィンクスが動き出していた。


「私のなぞなぞに答えよ! 朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足、この生き物は何か?」


 スフィンクスが想像通りのなぞなぞを言った。

 僕はパパから聞いていたから答えを知っている

 答えは人間だ。


「ここは私に任せてくれ! 答えは人……」


 怪盗ガウチョパンツが、正解である人間と言おうとしたがーー


「大魔導士だ!」

「三大神に決まってるだろ!」

「そんな生物はいませんよ」


 燐火りんかちゃんと健斗君と翔太君の三人が別の回答をしてしまった。

 なんでーっ?!

 怪盗ガウチョパンツに任せておけば良かったのに!


「答えは人間だ。答えられなかった君たちには死んでもらう!」


 スフィンクスが立ち上がった。


「待て! 私は正解を言った! この子たちを襲うのは止めろ!」

「駄目だ! お前は見逃してやる。だが、この子供たちには死んでもらう!」


 怪盗ガウチョパンツが反論したが、スフィンクスは聞く気はないようだ。


「ふざけんな! 俺は正解してたぞ!! 理由を言えよ理由!!」


 スフィンクスの答えに納得がいかない健斗君が大声を出した。


「生まれたての時は四つん這い、やがて二本足で歩き、老人になると杖を突くから三本足になる。だから答えは人間なのだ!」


 スフィンクスが自信満々に説明した。

 僕はその通りだと思ったが、燐火りんかちゃんたちは説明を受けても納得がいかないようだ。


「違うよ! 大魔導士フラマ・グランデ様は言った。初級者は挫折ざせつを味わい四つんいになる。中級者になれば自身の足で立てる様になる。そして魔道を極めた上級者であれれば杖を突き、極大魔法を放てると!」

「いやいや、三大神だから! 朝を統べる四本足の太陽神ヘリオスガ、昼を統べる二本足の海神オケアネロ、そして夜を統べる三本足の暗黒神スコタルシアだ!」

「何言っているんですか? 本当に人間を知ってますか? 現実を見て下さいよ」

「何を滅茶苦茶な事を言っている。現実を見れば私が正しい事はすぐに分かるだろう」


 スフィンクスが呆れた。

 僕も呆れた。

 スフィンクスに殺されたくはないが、燐火りんかちゃんたちの言っている事は滅茶苦茶だ。


「納得いかないなら、現実を見せてあげますよ。今から呼ぶから」


 翔太君が携帯でメッセージを送信した。


「なんじゃの? 険悪なムードだけど、どうしたね?」

「そうね、ケンカはダメよ、ケンカは」

「用事とは何かね、翔太」


 町内会のご老人である、シゲさん、チヨさん、マツさんが近づいて来た。

 だが、誰も杖を突いていない。

 シゲさんはランニング用品に身を固めて二本足で快活に走ってきたし、チヨさんはショッピングカートを押して歩いている。

 マツさんなんて電動車椅子でモーター音を響かせながら移動している。


「ほら! 誰も杖を突いていないじゃないか!」


 翔太君がご老人たちを指差すと、スフィンクスが動揺した。


「あ、う……」

「具合でも悪いのかね?」


 シュイ~ン!

 マツさんが電動車椅子でスフィンクスに近づいたら、驚いたスフィンクスが逃げ出した。


「私が知ってる人間じゃない! ごはっ!」


 逃げたスフィンクスが美術館の壁に激突して崩れ去った。


「スフィンクスよ。人の進歩に目を向けなかったのが貴様の敗因だ! 同じなぞなぞが何千年も使えるハズがないだろ? 今度会う時は最新のなぞなぞで勝負しよう。さらばだ!」


 怪盗ガウチョパンツが走り去っていった。

 だ、ダサいな……

 陽翔はるとお兄さんは残念イケメンだったのか。

 見た目は逆だけど、纏蝶てんちょうさんの方が男らしい性格だよなぁ。

 僕は怪盗ガウチョパンツと名乗っていた陽翔はるとお兄さんを静かに見送ったーー

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