第13話 チーターがチーター

 パパとの交信で魔女が出現する理由に謎がある事が分かった僕は、次の土曜日に動物園に来ていた。

 そう、魔法少女をサポートする使命を果たさず、燐火りんかちゃん、健斗君、翔太君と一緒に動物園に来ているのだ。

 動物園にくる事になったのは、燐火りんかちゃんの近所に住んでいる陽翔はるとお兄さんが連れていってくれる事になったからだ。

 陽翔はるとお兄さんは28才の爽やかな好青年だ。

 今日は来ていないけど、しず子さんと同級生だったらしい。

 二人はお似合いだと思う。

 燐火りんかちゃんも二人に憧れて、恋愛に興味を持ってくれたらいいのになぁ……

 恋愛より腕力の強さの方が好きなのは珍しい。

 手にした凶悪動物の図鑑が恐ろしい……

 想像通り、燐火りんかちゃん達は強そうな動物を選んで見て回った。

 クマさん、ライオンさん……ゾウさんも人気だった。

 燐火りんかちゃん達はとても楽しそうだ。

 僕は邪魔にならない様に、みんなが見学した後にゆっくり動物たちを見ていた。

 動物たちはみんな元気でとても楽しい。

 次はチーターさんだ。

 図鑑で見たチーターさんは、スタイリッシュでカッコイイ良かったんだよなぁ。

 燐火りんかちゃん達が立ち去った後、僕もチーターを見る事にした。

 凛々しくて強そうな姿を想像していたが、何故かうつ向いていて悲しそうに見えた。

 他の動物は元気だったのに、何で元気がないの?

 病気なのかな?


「元気がないみたいですけど、大丈夫ですか? 気分が悪いなら飼育員さんを呼んできますよ」


 僕が声をかけるとチーターが驚いた顔をした。


「話しかけたのは君か? ウサギに話しかけれれるとは思わなかった!」

「よく言われます。何で元気がないのですか? 少し気になってしまって」

「子供達に嫌われているからさ……昔は人気者だったのにさ……」


 チーターさんが昔を懐かしむ様に空を見つめた。


「何でですか? チーターさんって言ったら人気者じゃないですか! 足が速くて、特に男子人気が高かったと思いますけど」

「懐かしいね。今は特に男子に嫌われてるんだよ」

「どうして? さっきいた僕の知り合いも、チーターさんが好きだと思うけど……」

「三人とも俺を侮辱ぶじょくしていったよ……ハイエナより劣るんだってさ……」


 僕にはチーターさんが言った事が理解出来なかった。

 チーターさんは、燐火りんかちゃんの図鑑にも世界最速の哺乳類ほにゅうるいとして載っていた。

 燐火りんかちゃんは図鑑の動物を気に入っていた。

 ハイエナさんの事を悪く言うつもりはないが、チーターさんだけが侮辱ぶじょくされる理由が分からない。


「どうしてなんだろう……」

「君は知らないみたいだね。俺がなんて呼ばれているか」

「何て呼ばれているのですか?」

「チーターだよ……」


 チーターさんがチーターって呼ばれている?!

 それが何か?

 呼び捨てにされているから気に入らないの?

 僕はチーターさんが言っている事が分からなくて首を傾げた。


「分からないみたいだね。最近の子供はね、俺の脚が速いのは不正チートだって言うんだよ。お前はチートを使っているからチーターって呼ばれているんだろってね……」


 あーっ!

 燐火りんかちゃん達なら言いそうだ!

 やっとチーターさんが嫌われる理由が理解出来たよ。

 ゲーム好きの燐火りんかちゃん達にとって、ゲームで不正チートを使う相手は軽蔑けいべつの対象だからね。

 でも動物のチーターさんは、ゲームでチートを使うチーターとは関係ないでしょ?

 名前が一緒だからって理由で、酷い風評被害を受けている。


「子供って残酷ですね……」

「そうだよな。でも、これも時代の流れさ」

「時代の流れかぁ……僕も同じ思いですよ」

「君も何か不当な扱いを受けているのか?」

「不当な扱いではないですよ。ただ僕のパパとママがこの世界に来ていて時と大分違っていると思って」

「聞かせてもらえるかい?」


 チーターさんが真剣な眼差しを向けて来た。

 真剣に伝えよう。

 僕もチーターさんと同じ気持ちだって。

 僕達妖精や魔法少女も時代の流れに逆らえず役目が変わっているんだ……


「僕のパパとママの時代はね、魔法少女は大人に変身して、子供では解決出来ない日常の問題を解決していたんだ。でもね、今は攻撃魔法で侵略者と戦ったりするんだよ……僕はそういう殺伐さつばつとしたのは苦手なんだけどな……」

「なぁ、一つ聞いていいか? 魔法少女って言っていたけど、君も魔法が使えるのか?」

「使えますよ。僕は魔法王国アニマ・レグヌムの王子で、魔法少女をサポートする妖精ですから!」


 チーターさんが下を向いてプルプル震えだした。

 どうしたのだろう?

 突然チーターさんが顔を上げて叫んだ。


「魔法だと! それこそ不正チートだろうが! しかも魔法王国の王子だと! 他者を見下す支配階級の者じゃないか!」


 ええええっ!

 ひょうじゃないのに豹変ひょうへんした?!


「あの、その……僕はチーターさんの事を見下していないのですが……」

「そんな戯言たわごと! 見上げる者達の気持ちを考えた事があるのか? 独裁者め! 今すぐ立ち去れ不正野郎チーター!!」


 僕は慌てて燐火りんかちゃん達を追いかける事にした。

 チーターさんは時代の流れのせいで嫌われる様になったってなげいていたけど……性格のせいじゃないかな?

 今日も災難だったなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る