第19話 焼きそばパンが売ってない!

 翼の生えた魔女と戦った後、しばらくの間は何も起きなかった。

 魔女の襲撃はないし、謎の力を発揮したじょうさんもいつも通りであり、たまに公園で雑談をしている。

 平和なのは良い事だ。

 今日は学校帰りに燐火りんかちゃんと一緒にコンビニに寄っている。

 何か欲しい物があるのかなぁ。

 燐火りんかちゃんが学校帰りにコンビニに寄るの初めてだから少し気になったが、疲れているから深く考えるのは止めた。

 本当に疲れたなぁ……


「ないなぁ」


 燐火りんかちゃんは何かを探しているようだ。


燐火りんかちゃん、何を探しているの?」

「焼きそばパン。焼きそばパンがない」


 燐火りんかちゃんが苛立いらだちながら言った。

 ふ~ん、燐火りんかちゃんが探しているのは焼きそばパンかぁ。

 どうしたのだろう?

 家に帰ったらママさんの夕食があるのに。

 焼きそばパンが食べたいって事は、ママさんの夕食だけでは足りないのかなぁ。

 どうやら燐火りんかちゃんは焼きそばパンを諦められないようだ。

 最初に入ったコンビニを出て、次のコンビニに向かった。

 だが、そこでも焼きそばパンは売っていなかった。


「焼きそばパン人気だね。このお店でも売り切れちゃったみたいだね」

「次のお店に行く」


 燐火りんかちゃんが次のお店に向かったので、僕も黙ってついていった。

 でも三店舗目も焼きそばパンは売っていなかった。

 結局、焼きそばパンを買えずに帰宅した。


「おかえりなさい」


 燐火りんかちゃんのママさんが出迎えてくれた。


「ママ、焼きそばパンある?」


 えーっ!

 ママさんにまで焼きそばパンを要求するの?!


「ごめんね、焼きそばパンは無いわよ。今日の夕食はシチューなの」

「焼きそばパン……焼きそばパンが欲しい! 何で焼きそばパンないの!!」


 燐火りんかちゃんが突然泣きながら叫んだ。

 どどどどどういう状況?!

 僕はどうして良いのか分からなかったし、ママさんも困っている。


「泣かないで、明日は焼きそばパンにするからね」

「嫌だ! 今欲しい!!」


 燐火りんかちゃんが走って自室に閉じこもった。

 トラブルは突発的に起きるものだなぁ……


「ごめんね、テプちゃん。燐火りんかちゃんは焼きそばパンが好物なの。でもあんなに駄々をこねるのは珍しいわね」

「そうなんですか。僕が買いに行きましょうか?」

「テプちゃんが買いにいってくれると嬉しいわ。お夕食の準備中だから」

「任せて下さい!」


 僕は胸を張って答えた。


「宜しくね」


 ママさんが小銭入れに紐をつけて、僕の首にかけてくれた。

 よしっ!

 燐火りんかちゃんの為に頑張るぞ!

 僕は燐火りんかちゃんの契約妖精なんだ。

 少しはサポートしないとね。

 僕は意気揚々と飛び出した。

 紅鳶べにとび町のコンビニは全て燐火りんかちゃんと一緒に回ったから、行っていないスーパーマーケットへ向かった。

 だけど、スーパーでも焼きそばパンは売っていなかった……

 どうしよう。

 偉そうに任せて下さいって言ったのに焼きそばパンが見つからない。

 コンビニとスーパー以外で焼きそばパンが売っていそうなお店はあったかなぁ……


「あらあら、テプちゃん。どうしたの? 一人でいるのは珍しいわね。お買い物?」

燐火りんかちゃんに捨てられたんか?」


 あっ、しず子さんとオハコだ。


燐火りんかちゃんの為に焼きそばパンを買いに来たけど、売り切れていて困っているんだ。しず子さんはコンビニとスーパー以外で、焼きそばパンが売っている場所を知っていますか?」

「コンビニとスーパー以外かぁ……ないわね」

「そうですか……別の場所を探してみます」

「待って!」


 僕はスーパーを出ようとしたが、しず子さんに呼び止められた。


「どうしたのですか?」

「焼きそばパンは売っていないけど、焼きそばパン自体は手に入るわよ」


 焼きそばパンが売っていないのに、何で焼きそばパンが手に入るの?

 僕はしず子さんが言っている事が分からなかった。


「少し時間がかかるけど大丈夫かな?」

「夕食まで少し時間があるから大丈夫です」

「良かった。ついて来て下さいね」


 黙ってついて行くと、しず子さんが買い物カゴに焼きそばとパンを入れるのが見えた。

 そういう事か!

 売っていないなら、作れば良いって事なんだね。

 買い物を終え、しず子さんの自宅で焼きそばパンを作ってもらった。

 しず子さんが出来上がった焼きそばパンを袋にいれて、背中に背負えるようにしてくれた。

 少し重たいけど、これなら持ち帰れそうだ。


「しず子さん、ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 しず子さんのお陰で無事に焼きそばパンを入手する事が出来た。

 あとは燐火りんかちゃんに届けるだけだ。

 僕は帰宅した後、燐火りんかちゃんの部屋に飛び込んだ。


燐火りんかちゃん、焼きそばパン手に入ったよ!」


 燐火りんかちゃんが黙って僕の背中の袋から焼きそばパンを取り出し、部屋から出て行った。

 どうしたのだろう?

 待っていると、燐火りんかちゃんが戻ってきて、僕の目の前に焼きそばパンが乗ったお皿を置いた。

 食べろって事?

 良く分からないけど、僕は一口焼きそばパンを食べた。


「美味しい?」

「美味しいよ」

「元気出た?」


 元気出た?

 そういう事か。

 燐火りんかちゃんが焼きそばパンを欲しがったのは、僕に元気になって欲しかったからなんだね。

 疲れ切った僕の為に大好物の焼きそばパンを探してくれていたのか……

 僕は嬉しくて涙が出て来た。


「どうしたのテプちゃん? 大丈夫?」


 燐火りんかちゃんが背中をなでてくれた。


「大丈だよ。美味しくて涙が出ただけだから」

「良かったぁ」


 普段は扱いが雑だから大切にされていないかもしれないと心配になる事もあったけど、本当は大切に思っていてくれていたんだね。

 燐火りんかちゃんと契約して良かったと心の底から思えたよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る