第25話 罪状
幸田真人の自白に基づいて飯田真二を墨田署が呼んだ。実行犯の幸田真人も墨田署に移送されていた。
山白警部が飯田の尋問を担当した。しかし、飯田はなかなか認めようとはしない。
「何回も訊くけど、お前が幸田に妻の殺害を料亭『桜屋』で指示したんじゃないのか?」
――山白警部はいい加減疲れていたが、刑事魂が飯田を追詰めずにはいられない……
「いや、奴とは何回かそこへ行ったことはあるが、殺人なんてとんでもない」
飯田は太々しく足を組み腕を組んで山白警部を睨みつけている。
「ほ~、じゃ彼は何であんたに指示された、なんて言ったんだ?」
「そんな事俺は知らない」
山白警部はここで突破口となるだろう質問をぶつける。――今に見ていろ!
「だけどな、盗まれた宝飾品の一つにあんたの指紋が見つかったんだ。どう説明するんだ?」
「店に顔を出した時触ったかもしれん」
山白警部の期待した答えが返ってきた。
「最近は何時行った?」
「先月かな」
「殺人事件のあった日とかその前日とかは?」
「そんな最近は行ってない」
「間違いない?」
「あ~、そこまで俺はぼけちゃいない」
――しめた! 飯田が言い切った。よし! ……
「ほ~、指紋の付いていた宝石は殺害された前日に入荷されたものだと納品書と業者の証言からはっきりしてんだよぁ」
山白警部は机をバンと叩いて自白を迫った。
飯田の眉がピクリと動いた。――よし! 一歩前進だ。
「それと、あんたが仁徳駿太に渡した犯行時に使えと言った服などが入ったビニール袋にもあんたの指紋が付いていた。あんた袋なんかすぐ破って捨ててしまうだろうと思ったんだろうが、彼は端からやる気は無かったんだ。ただ、実の親が言った事だから他人に話せず悩んだと話してくれたよ」
「……」
飯田が返事を返せなくなった。――もう一息だ。
「それと、盗難があった一月前だから殺人事件より前、新宿の鍵屋があんたの写真を見て鍵番号から合鍵を作ってくれと頼んだ人だと証言したよ」
山白警部は鍵番号を記載したメモの写しやその店の写真を飯田に見せつける。――どうだ! 参ったかっ!
「で、その鍵番号を控えていて確認したら仁徳駿太の部屋の鍵と一致した。いいか、お前の顔写真を見て間違いなくお前だ! と証言したんだぞ!」
そこまで言って山白警部は、仁徳のアパートの近くの監視カメラで写された仁徳の部屋で発見された鞄と紙袋を持った幸田真人の写真を置いた。
「……見ろ! お前が作った合鍵を持った幸田真人が、仁徳の部屋に絞殺した時に使ったロープと盗まれた宝石を隠したんだ! 裏は取れてるんだ! なんとか言ってみろ!」
飯田は暫くの間目をキョロキョロさせ何かを考えているようだ。汗も相当搔いている。
――くっそ~、何言訳考えていやがる。さっさと吐けや……
そして「……くっそー、とんだどじ踏んだ」と呟いた。
「どういう意味だ!」 ―― 落ちた?
「ちぇっ、そうだと言ってんだよ! あー、あんたの言う通りさ、殺れと言ったのも、宝飾品を盗めと言ったのも俺だ! だが、言っただけで手は出していないぜ」
――まだ言い逃れしよってか、だが、そうはいかないんだよ。
「そうかなぁ、宝飾品を盗んだ後、幸田はお前の車で幸田のアパートまで運んでお前に『ほとぼりが醒めるまで隠しとけ』そう言われて押入れに隠したと言ってるぞ! お前の車が写ってる監視カメラの映像もあるんだ! えっ、どうなんだ!」
ふんっと飯田は鼻で返事をした。
「それは認めるという事なんだな! 飯田! 認めるんだな!」
山白警部は思いっきり机を拳でガツンと叩く。
「うっせーな、そうだ! 俺の車を使った! これでいいだろ!」
「それから、宝飾店ビルのエレベーターホールで探偵を殴ったのはお前か? 幸田か?」
「あ~、それは俺だ。犯人に仕立てようとした男を尾行してるようなので殴って分電盤室に閉じ込めた」
「なるほど、凶器は?」
「車にあるスパナ―」
「それは? 捨てたのか?」
「いや、今も車にある。……そっかぁ、捨てれば良かった、それは傷害罪か?」
「それも、きっちり償ってもらうぞ!」
「けっ、そったら罪どうでも良い、好きにしろ!」
「飯田! 不貞腐れるのも今のうちだ。計画的な強盗殺人、しかも保険金殺人……それだけでも死刑若しくは無期って極めて重たい罪なんだよ! 娑婆にはもう戻れないって覚悟しとくんだな!」
山白警部の脅しに飯田は顔面蒼白となり「窃盗と殺人は別だろう?」弱々しく尋ねるが山白警部はにたりとするだけで何も言わずに取調室を後にした。
数分後、山白警部が課長への報告を終えて取調室に戻ると
「おい、トイレ行かせろ」と、飯田。
山白警部はじろりと睨んで、飯田に手錠とロープで逃走出来ないように処置したうえで若手刑事二人が飯田を挟むようにし、山白警部がロープを持って取調室を出た。
途中女子トイレから出てきた掃除婦がモップとバケツを持って向かってくるので、反対側に一列になってすれ違う。
先頭を歩く山白警部が掃除婦とすれ違った直後、ズブッと奇妙な音がして振り返ると掃除婦が飯田に身体をぶつけている。
「こらっ、何してる!」そう叫んで掃除婦を引き離すと、包丁が飯田の腹に突き立てられていて、飯田は呻き声をあげながら崩れ落ちた。
「あっ、何しやがる! 救急車!」と、叫び、慌てて掃除婦を押さえようと後ろから両腕を掴むと、掃除婦がぐるりと振向いて、もう一本の包丁を突き出す。
山白警部が一歩下がって「包丁を捨てろ! 何がしたいんだ」
と、怒鳴った瞬間、掃除婦は無言のまま自分の首に刃を当て、引いた。
血が天井まで飛び散り掃除婦は倒れた。
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