混乱

 前線から遥か後方、56軍司令部の在るネイナート基地でもイオメンタ同様にタナム陣地の音信不通に起因する情報の混乱が起きていた。


 夜間に発生したらしいタナム陣地部隊の音信不通。

 さらにその後続けてイオメンタ前線基地の方向から黒煙が上がっていると言う情報が入ってきた。


 もしこれら二つがアラキバマによって起こされた物であった場合、敵のアラキバマに深く切り込まれてしまっているということになる。

 もしそうであればそれは56軍にとって非常にまずい戦況であることは間違いない。

 早くこれらの状況を確認してそれに対応する必要が56軍には発生していた。


 56軍の司令、エルスターは自らが率いる軍の幹部と共にそれらの情報の確認と対応について検討をしていた。

「タナム陣地、イオメンタ基地、どちらについても襲撃者の情報はまだあがってこんのか?」エルスターは今現在の情報を共有すべく秘書官と情報官に問いかける。

「はい。どちらもまだです。何分通信設備が完全に壊されているようで、状況の確認には直接向かうしかなく。」

「確認に獣兵じゅうへいは出しているのか?」

「ツァリアスを出しております。」

「ツァリアスでは足が遅すぎる。他になかったのか。」部下からあがってきた機体名にエルスターは歯がむ。

「今、この基地に残っていて自由がきく機体はツァリアスが幾らかあるだけです。最低限の守備隊を残して、搬送機やサーデュラス等を含め出せる機動獣兵きどうじゅうへいはあらかた今次作戦の追撃用にイオメンタから前にある陣地へと回しておりましたから。」

「連絡機は?」

「イオメンタ、タナムともに前線が近いために、アラキバマによる対空攻撃を考えると航空機による接近と偵察は難しいかと。実際、今般の作戦では対空の空白地と目される場所に後方進出をさせようとした輸送機がアラキバマの対空網に掛かり落とされております。おいそれと飛ばすことは難しいかと。」エルスターは自分の作戦が裏目に出ていることに内心で歯がみして、すぐさま次善の行動を立てる。

「ならば、ガズロベルダはどうしている? あれが一個小隊分あるだろう。航空形態があるあの獣兵じゅうへいならば、イオメンタやタナム近傍まで飛びそこから装輪走行で近づくことができる。対空を気にする必要はない。何故出しておらん。」

「はい。確かに稼働状態にありますが。あの虎の子の小隊は現在、指令が指示なされた後詰での遊撃のため待機を続けております。」

「今すぐ命令を変更だ。待機を解除。イオメンタとタナムの確認に向かわせろ。急げ。」エルスターの指示を受けて伝令が一人走る。その伝令が会議室の戸をくぐったのを見たエルスターは会議室内で大きなテーブルを囲む部下をぐるりと一瞥する。

「さて、諸君。私に上がってきている情報は以上だ。いまだ確定した情報は両陣地共に音信不通であると言うこととイオメンタのある方向から煙が上がっていること以外は何もない。ないが、イオメンタとタナムが何者かによる攻撃を受けそのような状況に陥ったと言うのはおそらく確定したものとして扱ってよいだろうと私は思うが異論は?」エルスターの発言に会議には沈黙が流れる

「では、この襲撃について皆はどう思う。我々が行っている作戦に対するアラキバマの反攻の可能性はどれほどあると思う?私はそうではないかと考えているが。誰か何かないか?」一人の幹部が手をあげた。エルスターは彼に発言を許可する。

「私は、指令がおっしゃるようにアラキバマと考えてよいかと考えます。」

「それはなぜだ。」

「今、この地域で我々56軍が敵対している勢力はアラキバマだけだからです。」事実を端的にその幹部は述べた。

「それ以外にも武装している者どもはいくらでもいるぞ。」それにエルスターは反論を出す。

「確かに、商人組合や都市毎に存在する自警団、非合法組織が存在しておりますが、それらの組織とは連絡員を互いにおいております。ですからそれらが反旗を翻すとなった場合は向こうに置いた者から連絡があがってくるでしょう。」幹部はよどみなく返答をする。

「各都市、組織に派遣している連絡員からの情報は?」その返答の中で気になったことをエルスターは担当官に尋ねる。

「それらしいものはなにも。また、こちらからの定時連絡に応答が途切れた者もおりません。」別の者がやはり、アラキバマかと独り言を発す。その発言が棹となり会議の流れは両陣地への攻撃をアラキバマからの攻撃としての行動を認める流れになっていく。

「将軍。我々と連携をしていない、我々に反感を持つなどして独立した民兵組織というものもこの地域にはいくつか存在します。」が別方向からその流れを遮る意見がでてくる。エルスターはその発言をした部下を凝視した。じっと。その視線に発言権を得たと感じたその部下は言葉を続けていった。

「そして、それらに対しては当然ですが連絡員は配置されておりません。アラキバマ以外にそれらの可能性も考慮された方がよいかと。」

「そういう勢力、民兵組織に我々の陣地や基地が攻撃できるほどの戦力があるとは考えにくいが。」それに対して反論があがる。

「確かに、私はそういう民兵の輩をここで相手をしたことがありますが奴らが繰り出した兵器の内で獣兵じゅうへいはツァリアスがせいぜいでしたな。」一人が地図の一点を指でさしながら民兵組織への疑問を補強する。

「その程度の戦力で攻撃準備を整えたタナムとイオメンタを麻痺させるような攻撃ができるとは考えられません。特にタナムにはかなりの部隊を寄せていたのです。」民兵組織による攻撃の否定に同調する声がいくつかあがる。その、民兵の戦力についての分析はエルスターも同意するものであった。

