第204話 いつかは
「大阪って新幹線停まらないんだね」
「そうやで。京都は停まるんやけどね」
千歳の何気ない疑問に対して、月子がわざわざ関西弁で応じた。
これはツアーの二場所目、大阪での会話である。
淡路島で生まれて、京都で高校の三年間を過ごした月子は、魂がある程度は関西人である。
新大阪で新幹線を降りたノイズのメンバーは、そのまま翌日の会場へとまず向かった。
最低限の手荷物だけを持って、ノイズメンバーは新大阪駅で降りたのだが、暁のみはしっかりギターをハードケースで持ってきていた。
「レスポールはヘッドに角度がついてるから、こつんと簡単に折れるんだよ。電車で運ぶには最低でもセミハードケース。可能な限りハードケースで運ぼうね」
「お前、誰に言ってるんだ?」
宙に向かって呟いていた暁に、信吾もまたツッコミを入れる。
まあ、確かにレスポールは、そういうギターなのは間違いないのだが。
しっかりと梱包された状態で、車で運ぶ方が安全である。
それは分かっているのだが、分かっていても手放せないのが愛器というものだ。
「そういえばまた新学期になったら、部活紹介で演奏するの?」
「するんだろうけど、もうアキがいないからなあ……」
暁は通信制に編入が決定したため、もう三年生からは学校に行くことはない。
芸能科の高校に転入ということも考えたのだが、あちらは陽キャの巣窟っぽくて嫌だったのだ。
千歳が他の軽音部員と、オリエンテーションで演奏をする。
かなりのレベル差が顕著になるだろう。
俊としてはノイズの名前を広げるためなら、いくらでも活動してくれて構わない。
そもそも最初は草の根的な、地道なライブ活動をしていたのだし。
ただサリエリのフォロワーや、信吾のファンなどから、ある程度はスタートダッシュに成功している。
最初から知名度がある程度高いのは、成功のためには重要である。
その最初からの知名度というのを得るのに、凡百の人間は苦労するのだが。
暁は暁で、大学には進学するつもりはなかったが、自分でギターを作れるようにならないかな、という方向に行ってしまっている。
ブライアン・メイは偉大だが、暁のスタイルとはかなり違う。しかし究極のところ、自分の楽器まで自分で作ってしまうのが、ミュージシャンの到達点かもしれない。
骨一本折ってしまえば、野球のピッチャーは引退である場合もある。
同じようにギタリストも、手を怪我することによって、弾けなくなったりもする。
そんな時にギタークラフトの腕があったら、などと俊は思った。
暁のロックな人生にも、少しぐらいは保険がかかっていてもいいだろう。
もっとも暁はそれなりに、作曲の才能もあるのだが。
迎えにきてもらったバンに乗って、一行は会場の下見に向かう。
今回の会場のキャパは、三つの会場の中で一番大きい。
2700人も入るのだから、チケットがはけるのか不安になるのも確かだったろう。
しかし大阪の場合は、京都や兵庫といったところからも、客は集まってくる。
東京ほどではないが、日本第二の集客圏であるのだ。
大きなホールには二階もあって、席によってチケットの料金が違う。
これはノイズのやってきたライブにおいては、珍しいことである。
基本はスタンディングでしかやっていないが、こういうコンサートホールを使うとこんな場合もある。
武道館にしても、どうせ全員立つには違いないが、座席はちゃんとあるのだ。
「本当はこういう音響のところでやりたいんだけどな」
俊としては純粋に音だけを考えるなら、最初から音響を考えて設計された場所の方がいい。
しかしロックというのは、単純に音だけのライブではない。
スタイルであり、エンターテイメントであり、フィーリグなのだ。
バンドのライブとしても使われるため、ある程度の設備もある。
しかしモニター代わりの映写なども考えると、前日の設営が大変なものとなる。
これはちょっと自分たちでは無理である。
ホールを後にした月子は、少し考えていた。
「俊さん、いつか淡路島でライブとか出来るかな?」
