9 解放者

肉が焦げた臭いが神殿の中に充満する。

男は肉塊を少し離れた位置で見下ろしていた。


突如現れた招かれざる来訪者。

速度には眼を見張るものがあったが、ただそれだけだし自分も速度には自信があった。


実力的にはC級だろう。

彼女自身の実力は、先ほどまでの体の所有者の実力は、ただ今は違う。


『はぁ〜本日2度目の出勤ですか〜この子にも困ったものだわ〜まっいっか!この子のためなら、私頑張るわ。頑張れ私!』


一瞬辺りが真っ白く光ったと思えば

焼け焦げていた肉塊は

【超回復】エクストラヒールと呟き人間として立ち上がっていた。


自分がつけた傷はもうなく、陶器のような白い肌と絹のような白い髪はより輝いているようだった。


美しい容姿は見るものを魅了する。


先ほどまでの少しズレている残念な性格と脳内お花畑な雰囲気とは違って、

それはそれでギャップかもしれないが、

中身までも容姿にあった美しさを内包しているような神聖さを感じた。


「お待ちしておりました。解放者様」

男は片膝をつき胸に手を当て頭をさげた。


『ふ〜ん。

雷の馬鹿自身が憑いている訳じゃないのね。

貴方はただ内包者から与えられただけね。一部を。

まぁいいわ。

初めまして。そしてさようなら

【断罪の光】ディカスティース


小鳥の囀りのような声だったが、

最後だけゾッとするような低い声だった。


自身の命の終わりを感じた。

終焉の音が聞こえる。

決意を固め次の行動に移ろうともしたが、身体は動かなかった。

幾何学模様に光る地面。

膨大な光の奔流に包まれながら男は笑っていた。


『これで満足かしら。はやく出てきなさいな』

女は入り口の方を忌々しげに睨みながら吐き捨てるように言った。


「あらら、命を刈り取りおったか」


入り口から薄気味悪い笑顔を顔にはりつけた男が現れた。


『解放者。今はそう呼ばれているのね』

女は目を伏せ悲しそうに呟いた。


「人類を解放する事が私の使命だと、あの時そう感じたからな。まったく敬礼などしおって。気づかんフリをすればいいものを」


『違う!!貴方の使命はそうじゃないわ』


「託されたものを確かめるために今も君はその子に憑いているんだろう?

今だってその子を守るために自爆を選ぶつもりだった私の配下を消し炭にしたじゃないか」


『私はただ…選択の責任を取っただけよ。

責務を全うしているだけ』


「私だってそうだ。

人類の解放が私の責務。

そのために行動してきたし、今回のダンジョンクェイクだってそうだ」


『あの人は…違うわ、違うわよ。

そういう事を伝えたかったんじゃない!』


女の魂からの叫びが男を包み、男は顔を顰め、そして男に貼り付けられていた笑みは消え能面のように無表情な顔になり女を見ていた。


「私たちは共に相容れない立場と道のようだ」

男の威圧感が膨れ上がりドス黒いオーラが男から滲み出てきた。


『この子に危害を加えるつもりなら私は!』

女の身体は白く光り輝き真っ白い衣を羽織っているようだった。


「君の力の一片を感じ、君と話す事ができた。

それだけで充分さ。

もっとも、今の君になら勝てるかもしれない。

私と違って同一化出来てない今の君なら。

ただそれが今日の目的ではないよ。

すでに本来の目的は達成している。

次会う時は殺し合わないことを祈ってるよ。

さようなら。我が元盟友よ【転移】」


男の姿は消え、神殿内には女だけが取り残された。


『私はまだこの子に選択の責任を負わせる事は出来ないのよ』


悲しさを孕んだ女の囁きが神殿内にこだまするのであった。


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る