「もしや、民兵組織がアラキバマと手を組んだ?組んでいた?」ぼそりと最悪の推論が沸き上がる。

「可能性としてはあるが、奴ら民兵組織は個々それぞれの地域を自らのものだと主張し蜂起している。ゆえに私たちともアラキバマとも溝が深い。あり得るのか?」

「そのような動きがあった場合。商人連合の方から何かしらの情報が来てもいいはずだが。よもや商人連合も……」別の部下が最悪の想定を吐露する。

 エルスターは疑念と懐疑によって軍議の方向性がずれるのを感じた。彼は意図して机を何度か指で強く叩き会議を独り歩きさせ始めた部下達の視線と意識を自分に向けさせる。


「他に情報は何かないか?誰か新しい情報は上がって来てはおらんのか。」そのエルスターの問いに対する部屋の返答は沈黙だった。エルスターはこの誰がやったかと言う話は締めて次の話に移った方がよいだろうと考えた。

「よろしい。現時点で誰も情報を持ててない以上襲撃者、これに関しては確定した答えはないということにする。私たちが考えるべきはこの攻撃、発生したこの事態をどう収拾するかだ。」

「我々が何者かからの攻撃を受けていることは明らかだ。ならば、イオメンタまで来た奴らの次の目的は?目標は?次にどう行動をとるか。私は、奴らの目的はアカカマまでの打通であると考える。」エルスターはイオメンタの後方にあるアカカマの街に印を置いた。

「確かに、あそこまで進出してくる目的としてはそう考えるのが妥当でしょう。」

「私も同意します。そして、アカカマは商人組合が強いため我らの進出が甘い。その先、ラパイナムへの進路を確保まで視野に入れている可能性もあるかと。」エルスターの意見を肯定した部下はアカカマとラパイナムを結ぶ街道にいくつかのしるしを置いた。

「そうであることは確かに考えられる。その場合、どう対処する。」

「偵察結果で上がってくる敵の布陣によりますが。考えられる布陣は二つ。一つはこちらの陣地深くまですでに進出を許してしまっている場合。もう一つは制圧をしたイオメンタ周辺から彼らが移動をしていないまたは突破口を更に広く開口しようとしている場合。」発言した幹部は指で地図を示しながら言う。

「どちらの場合であったとしても、タナムやイオメンタ周辺をこちらが奪還することが肝要となるでしょう。後方遮断然り、殲滅然り。」

「奴らがとどまっていればそこで迎撃。さらなる進出を許していた場合でも補給を遮断することにつながる。確かにここらの扱いが重要ではあるな。」組み立てられる想定にエルスターは頷いた。

「折よく戦闘に長けたサーデュラスをタナムより前の前線に多数集中的に展開しております。」

「先ほど、エルスター指令が下されたガズロベルダの偵察に加え、攻撃作戦に当たっている部隊の後方から一部抽出して偵察部隊を編成しタナム、イオメンタに回してはいかがでしょう。こちらからガズロベルダを飛ばすよりも早くつくでしょう。並びにイオメンタからネイナート間に在るティメートとキィークスの二つの陣地からツァリアスを出してこれ以上の進撃を阻止してはどうでしょうか。」それに同意する意見がいくつも出る。

 エルスターもその考えに理があると感じた一人だった。

「戦力の分散は避けたいものだがな。致し方なしと言う所か。攻撃作戦の現況からタナムとイオメンタに向かわせることができる部隊の抽出を始めろ。今すぐだ。」エルスターは即指示を出す。

 かような話が展開されているネイナート基地。そこでは事実とは全く見当違いの方向での対応会議が続いていく。


 しかし、タナム陣地の殲滅もイオメンタ基地の混乱も、ただ一人の傭兵がただ一人の意志でただ一機の獣兵で以てしでかしたことなどという事実をたとえそれが正確にこの場に上がって来ていたとてネイナート基地の誰が信用するのであろうか。56軍が行っているの見当違いの会議も致し方ない事であった。



 そのネイナート基地の防空レーダーにトランスポーターでもって高速で接近してくる獣兵じゅうへいのサーデュラスが放つマーカーが映ったのはエルスターたちが行っている会議が踊っている真っただ中だった。そのマーカーはまっすぐにネイナート基地へと向かってきていた。

「サーデュラス?イオメンタ基地の?」ネイナート基地のレーダー担当は再度確認する。

「間違いない。イオメンタの所属だ。」レーダー担当は手順に従って上部に情報を上げ、その報告に指揮所がざわめく。まっすぐにネイナートを目指して飛ぶサーデュラスはほどなくして基地の通信範囲に入り向こうから通信を掛けて来た。

「こちらイオメンタ所属エンザイオ・パリアン少尉。エルスター総司令に伝令がある。つないでくれ。」

「伝令か? 聞いていないぞ。」

「基地が襲撃に合い通信施設が破壊された。そのためバルーノ隊長からエルスター指令への直接の連絡を頼まれた。併せてバルーノ隊長はこうもおっしゃっていた。エルスター指令宛ての特殊作戦についての報告であると言えばすぐに理解なさると。」その返信を聞いた通信兵は返信をする前に考え込んでしまう。

「特殊作戦?そんなものは何もないぞ。」特殊作戦という言い方に通信担当は頭をひねった。アラキバマへの攻撃作戦は立案実行されているがそれは正規のものだし、特殊作戦などというような別の作戦。そんなものは発動されてはいないはずだ。

 しかし、イオメンタが攻撃を受けたらしいと言うことを彼は知っていた。ゆえに通信担当は突如現れた獣兵の言葉を疑いきれなかった。

「指令は作戦会議中だ。今すぐは取次できない。」

「そうか。了解。」パリアンなるサーデュラスのパイロットは短く返すと通信を切った。

「あ、おい。まだ!」通信兵は一方的に切れた通信回線に対して再度呼びかけるが応答はない。

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