第1話 また起こる惨劇

 私は夢も諦めていたし、希望も捨てきっていた。

 だけど、オーナーの「立ち上がってみないか?」という言葉に勇気をもらえた気がした。


「私、頑張りたい。


幸せって思える人生を見つけらるようになりたいの」


 今まで、逃げ切ることしか考えてこなかったけれど、私だって幸せな人生を歩みたいんだ。


「私、あいつらが恐れる存在になれるなら、何だっていいです。


何にでもなります!」


「なら、紹介してあげるよ・・・・」



 酒場のオーナーが紹介してくれた場所は、他種族が住む広大な森だった。

 オーガー、吸血鬼、エルフ、ドワーフなど空想上の種族と思われる存在が目の前にいる。


「すごい・・・・」


 私は、感動していた。

 これなら、追手はこれなくなるかもしれない。


「これは、これは人間であるね」


 目の前にいは、吸血鬼と思われる格好をした黒ずくめの男の人がいた。

 ここは、自分より戦力が上の相手なので、下手に刺激しないようにしよう。


「どなたですか?」


「わたくしは、ただの吸血鬼ですが、嬢ちゃんは?」


「私も、ただの人間です」


「槍を抱えているみたいだけど、戦闘武術を身に着けてきたのですか?」


「逆です。


戦闘武術を身に着けたいんです」


「ここは、修行場じゃないのですが」


「そんなことは、一目瞭然です。


私は強いパートナーがほしいんです」


「パートナーかあ?


嬢ちゃんが、吸血鬼になるって言うのなら考えてあげなくもないけど」


「吸血鬼になると、どうなるんですか?」


「まあ、無敵になりますね」


「吸血鬼は、日光に弱いと聞いたのですが」


「嬢ちゃん、そんな情報をどこから持ってきたのですか?


吸血鬼には、2種類あるんですよ。


その中の一つが、日光に弱いとかニンニクがだめという特性を持っているだけであって、わたくしはそれに該当しません。


現に、こうして昼間に活動できていることが何よりの証拠ですよ」


「吸血鬼さんは棺桶に入ったり、人の血を吸ったり、コウモリに変身したり、永遠の若さを持っていたりとかしなんですか?」


「嬢ちゃんは、聞いてみると知識が偏っていますね。


どれも、わたくしには当てはまりません・


棺桶なんて死人と勘違いされて、寝ている間に燃やされるようなことはしません。


人の血なんてとんでもないです。


意識、記憶のどれかを奪ったほうが効率的です。


こっちも、顔を覚えられたらたまったものじゃありません。


コウモリに変身するとか、手品師ですか?


永遠の若さなんて、あるわけないじゃないですか。


どんなアンチエイジングしても、細胞の老化は遅らせることはできても、劣化はしますよ」


 一方的に話す吸血鬼だけど、今の私はそんなことに動揺しない。

 過去にいろんな壮大なことを経験しすぎて、ちょっとしたことでは、動揺しなくなっている。

 それが、慣れっていうものだろうか?


「吸血鬼さん、これで君がこわくないってことがわかったわ」


 私は、静かに答えた。


 警戒心が緩くなってからは、敬語を使わなくなった。


「嬢ちゃん、肝が据わってないですか?」


「ええ。


私は同い年の子と比べて、落ち着いているってよく言われるけど、仕方のないことなの。


平凡な人生を、物心ついた時から送っていないの。


吸血鬼さんも、人生をどうしたいか選べたかしら?」


「選べる時と、そうでない時がありました。


ですが、嬢ちゃんの瞳のようにすべてを諦めきっているということはありません。


人生には、複数の選択肢があります。


それを、無駄にしたくないのです。


嬢ちゃんには、それが理解できますか?」


「理解できるか、できないかの二択で聞かれてしまえば、理解しづらいと答えるわ。


私に無縁な感情よ。


今の私は置かれた状況を、環境をどう乗り切るかなの。


だから、戦う手段をちょうだい」


「戦う・・・・ですか?


