第210話 解釈

 Holding Out For A Heroは日本でもよく知られた曲であり、特にラグビーとの関連性が高い。

 また野球の応援でも、演奏されたことがあったりする。

 必要な楽器としては定番のものに加え、シンセサイザーが必要となる。

 純粋に楽器だけで再現するなら、管が必要になってくるが、そのあたりはシンセサイザーで誤魔化すことが出来る。

 実際に俊は出来たが、果たして花音がピアノだけではなく、そういった方面の技術まで持っているのか。


 正直なところシンセサイザーを使うのは、センスや才能よりも、技術と経験が重要だと俊は思っていた。

 どれだけの引き出しを持っているかで、出来ることがどんどん増えていくからだ。

 これはDAWなどのソフトで、作曲を行っている俊の世代には、ごく普通の技術である。

 そもそもボカロPというのがそういうものなのだ。


 今までの俊は、前だけを見てきた。

 前に進めばそれだけ、日本の音楽シーンのトップに近づいていた。

 だが徳島のミステリアスピンクや、MNRなどはほぼ横並びのミュージシャンである。

 そして花音の存在は、ネットにおいては昔から知られてはいたが、ついにメジャーシーンに現れた。

 たったの一日で、一気に追い抜かれたような気もする。


 ドラムの音から始まる楽曲。

 そしてキーボードが叩かれていく。

 いきなりバックコーラスがあるが、そこはベース担当のエイミーが声を入れる。

 やろうと思えば暁も、それぐらいはやるのだが。


 日本語版もあるのだが、玲の歌は原曲の歌詞である。

 ただイメージとしては、ボニー・タイラーのハスキーボイスよりも、日本語のカバー曲の声の方に近い。

 そもそも日本では、ジャニスもそうだがああいう濁ったハスキーボイスは好まれない傾向にあるのだ。

 そこが無垢であることを好む日本と、個性を尊ぶアメリカの違いであろうか。

 まだ高校生になったばかりの少女。

 しかしその声には、既に力が込められている。

 なんらかの鬱憤を持っていなければ、世界に対して戦えない。


 ドラムのリズムが目立ち、ピアノの旋律もある。

 ただこの曲であれば、暁の役割はそこまで大きくはない。

(ドラムのパワーとリズム、相当に上手いな)

 リズムキープをしながら、素早いところではしっかりと叩いていく。

 ベースはさほど目立たないポジションだが、そのドラムの厚みを増すように弾いている。


 ボーカルの玲も負けていない。

 彼女もまた、何かを表現しようとするアーティストなのだ。

 花音の旋律は早いリズムで弾かれていくが、そのキーボードの澄んだ音と、エネルギッシュな十代の声が和音となっている。

(なるほど、確かに上手いけど)

 管のところをどう処理するのか、と俊は考えながら見ていた。

 しかしそこでキーボードの花音は、アイコンタクトを暁に送ったのだ。




 サックス系の音を、ギターで代用しろ、という意味だろう。

 突然振られても、とは暁は思わない。

 瞬時にその視線の意図を察し、目立たないギターの音を、歪ませてリフを作り出してしまう。

 他のメンバーもボーカルが出来る。

 ドラムボーカルというのも、珍しいがいないわけではない。

 有名な例であると、イーグルスのホテル・カリフォルニアはドラムのドン・ヘイリーがメインでボーカルをしていて、他のメンバーはコーラスやハーモニーの部分のみだ。

 順番ではあるが元ニルヴァーナのドラマーであるデイヴ・グロールは、フー・ファイターズではギターボーカルのフロントマンになっていた。


 KCの血を引いているというだけでは、才能に溢れているとは言えない。

 だがジャンヌもまた、母親の音楽には触れていたのだろう。

 親とのつながりを音楽に求めてしまう。

 それは俊にとって、自分の姿と重なるところがある。

(ベースも重い部分をしっかり弾いてるな)

