第11話 テプちゃんを攻撃?!

 魔王さんが去った後、僕達は無事に登校する事が出来た。

 燐火りんかちゃんが四天王さんからサインを貰ったりするのに結構時間を使ってしまったから遅刻しそうで危なかったけどね。

 登校中に襲撃してきた魔王さんは悪い人だな。

 大人なんだから配慮して欲しいよね。

 放課後に来るとかさ。

 教室に入ってすぐ、僕は掃除用具入れの上に飛び乗った。

 ここなら居眠りして姿を消している魔法が解けても、他の生徒に見つかる確率が低いから安心だ。

 他の人に見つかって、逃げ出したウサギと勘違いされて飼育小屋に入れられたくはないからね。

 硬くて座り心地が悪いのが難点なんだよなぁ。

 でも教室全体が見渡せて、燐火りんかちゃんが授業を受けている姿がハッキリと見えるから、お気に入りの場所ではあるのだけどね。

 今日もいつも通り授業を見ていたが、なんだか眠い。

 朝の魔王さんの襲撃中、ずっと緊張していたからかな。

 次は給食の時間か……今日のメニューは何だろう……


 *


 あれ、静かだな。

 目が覚めて見回すと誰もいなかった。

 そうか、今は体育の時間だった。

 窓の外を眺めると……なんだ?!

 生徒たちが蜘蛛くもの糸にからめ取られている?!

 いくら小柄とはいえ、子供をからめ取る様な糸を出せる蜘蛛くもは存在しない。

 これは明らかに魔女の仕業である。

 僕は慌てて校庭に向かった。

 校庭では燐火りんかちゃんのクラスメイトの大半が捕まっていた。

 蜘蛛くもの糸を避けながら走っていると……見えた!


「良かった! 燐火りんかちゃんは無事だったんだね」


 燐火りんかちゃんが無事なら、得意の火炎魔法で反撃が出来る。

 でも慎重に行動しないと。

 軽い怪我をした程度ならしず子さんに治してもらえば良い。

 でも致命傷を受けたら手遅れかもしれない……いや、しず子さんの魔法なら死んでも助かるのか?

 駄目だ!

 そんな危険な賭けには出れない。

 万が一、しず子さんの魔法で復活出来なかったら大変だ。

 人質に被害が出ない様にしないと。


「テプちゃん遅いよ」

「ごめん燐火りんかちゃん。居眠りしてた」

「授業中に寝ちゃったらダメだよテプちゃん」

「ところで、どうしたの? 大変な事になっているけど?」

蜘蛛くもの頭のお姉さんが現れて、みんなを捕まえちゃったの」


 燐火りんかちゃんが指をさした方向を見ると、頭が蜘蛛くもになっている女性が口から糸を吐き出していた。


燐火りんかちゃん、見つからないように魔女を攻撃しよう」

「分かったよテプちゃん」


 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を取り出した。


「あれ~っ? 魔法の匂いがするわね。魔女かしら?」


 蜘蛛の頭の魔女が燐火りんかちゃんの存在に気付いた。

 しまった!

 気付かれてしまったら奇襲が出来ない。

 まさか、愚者ぐしゃの杖を生み出しただけで気付かれるとは……


燐火りんかちゃん、僕が魔女の注意を引きつけるから、隙が出来たら魔女を攻撃して!」

「隙が出来なかったら?」

「大丈夫! 僕が頑張るから!!」


 僕は自信満々に言い切った。

 燐火りんかちゃんは火力重視の大魔導士。

 単純な攻撃魔法しか使えないだろうから、僕が敵の注意を引きつけて隙を作らないと攻撃するのは難しいだろう。

 人質を取られているからね。


「こっちだ! 化け物!!」


 僕は左右に跳ねて蜘蛛くもの頭の魔女を挑発した。


「何跳ねてるのウサギさん? それで私の気を引いたつもり?」

「やーい。変な顔の魔女~。ぷりぷりぷり~」


 お尻をフリフリして更に挑発を続けた。


「不快ね。そこの魔女の様な小娘。あの小動物を攻撃しなさい! 人質を殺されたくないでしょ?」

「分かったよ。私の魔法でをやっつけるから」


 燐火りんかちゃんが僕に愚者ぐしゃの杖を向けた。

 えっ、燐火りんかちゃん?!

 本気で僕を攻撃するの?

 冗談だよね?

 僕は焦ってその場でクルクル回ったが、燐火りんかちゃんの詠唱は止まらない。


 全てを貫きし灼熱の刃よ

 大地を穿ち 我の敵を討て

 気高き勝利の花


「貫け! 炎 刀 菖 蒲グラジオラス!!」


 燐火りんかちゃんの詠唱が終わると同時に、炎で出来た刀剣のように鋭い唐菖蒲とうしょうぶが校庭を貫いて現れた。

 


「グギャアアアアアア!」


 貫かれた蜘蛛くもの頭の魔女が苦悶の声を上げた後、燃え尽きて灰になった。

 あれっ、燐火りんかちゃんは僕に向かって魔法を使ったよね?


燐火りんかちゃん、どうして?」

「どうしてって、敵を攻撃しただけだよ」

「でも燐火りんかちゃんは僕に向かって魔法を使ったよね?」

炎 刀 菖 蒲グラジオラスは敵と認識している相手を攻撃する奇襲用の魔法だからだよ。向いている方向とか関係なくて、敵の足元から炎の刀剣が生えるんだよ」

「そうだったんだ。燐火りんかちゃんのお陰で助かったよ!」

「当然の結果だよっ。わたしは大魔導士なんだから!」


 僕は勘違いしていた。

 燐火りんかちゃんは炎の攻撃魔法が好きだから、単純に火力が高い魔法しか使えないと。

 実際は多彩な魔法を操る、攻撃魔法のスペシャリストだったんだね。

 凄いなぁ燐火りんかちゃんは。

 僕の理想の魔法少女からは遠ざかっているけど……

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