第3話 誰も味方がいない

「馬鹿にするなああああ!


人の夢を、踏みにじるなあああ!」


「これは、夢でもなんでもないわ。


これは、押し付けよ。


第一、その人にも、人権があるんだよ。


それを踏みにじっているのは・・・・・」


「うるさい!


うるさい!


黙れ!」


 そう叫び、怪我をして動けないバンピーロを撃ち殺してしまった。


「死ね!


この野郎!


はははははあはは」


 笑いながら、バンピーロを無残に撃ち続けた。


「バンピーロ!」


 バンピーロは血だらけのまま、目をつむり、返事がなかった。


「あはははははははは!


やった!


やったよ!


殺した!」


 近くにいた私にも、返り血が飛んだ。


「とても、人とは思えないわ・・・・。


君は、人なんかじゃない・・・・」


 私は槍を、元いじめっ子に向けた。

 いっそのこと、このまま刺してしまおうかな?


 私は、槍の刃先で銃を壊した。

 

「なっ・・・・!」


 このまま、槍で元いじめっ子の左腕を刺した。

 彼女は、左利きだったから。


「大嫌い・・・・!」


「あは、八つ当たり?」


「自分のしたことを、認めてなんだね。


教えてあげるよ。


君がしてきたこと。


今、目の前でしていること。


人殺し。


理解できたかしら?」


 私は槍を、元いじめっ子の喉に向けた。


「何をするつもり?」


「言うまででもないわ。


選択によっては、君の未来はないと思わばいいわよ。


なぜ、無関係の人を巻き込むの?」


「決まっている。


あいつの佐藤の怯えている顔を、反応を見たかったから」


「君の言うことは、理解できないわ。


この殺人鬼。


消えればいいわ」


「うちは、もう長くは持たない・・・。


さっき、銃で撃たれて、血もたくさん出た・・・・。


うちは、死ぬ前に佐藤に会いたかった・・・・」


「会えないわ。


死んでしまえば、そこまでよ。


諦めるってことを、いつ学ぶのかしら?


きっと、君は何十年もこの先で変わらない。


なら、地獄で天罰を受けることを祈るわ」


「あははははは・・・・」


 こうして、元いじめっ子のリーダーは倒れた。

 血だらけの状態で。


 私だけが魔法学校で生き残ってしまった。

 生き残ったのは、戦い抜いた私と、逃げ切った校長や生徒ぐらいかな。


 私は、その場を去ることにした。

 白のワンピースも返り血がかなりついたので、私は別の白のワンピースに着替えた。


 私は、また一人になってしまった。


 そうだ。

 私はこうして、また一人になる。


 二度と、あんな惨劇が起こらなきゃいいけど。

 そんな願いなんて、叶いそうになさそうだ。


「君の戦いぶりを見たぞ」


「君は、誰なの?」


 目の前には、浮いているピンクのペンギンがいた。


 ペンギンが、空を飛んでる?

 しかも、ピンクのペンギンなんて、見たことがない。


「驚かせてしまってごめんね。


おいらは、ペングウィー。


君は?」


「セリオよ」


「セリオっていうのか。


おいらは、ここで言う魔法精霊って言うけど、君は魔力も感じないし、匂いからしてみても人間だけど、まさかあんなに強いと思わなかったぞ。


この槍からも魔力も感じられないけど、君の強さの秘訣はなんだい?」


「わからないわ。


ただ、ひたすらに修行しただけで、強くなったから」


「だけど、あれはさすがに才能とかないと、ここまでは強くなれないぞ。


どうする?


おいらと契約して、パートナーになるか?」

 


「契約って言っても、何の契約をするの?


それに、これには何かしろの代償とかあるのでは?


悪いけど、そんな怪しい勧誘なんて、乗らないわよ」


「君には、目的や願いはないのかい?」


「あったとしても、それは君がどうにかする問題ではない。


私は、これから向かうところがあるから」


「向かうって、どこへ?」


「また、遠いところに行くのよ」


「おいらも、行く~」


 なぜか、すでに浮いているペングウィーもついてきた。


「歩くと森、森しかないのに、どこまで向かうんだ?」


「どこまでってことはないのよ。


ただ、ひたすら歩くだけ。


私は、遠いところに行ければ、どこでもいいのよ」


「家出か?