 あまりベースの目立つ曲ではないのだが、それでもないと音が軽くなってしまうのだ。


 充分にソウルフルな歌声で、玲は最後まで歌った。

 月子は無邪気に拍手をしているが、他のメンバーは千歳でさえも、少し難しい顔をしている。

「どうよ!」

「上手いよ。普通にメジャーレーベルが売り出してもおかしくないぐらい」

 俊の評価は正直なものである。

「だけど期待以上のものじゃなかった」

 そう、打ちのめされるとか陶酔に引き込まれるとかではなく、冷静に分析する余裕があったのだ。


 俊は敵に塩を送るタイプではない。

 だが音楽的に損失があるというのは、我慢ならないというアーティスト気質ではある。

 このまま彼女たちがデビューしたとする。

 それなりに売れるだろうし、あとは楽曲にもよるだろう。

「そんなこと言うぐらいなら、もっといい演奏出来るわけ?」

 ぷりぷりと怒る玲に対して、俊は醒めた気持ちになっている。

「そうだな、なんと説明したらいいのか……」

 一緒に演奏していた、暁の方を見やる。

 髪ゴムを取ることもなく、さらりと上手く最後まで弾いてしまっていた。


 管のところのパートを、ギターにアレンジしたのは、咄嗟の判断ではあったろう。

 千歳には出来ないことであり、果たして彼女たちの中に、同じことが出来る人間がいるのだろうか。

 才能や能力ではなく、暁のこれは蓄積だ。

 ずっとやってきた音楽と、聴いてきた音楽が積み重なって、瞬時にアレンジをしてのける。

 だがそれは小手先の技術であり、暁のエモーショナルな部分に関わるものではない。


 信吾と栄二にしても、確かに彼女たちの上手さは分かった。

 演奏技術のレベルは、絶対的に高いものがある。

 確かに俊の言った通りで、すぐにデビュー出来るだけの能力はあるだろう。

 しかしその能力を、ステージの上で活かせるのか。

「説明しても、言葉では分かりにくいかな。ちょっと代わってみようか」

 花音は素直に、俊に場所を譲る。

 そして暁以外は、ノイズのメンバーに場所を譲る。

「何やるの?」

 千歳の質問に、俊は答えた。

「同じものを。ただし、バラードで」




 俊はこの曲が好きなので、曲の要素を色々と分解して、再構築したりしている。

 名曲の中には必ず、特徴的なメロディやリフがあるものなのだ。

 それをどう発展させるかによって、新たな曲が生まれることもあるし、途中でお蔵入りになることもある。

 またアレンジに関しては、俊は多くをこなしてきた。

 アレンジすることが勉強のようなもので、80年代のアニソンなどを弾いたとしても、ノイズの音楽はもっと厚みがあるものとなっている。


 同じ曲を、バラードで。

 言葉の意味をジャンヌが、エイミーに対して通訳している。

「英語で歌うのは難しいから、日本語版で歌わせてもらうよ」

 俊の視線を受けて、月子は頷く。

 これは発表する予定のないアレンジをした曲だ。

 そもそも原曲があるので、つまるところ金にならない曲なのだ。

 あるいはライブなどでは、やってみるのもいいかもしれない。

 だが少なくとも、音源として発表するつもりは全くない。


 始まりはドラムから。

 だがリズムを刻む音は遅く、そして静けさを感じさせる。

 俊もシンセサイザーのキーボードで、音を飛ばしてゆっくりと弾いていく。

 メロディラインは消えないように、しかし転調して完全にバラードへと。


 月子が歌い始める。

 印象的なコーラスはなく、暁はリズムを弾き、暁のメロディも小さく繊細なものだ。

 あの曲は本来ならば相当に、パワフルなものである。

 だからこそスポーツに使われたりもするのだが、このバラードは完全に、R&Bに落とし込んだものになっていた。

 凡人が技術を蓄積し、そして作り変えた曲。

 もちろんこれをオリジナルだ、などというつもりはない。

 しかしあえてバラードにすることによって、彼女たちは自分たちにまだまだ不足していることに、気づくのではないか。


 下手に大金を積んで宣伝し、デビューさせたとする。

