第2話 魔法少女辞めました!

「ねぇ、燐火りんかちゃん。大魔導士フラム・グランデって誰?」

「これが私の憧れの大魔導士フラム・グランデ様だよ」


 燐火りんかちゃんがランドセルから一枚のイラストを取り出した。

 そこには魔導士の姿をした、おかっぱ頭の中年男性が描かれていた。

 こ、こんなのが燐火りんかちゃんの憧れ?!

 魔法少女に憧れようよ!

 可愛い女の子なんだからさ!!

 イラストの中年男性の謎の笑顔が小憎らしい。

 ここは話を逸らすしかない。

 魔法が好きな事には間違いがないんだ。

 好きな魔法の話題に切り替えれば大丈夫!


燐火りんかちゃんはどういう魔法が使いたいの? 大人に成長する魔法? 癒しの魔法とかも素敵だよね」

「わたしが使いたいのは『火』の魔法だよ!」


 燐火りんかちゃんが自信満々に言い放った。

 火炎魔法か……普通だな。

 今までの発言から、燐火りんかちゃんは魔法少女より、ファンタジー作品の魔法使いの方が好きだって分かったよ。

 それならファンタジーの魔法について話をすれば興味を引けると思う。


燐火りんかちゃんは定番魔法のファイアーボールが使いたいのかな? カッコイイよね。ファイアーボール!!」


 僕は右前足を突き出して叫んだ。


「テプちゃんは火の魔法を馬鹿にしているの?」


 燐火りんかちゃんが冷たく言い放った。


「えっ、燐火りんかちゃんは火の魔法を使いたいんだよね? ファイアーボール嫌いなの?」

「嫌いじゃないよ。でも、テプちゃんは火の魔法を初級魔法だって馬鹿にしているよね?」

「そ、そんな事はないよ。定番だとは思ってはいるけど……」

「テプちゃんは分かっていないね。火はね、偉大なんだよ。大魔導士フラム・グランデが言った。火とは人類が神から賜った原始の力だと。魔法とは力。力がもたらすのは破壊。破壊を成し得るもの……それが火であると。テプちゃんは聞いた事ないの?」


 あるかーっ!!

 恐るべし大魔導士フラム・グランデ。

 己の罪を自覚しろ!

 少女の人格破壊しているじゃないか!!

 ここは正統派の魔法少女になってもらって、歪んだ意識を修正するしかない!


「まず、魔法少女になってみようか? 魔法が使える様になったら人生変わるよ!」

「ホントかなぁ……」


 燐火りんかちゃんが僕の事を疑っている。

 分かっているよ、僕だって詐欺師の様な怪しい発言をしてるって自覚があるから。

 それでもゴリ押しする。

 僕の力で変身出来るのは愛と花の魔法少女。

 魔法少女アニメの主人公の様な可愛らしい衣装は、万人に愛されるものなんだから。

 燐火りんかちゃんが大魔導士志望であっても、一度でも魔法少女になれば意識が変わるハズだから!


「大丈夫! 魔法少女になれば、きっと色々な魔法が使える様になるよ!」

「分かったよテプちゃん。魔法使ってみたいから魔法少女になるね」

「ありがとう燐火りんかちゃん。今から変身方法を教えるから覚えてね」


 僕は燐火りんかちゃんに変身方法を教えた。


「さて、早速変身してみようか」


 僕が変身するよう促すと、燐火りんかちゃんが変身ブローチを胸に当てて叫んだ。


「チェリーブロッサムパワー、ブリリアントチャージ!」


 燐火りんかちゃんの全身を柔らかいピンク色の光が包んだ後、光が弾けた。

 光の中から現れたのはピンク色で花柄の可愛い魔法少女の姿をした燐火りんかちゃんだった。

 良し! 変身大成功!!

 やっぱり燐火りんかちゃんは魔法少女になる才能があったんだ!

 僕は喜んだが、燐火りんかちゃんは不満のようだ。

 燐火りんかちゃんが変身ブローチを引きはがしたので、変身が解けてしまった。


「いらない」


 燐火りんかちゃんが変身ブローチを僕に向かって放り投げた。

 僕は慌てて前足で変身ブローチを受け取ろうとした。


「えっ、とっ、ふぅ、危なかった! 大切な変身ブローチを落とすところだったよ」


 慌てていたので落としそうになったが、何とか無事にキャッチ出来た。


「じゃあね。おうち帰るから」


 燐火りんかちゃんが帰ろうとした。


「ちょっと待ってよ。可愛かったでしょ魔法少女の衣装! 変身ブローチだってこんなに可愛いのに! 可愛いのは好きでしょ?」

「可愛いとかいらないから! 女子が全員可愛い物が好きだと思っているの? 気持ち悪い」


 ショーック!!

 女の子に気持ち悪いと言われるなんて……魔法王国始まって以来の不祥事だよ!

 何が悪かったのか考えるんだ……そうだ!

 たぶん燐火りんかちゃんは子供っぽいのが嫌いなんだ。

 だから大人っぽい感じにアレンジすれば変身ブローチを使ってもらえるかもしれない


燐火りんかちゃんは可愛いのが苦手なんだね。それならデコレーションしよう」

「でこれーしょん?」

「そうだよ。変身ブローチに飾りをつけたり、色を変えてみようか。燐火りんかちゃんの好きな様にデコレーションして良いよ」

「面白そう。なら、ひゃくえんショップに行こう。ひゃくえんショップなら、わたしが好きなアクセサリーが沢山あるから!」

「うん、それがいいね。一緒に行こう!」


 僕は変身ブローチを燐火りんかちゃんに手渡した。

 本当は魔法王国アニマ・レグヌム伝統の変身ブローチを改造されるのは嫌だ。

 変身ブローチは僕の力の結晶で、僕のプライドそのものだから、存在自体を否定された様な気分になる。

 それでも燐火りんかちゃんが喜んでくれるなら良いかな。

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