これって、家出少女の発言じゃないか?」


「それもそうね。


だけど、家出少女との違いは、帰る場所があるということね。


私には、そもそも帰る場所なんてない」


 このペンギンは、どこまでついてくるのだろうか?


 ピンクのペンギンなんて初めて見るというのもあるけど、魔法精霊というのが何なのかわからないから、余計に警戒してしまう。

 そもそも、魔法精霊って何?

 私、そんな精霊がいることすら、知らなかった。


 異世界だから、いろいろな精霊がいるのだろうけど。


「ついてこなくてもいいのよ。


私には目的とかないんだし、迷子になるだけだよ」


「大丈夫さ。


おいらは、君の父親にパートナーになるように言われたから」


 私は、その瞬間足を止めて、後ろにペングウィーがいるために振り返った。


「私の父親を、知ってるの・・・・?」


「多分。


なんとなく、君がその男の娘だった気がしたから。


佐藤っていうのも、聞いたし、おいらは一部始終の様子を見てたんだぞ。


ここで、確信を得たんだ」


「佐藤なんて、苗字はいっぱいいるのに、どこで確信を得たの?」


「人間でありながら、魔力を持ってないのにかかわらず、槍だけで戦い切るのは、間違いなくあの人の娘だって」


 彼の言っていることが、本当かどうか確証がない。

 だけど、私は真偽が気になる。


 人のことは、簡単に信用しないように生きてきた。

 生きてきたけど、そんな私でも、本当だと信じたい時もある。


「私の父のいる場所を、教えて・・・?」


 私は半信半疑ながらも、ペングウィーと名乗る生物に歩み寄った。


「いいとも。


そのための異世界案内人だからね」


「異世界案内人って、何の話?」


「そのままの意味だよ」


「言っていることが、変わっている。


君はさっき、魔法精霊っていう話をしていたんだよね?」


「何も矛盾することはないはずだ。


おいらは魔法精霊であり、異世界案内人。


もしかして、君は異世界に来た時のことを憶えていないのかい?」


 私はそう言われ、自身の記憶をたどった。


 幼い頃に精神病棟に入院した時に、看護師に「異世界に行かないか?」と言われて、気がつけば異世界に来ていた。

 だけど、どうやって来たとかは憶えていない。

 気がつけば、見知らぬ場所にとどりついていたんだ。


 はっきりとではないけど、具体的にではないけど、私は憶えている。

 幼い頃の記憶だから、もしかしたら何かと混濁しているかもしれない。


「・・・・・・・。


私は、人間の看護師に提案されたんだ。


君じゃない。


君はどこからどう見ても、人間じゃない」


「おいらの言うことを、忘れちゃったの?


異世界案内人って」


 私は、必死に思考をめぐらした。


 魔法精霊、異世界案内人。


 ということは・・・・。


「人間と、精霊の姿をふたつ持っているということ・・・・?」


「まあ、魔法精霊であるこのペンギンの姿がおいらの本来の姿だけど、実は人間の姿にもなれるんだ。


この通りにね」


 こうして、ペングウィーは人間の姿になり、看護師の格好をした女性に変身した。


「え?


ということは、つまり・・・・?」


 あの時の看護師は・・・・?


「あの時の、看護師はおいらだったということだ。


久しぶりだね。


君は、確か今はセオリっていう異世界ネームなんだよね」


 今、考えれば、看護師が異世界に転移させる能力を持っているわけがなかった。

 だけど、今の説明で合点がいった。


「さ、君の父親のところに行こう。


君も残酷な真実かもしれないけど、そろそろ話していい年頃だろうって」


「なんでもいいけど、私は父に会いたい」


 この先、ずっと会うことがないと半ば諦めかけていたところに、ようやく父に会えると安堵した。

 その残酷な真実が何なのかに頭が引っかかるけど、今はそんなことどうだってよかった。


 ペングウィーに案内されて向かった先は、酒場だった。


「これが君の実の父親だよ」


 だけど、目の前にいたのは、異種族の森に行くことを提案した酒場のオーナーだった。

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