 だがそのままではおそらく、ポテンシャルに相応しい領域にまでは達しない。

 音楽業界というのは厳しい世界で、実力があるのにタイミングが悪いと、売れずにそのまま沈んでいってしまう者たちがいる。

 俊は失敗だけはしないように、このバンドをゆっくりと育てていった。

 それでも充分すぎるほど早く、この領域にまでは達した。

 武道館公演。

 多くのミュージシャンにとっては、憧れの舞台であるだろう。

 しかし俊とノイズにとっては、まだ通過地点である。


 花音が東京ドームでデビューしたのは、確かに実力もあった。

 歌唱力はあの、ケイトリー・コートナーに匹敵するか上回るほどであったのだ。

 またその生来の声質も、唯一無二に近いものだ。

 だがそれでも、今ならノイズで、彼女たちに勝てる。




 月子のボーカルに、千歳が合わせていく。

 完全にバラードテンポではあるが、遅すぎるというわけでもない。

 しっとりとした空気で、遅いからこそ逆にドラムのテンポも、合っていないと目立つスピードだ。

 それを栄二はしっかりとキープする。


 リードギターの旋律が、まさにバラードになっている。

 暁は激しいロックやメタルだけが得意なわけではないし、そもそも初期のロックには普通にバラードがあるし、ポップスに近い。

 千歳はリズムギターを、完全に一定に保っていた。

 ベースの信吾もそうで、ドラムが完全に安定しているから出来ることだ。

 キーボードの俊も、完全にそれに合わせている。

 全ては月子の歌を引き出すため。


 これがノイズのアレンジである。

 ある程度はやっていても、即座にお互いが対応出来るのは、数千時間の練習時間を共有したためだ。

 聞く者が聞けば、はっきりと分かるだろう。

 蓄積された音の重さが、明確に彼女たちとは違う。

 あえてアップテンポではないバラードにすることで、それを分からせたのだ。


 演奏が終了すると、アメリカンな二人は拍手をしていたが、花音は茫洋とした表情をしていて、玲は難しげに眉根を寄せていた。

「……あっちの方がすごい」

 花音の言葉を、玲は否定出来なかった。

 なんだろう。単純な技術やパフォーマンスではなく、もっと根本的なところが大きく異なる。

 言葉にすれば、どう表現するのが正しいのか。

「あっちの音楽の方が、重い」

 あえてブルースの利いたバラードにしたのだから、それは当たり前のことではある。


 そう、花音たちの演奏は、悪い意味で軽かった。

 もちろん世の中には軽い音楽を求める者もいるし、BGMならそれで充分。

 ノイズのバラードで踊れるかというと、そんなことはない。

 しかし問題は、お互いが演奏を聴いてみて、どう思ったかなのだ。

 特に両方で演奏した暁には、はっきりと優劣が分かっている。


 彼女は本来、ハードロックの中でも分かりやすい、早弾き傾向の高いメタル系を好む。

 音も歪ませて、メロディアスなものをオーディエンスに届ける。

 だが今回の演奏の場合、重視するフィーリングは、バラードの中にこそあった。

 愛を歌う楽曲であり、本来は激しいものだ。

 それをバラードで取り出してしまうあたり、俊のセンスも相当に磨かれてきている。




 音楽性については、純粋に経験不足と言えるだろう。

 それとバンドの音が、合わせにいっている。 

 合わせてはダメなのだ。自然と合わなければいけない。

 上手く合わないのなら、それはバンドとしての欠陥があるか、純粋に練習量が足りない。

 これは演奏からボカロPになって、またバンドに戻ってきた、俊でないと分からないものかもしれない。

 遠回りをしたことによって、多くの経験を積むことになった。

 ノイズとしての活動は、まだたったの二年間にも満たない。

 だがメンバーの多くは、それぞれが自分の音楽を既に持っていたのだ。


 メンバーを揃えるのでも、性別と年齢で判断したのが彼女たち四人と言えるなら、それは甘い考えだ。

 ノイズはとにかく、必要なメンバーを集めていった。

 その、他人の才能や能力を正確に把握する、そういう能力。

