第17話 家電とか壊しやすい体質だから

 ふぅ、危ないところだった。

 妖精の毛が貴重だとはいえ、あれだけ沢山の物を購入したら、僕のお尻の毛が禿げてしまうよ。

 さて、燐火りんかちゃんの買い物を無事に止められれたので、増子さんの買い物を続けよう!


「これと~、これも良いかな。こんなのもあったわね。よしっ!」


 纏蝶てんちょうさんが店の棚から色々なアイテムを取り出して来た。


「これはどうかしら? 一般的な魔道具よ」


 纏蝶てんちょうさんが鏡を増子さんに手渡した。


「これが魔道具か! ただの鏡に見えるけど……割れた! どどどどどうしよう!」


 何故か魔道具の鏡が割れてしまった。


「あらあら危ないわね。なんで壊れやすい物を渡したのよ!」

「欠陥品だな。関係ない俺様でも文句を言いたくなるぜ」


 しず子さんとオハコが纏蝶てんちょうさんに文句を言った。


「ふぅん、これって割れるんだ」


 燐火りんかちゃんがつぶやいた。

 不思議に思った僕は割れた鏡をのぞき込んだ。

 えっ、これって……


「ねぇねぇ、みんな。これってガラスではなくて、金属を磨いて鏡にしているよね? なんで割れるの?」

「テプちゃんの言う通りよ。割れるはずがないのよねぇ。あれ、魔力の反応が無くなっているわね。かなりの量の魔力が蓄積されていたのに変ね」


 纏蝶てんちょうさんは軽く言っているが、しず子さんとオハコはだまってしまった。

 手にしただけで金属製の魔道具が壊れて、込められていた魔力が失われた……

 それが普通でない事は、魔道具の素人である二人でも明らかに分かる事だったからだろう。


「申し訳ない! 弁償べんしょうするから勘弁かんべんしてくれ!」


 増子さんが手を合わせて謝った。


「気にしないで良いわよ。怪我が無くて良かったわ。魔道具は相性が悪かったみたいだから、次はこの聖遺物せいいぶつを試してみましょうか。これはね、伝説級ではないけど、かなり高位の聖杯なのよ。頑丈だから安心して」


 ドン!

 纏蝶てんちょうさんがテーブルに叩きつけたが聖杯は傷一つ付かなかった。

 見た目は装飾が施された細身のグラスなのに頑丈なんだなぁ。


「これだけ頑丈なら安心だな! 武器として使えるかもしれないね。で、どういう効果があるんだ? 聖杯を触るのは初めてだから、使い方を教えて欲しいな!」


 増子さんが聖杯を振りながら纏蝶てんちょうさんに問いかけた。

 だが、纏蝶てんちょうさんは目を丸くして黙っている。

 何でだろうと思って様子を見守っていたら、聖杯がブレて見えてきた。

 ぐにゃん、ぐにゃん……

 あれっ、めまいがしているのかな?


「超能力だぁ~。増子お姉ちゃんはエスパーだったんだね。わたしにも教えてよ!」

「エスパー? 燐火りんかちゃん、僕は超能力を使えないよ。急にどうしたんだい?」


 燐火りんかちゃんが増子さんに楽しそうに話しかけたが、増子さんは困惑している。

 超能力? エスパー?

 燐火りんかちゃんは何を言っているのだろう……あっ、そういう事か!

 スプーン曲げだ!!

 増子さんが振っている聖杯が、ぐにゃぐにゃに曲がっている。


「あつ、あっ、あの。増子さん、聖杯が……」

「テプちゃん、聖杯がどうしたの? ああああっ! 聖杯が曲がっている!  壊すつもりはなかった! 家電とか壊しやすい体質なだけだから!!」


 増子さんが謎の言い訳を始めた。

 家電とか壊しやすい体質だって……聖遺物せいいぶつは家電か!


「想定外ね……それなら、最後のコレしかないわね。オススメ出来ないけど……」


 纏蝶てんちょうさんが呪符で厳重に包まれた物体をテーブルに乗せた。

 謎の物体に近づくと、鼻の先がツンツンする。

 これは……呪物だ……禍々まがまがしい空気を感じる……


蒼真そうま! 何でこんな呪物を出して来たの!! 呪われたら取り返しがつかない事になるでしょ! 貴方にはらえるの? この呪物を!!」


 しず子さんが怒鳴った。

 僕もしず子さんが怒ったのは正しいと思う。

 こんな危険な物を渡すなんて異常だ。

 誰かが触れる前に、二度と人目に触れない場所にしまってもらわないと!


「何だこれ? がお~ん! 妖怪様だぞ~。これはパーティーグッズかな?」


 振り向くと、増子さんが謎の獣の腕で遊んでいた。

 て、手遅れだ……

 纏蝶てんちょうさんとしず子さんも固まっている……

 増子さんが説明を終える前に呪物を開封してしまった事が想定外だったようだ。


「ん、何でみんな黙っているんだ? 燐火りんかちゃんはコレが何か分かるか?」

「う~ん……おじいちゃんが背中がかゆい時に使っていたと思う」

「なるほど! 孫の手か! 僕には必要ないな。ほらつ!」

「増子お姉ちゃん柔らかい!」


 増子さんが呪物をテーブルに置いた後、腕を背中に回した。

 なるほど、これだけ柔らかければ孫の手が無くても背中をけるね。

 感心、感心……って問題じゃない!!


「これはお手上げね。私に出来る事はないわね」


 纏蝶てんちょうさんが文字通り両手を上げた。


「ちょっと! 何で諦めているのよ? 他に何かないの?」


 しず子さんが次の手を考えるように言ったが、纏蝶てんちょうさんは首を横に振った。


「無理よ。彼女は魔道具に込められた魔法を消し飛ばし、聖遺物せいいぶつに込められた神力を退け、呪物に込められた呪いですら玩具の様に扱った。魔法の力におぼれず、神の力に願わず、呪いの力に引きずられない……彼女の心は、あらゆる神秘を受け付けない。普通は何らかの影響を受けるのだけどね……彼女は聖人クラスの心の強さを秘めているとしか思えない」


 纏蝶てんちょうさんの言う通りであれば、増子さんはとんでもなく凄い人という事になる。

 変身する魔法しか使えないから心配していたけど、これだけ凄い人なら心配はいらないよね。

 あれっ?!

 そう言えば、変身の魔法以外使えない事は解決していないではないか。

 せっかく纏蝶てんちょうさんのお店に来たのに!

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