嬢ちゃんから、何の魔力も感じません。


一体、何を目指しているのですか?」


「自分の身は、自分で守れるくらいに強くなりたいの。


惨劇も、起こさせない。


ずべて、私の手で・・・・」


「復讐ですか?」


「私は、逃げたいの」


「逃げるですか?」


「逃げ切るために、戦いたいの」


「嬢ちゃんから、何の魔力も感じないっていうことは、何を意味しているかわかりますか?」


「私は戦わない方がいいということかしら?」


「そういうことです。


戦うことは、好ましくありません」


「私は、生きたい・・・・。


幸せな未来をつかみたい。


だけど、今のままでは幸せなんて訪れない。


だから、私には必要なの」


「嬢ちゃんの志は、認めました。


ですが、それはあまりにも無謀です。


仕方ありません。


嬢ちゃんには、吸血鬼の仲間を紹介しましょう。


そこで、嬢ちゃんが無謀すぎることをわからしましょう」


 私は吸血鬼さんに腕を引かれ、マントの中に包まれ、どこかに連れて行かれた。


 ついた場所は、お墓。

 ここについてから、吸血鬼さんは私を解放してくれた。


「こんなところに連れて、どうするつもりかしら?」


「どうもしません。


嬢ちゃんの好きなように過ごしてください」


「なら、好きにさせてもらうわ」


 どこからか、吸血鬼らしきもの達が現れる。


「人間だ」


「明らかに、人間の匂いがする」


「魔力は、持ってなさそうだ」


「こんなところに、何の用だろう?」


「何のようもないわ。


ただ、来ただけよ」


「まあ、人間が?」


「ママ、この女の子、すごっく美人だよ?


付き合っていい?」


「初対面でしょう?


見た目だけで付き合うのは、やめた方がいいわよ」


「それでも、この子がいいの」


 男の子が、私のところに近づいてきた。


「すっごく、きれいだね」


「ありがとう」


「何歳なの?」


「もうすぐで、11歳よ」


「僕と年近いじゃん?


結婚とか、考えてる?」


「まだ、結婚できる年齢でもないし・・・・」


「かわいいね。


行く当てがないなら、僕のところこない?」


「いいわよ」


「やったあ」


 こうして、男の子の家に泊まることになった。

 男の子の家も、シングルマザーみたい。


 男の子の名前は、バンピーロ。

 

 バンピーロと同じベッドで寝ることになった。


「近い・・・・。


寝息がかかる・・・・」


 私の心臓は、ドキドキしていた。


「いいでしょ?


これから、結婚するんだし」


「こんな約束、した覚えないんだけど」


「僕が今日、考えたんだ。


セリオちゃんの花婿になれたらなって」


「何、それ?


好きにしたら?」


 私の顔は、すでに赤くなっていた。

 こんな感情、生まれて初めてだった。


「顔、赤くなった。


かわいい~。


僕のこと、好きでしょう?」


「1歳しか年変わらないくせに、生意気。


でも、いいわよ。


結婚したげる。


ただし、条件があるわ」


「条件って?」


「私のこと・・・・、ずっと守ってくれる?」


「条件にするまでもないじゃん。


セリオちゃんのこと、好きなんだよ。


彼女だし。


婚約者だよ。


未来のお嫁さんなんだから、守らないわけないじゃん?」


「そうね。


条件にするまででもなかったわ。


すっごく、私が馬鹿馬鹿しいわ。


なら、高難易度の方がいいかしら?」


「高難易度とは?」


「私のパパを探して?


私は、生まれてから会ったことがなくて、ずっと見つけるための旅をしてきたの」


「写真とかあるの?」


「ない」


「これは、本当に高難易度だ。


でも、セリオちゃんのためなら、探してあげるよ。


そして、セリオちゃんのパパが見つかったら、結婚してくれる?」


「ここまできたら、結婚してあげてもいいわよ。


結婚でも、出産でも、何でもするわ」


「やったあ。


子供とか、何人ほしいの?」


「考えたことない。


バンピーロは?」


「僕もないかな?」


「あはは、おかしいね」


 私は、思わずふきだしてしまった。


「あ、笑った」


「いちいち、言わなくていいから」


 私は、布団に潜り込んだ。


 次の日からは、私とバンピーロで学校に行く。

 様々な種族が集まる学校に入学することになったから。

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