 経験からの蓄積にもよるのだが、俊の力はその点では、相当に優れている。


 東京ドームではケイティがいて、そしてバックで演奏する人間も完全なプロフェッショナルであった。

「というわけで、今のままじゃ通用しないし、あと致命的な点はキーボード」

 ハードロックをやるならいいのだが、今の流行はロックにおいても、電子音を多用するということだ。

「サックスパートをアキに渡してたけど、あそこはシンセサイザーを使いこなさないと」

 ピアノには慣れているのだろうが、生ピアノとキーボードは鍵盤の感触が完全に違う。

 今はそのあたりの調整も出来るものもあるが、あの曲には電子ピアノであるキーボードでないと難しいパートがあったのだ。


 ここの技量は確かに高い。

 充分にプロで通用するレベルである。

「だけど今のままなら、音源として作るならともかく、ライブコンサートでは通用しないと思う」

 俊も語りながら頭の中でまとめていたのだが、暁もうんうんと頷いているので、的外れではないのだろう。


 天才たちを集めただけで、素晴らしいバンドになるのか。

 それなりの演奏は出来るだろうが、重要なのはそこで化学反応が起こるかどうかだ。

 ビートルズはメジャーになる前には、ドイツで武者修行を行っていた。

 地元以外でも演奏して、客のシビアな反応を見てきたのだ。




 かなり厳しい意見であるかもしれない。

 だが的確なものであり、俊としては才能が無駄に消費されるのは避けたい。

 確かにこの巨大な才能たちが、成長すれば脅威になる。

 だが音楽というのは、単純に勝ち負けだけが重要なのではない。

 一つのグループ、一人のミュージシャンが、独占してCDを売りまくっていたわけではないのだ。


 一定数の、アーティストやグループが、時代のムーブメントを作る。

 対決し反発するのではなく、共鳴して相乗効果で高みに昇る。

 もちろん圧倒的に実力が劣っていれば、そこで叩き潰される。

 だが俊はノイズのパワーなら、対抗出来ると確信した。

 彼女たちはラスボスではない。

 お互いに高めあうために必要な、ライバルである。


 もっとも今の段階では、彼女たちの演奏のほうが、圧倒的に足りないものが多い。

 技術的には既に、何も問題がないだろう。

 花音以外にも歌える人間がいるというか、四人全員が歌えるという。

 ただ前にも言われているように、花音は楽器を演奏しながらでは歌えない。

 これは欠点というか、音楽の幅を狭める要素ではあるだろう。


 音楽の方向性も問題だ。

 ハードロックやメタル、もしくはグランジでいくというのでもなく、現代のEDMを含めたものを演奏するなら、シンセサイザーか打ち込みの出来るエンジニアが必要だ。

 それはレコード会社なり事務所なりが、普通に探してきてくれるだろう。

 ただこの四人でやりたいと思っているのなら、それはそれで分からないでもない。

「親御さんや針巣社長は、そのあたりどう言ってるんだ?」

「……最初は花音単体で売った方がいいって言ってた」

 まあ、それは成功するだろう。

「花音は顔出ししてなかったし、こっそりとバンド活動をしてもいいんじゃないか?」

 ちょっと契約の問題が出てくるかもしれないが、花音が演奏に集中するなら、声でばれることもない。


 玲はギターボーカルが出来る。

 そこにベースとドラム、そしてキーボードもいるわけだ。

 あるいはキーボードをなくして、玲がギターを弾きつつ、花音にボーカルを任せてもいい。

 ギターとベースとドラムというのは、ものすごくシンプルな形態である。

 QUEENもツェッペリンも、その構成なのだ。

 ビートルズはちょっと、ギターボーカルとベースボーカルがいるが、ポールはピアノで弾き語りもやっていることだし。


 五人目を集める必要はないかもしれないが、ともかくまだどういう形で演奏していくのか、それすらもまだ確定していないと言えるだろう。

 未熟と言うよりは、未成熟と言うべきか。

 それぞれの実力は充分なのに、最大限発揮する形が分かっていない。

 あまりにももったいない状況だ。これで売り出すのは無理がある。

「あのさ、四人って、年齢はいくつなの?」

 ちょっと関係のないことであるが、空気が重たくなっていたところで、暁がそんな質問をした。

「……あたしと花音が15歳で、ジャンヌが一つ上、エイミーが二つ上です」

「若い……」

 思わず栄二は口に出していたが、彼もまだぎりぎり20代ではある。

「信吾君と栄二さん、同じ年齢だった頃の自分と彼女たち比べて、どう思う?」

「……比べ物にならないぐらい、そっちの方がクソ上手いよ」

 信吾はそれを認め、栄二も頷いた。


 暁はある程度、彼女たちを慰めようとしているのか。

 ただ二年前の暁は、既に彼女たちのレベルに達していたと思う。

 暁が磨いてきたのは、技術的なことではない。

 ギターと語り合うことによって、音に感情を乗せることを重視してきた。

「一度、お客さんの前でライブしてみたら? スパイラル・ダンスなら問題なくOK出ると思うし」

 あそこは初心者御用達のため、確かにこのレベルならば合格はもらえるだろう。




 俊は彼女たちは、今はとにかく大量に、聴かれることをすべきだと思う。

 ライブが全てじゃないぞ、というのはボカロPにとってはよく言われることだ。

 しかし彼女たちに不足しているのは、まさにそのライブ感だ。

 ただベースのエイミーだけは、そのベースのしぶとさがオーディエンスを意識していたような気がしたが。

 アメリカでは普通に、ステージに立っていたのかもしれない。

 ぱっと見て黒人に見えるエイミーがベースを弾くというのは、まさにファンキーな感じがするだろう。


 彼女たちは多国籍軍である。

 エイミーの血統の複雑さは一番だが、他の三人も全員、祖父母の代までに二つ以上の国と人種の血が入っている。

 それが本当に音楽に影響するのか。

 自分のルーツを探っていくというのは、音楽において重要なことだ。

 ステージに立って、四人で演奏して、初めて見えてくる光景はあるだろう。

 ライブには音だけではなく、映像だけではなく、五感の全てが存在するのだ。


 彼女たちに手を貸すようなことは、ノイズの損になることではない。

 こういった才能が後ろから追いかけてくれば、自分たちも加速していく。

 ただ事務所やレコード会社と、どういう契約をしているのかは知らない。

 だがあの楽屋での一幕を見ていた俊は、おそらく針巣も、このままでは問題だということが分かっていたのだと思う。


 鮮烈過ぎるデビューを果たした。

 しかしケイティによる引き上げはともかく、母親の正体までも明かしてしまうのは、やりすぎではなかったか。

 この時点でリスナーの期待は、かなり高いところまできてしまっている。

 そこに凡百な楽曲で飛び出ていったら、逆に集中砲火を浴びるだろう。

 アーティストの中には、繊細な人間も多いのだ。

 また最年少が15歳というのは、まだ弱すぎる年齢である。

 男なら15歳は、もう元服してもおかしくないので、タフであれと強制することも出来るだろうが。


 だが俊の言っていることも、暁の言っていることも、外部からの意見に過ぎない。

 彼女たちがこれをどう受け止めて、周囲とどう相談するのか。

 花音を売っていくのか、それとも四人のつながりを重視するのか。

 最終的に決めるのは、彼女たちになるのではなかろうか。

(現状だと花音の足を引っ張ってるだけなんだよな)

 さすがにそこまで、正直に言えない俊は日本人である。


 迷う少女たちに、俊は提案する。

「せっかくだし、俺たちの演奏をもっと聴いてみないか? まだ出していない曲もあるから、ぜひ感想を聞きたい」

 これは確かに、才能を確実に持つ人間が、どう評価するのかは知りたいものではあったのだ。

 四人はそれぞれ頷いた。

「何を演奏するんだ?」

「そうだな、まずはカバーから入ってみるか」

 俊が弾いたのは、ピアノのソロから始まるイントロ。

 千歳が嬉しそうな顔をして、まずは自分のパートだな、、と月子に対して主張した。

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