「あ? ああ、淡路島か……」
月子は淡路島で生まれ、少女期の多くは東北で育ち、また関西へ戻ってきた。
基本的には関東圏の人間ではない。
生まれてからの幸福な期間は、主に故郷にある。
自分のルーツというのを、人は求めてしまう傾向がある。
俊のような東京生まれの東京育ちには、ちょっと共感出来ないところなのだが。
以前にも少し、ツアーの時に話はした。
淡路島は橋でつながっているため、それなりに人は住んでいる。
またライブの出来る場所も、普通にあったりする。
ただここにノイズのライブを聴くだけの、ファンがいるかは疑問である。
そして近隣から、ここまでライブのためだけに、わざわざやってくるものか。
ルーツを辿るということは重要だ。
多くのミュージシャンが、自分のルーツから音楽を生み出している。
そもそも今のポップスは、白人の音楽が黒人音楽を取り込んだところから、発展したと言える。
今でも本当のブルースなどは、黒人がやってこそなどとも言われる。
そこは俊の場合、あまり信じてはいない。
クラシックで活躍する日本人がいるからだとも思えるが、ロックからつながる音楽はクラシックより、ずっと感覚的だとも思う。
もっともクラシックでも、やたらダイナミックな演奏は普通にあるが。
俊のルーツは、父の音楽である。
だが今の俊はもう、父の音楽からは抜け出している。
そのさらに元の、洋楽の60年代から80年代。
それに月子の民謡をも取り込んでいる。
月子の場合は東北で主にやっていた三味線だが、その音はどこか暖かい。
それでいながら激しくも思うのは、この淡路島という土地の記憶が、根底にあるからなのだろうか。
ノイズの中では厳しくハードロック全盛というタイプは暁である。
しかしそこからメタルまでが彼女のパッションで、オルタナからグランジというのは、少し外れている。
ニルヴァーナなどの方向性自体は、とても好きであるらしいのだが。
いつかは、淡路島でも。
「もっと有名になって、年間のイベントの一つとして、淡路島でやりたいな」
その気になればそれなりの、イベントをするだけの建物はある。
だがそこをライブ用にセッティングするとなると、また費用がかかってくるだろう。
このツアーを見ていて、俊は費用の内訳などを阿部に見せてもらっている。
やはり金をかけて、そしてその金によって給料を払って、大きな動きになっていく。
自分たちのバンドだけが儲けるなら、それこそ300人までのライブハウスでいい。
しかし大きなアリーナや、それこそ武道館でやるというのは、関わる人間も多くなっていくのだ。
雇用を作り出すということだ、とまではさすがに俊は思っていないが、多くの人との関わりが増えていくのは感じている。
前回の大阪ツアーは、地元の人気バンド竜道との対バンで行われた。
それからほぼ一年、はるかに大きなハコを、ワンマンで埋めてしまっている。
大阪の客のパワーは、関東のものとはかなり違う。
もっともそれを言えば、ある程度の地域性は他にもあるのだ。
同じ関西でも京都などは、比較的おとなしいものがいる。
大阪はヒップホップやラップなどの系統が強く、世界的に見ればむしろこちらがメインストリームだ。
ロックをやるにもポップスをやるにも、そういった要素を入れてくる。
だがノイズのやるのはハードロックでありメタルでありグランジであるのだ。
もっとも70年代ぐらいまでの洋楽は、本当に路線が様々な方向に向かっていた。
それを原点とする俊や暁、信吾や栄二なども、時代性をあえて無視しているところがある。
現在の同時代性の音楽は、共感性が高い。
俺の音楽を聴け、という自己主張が弱く、ヒップホップなどはメロディラインは似ていて、あとはメッセージ性をどうするかが問題だ。
日本のシティポップなどが今さら聴かれているというのも、あの時代の個性が強すぎないメロディが受けているのだろう。
そんな中で、時代を無視したハードロックをやっている、とノイズは理解されやすい。
だが実際にはボカロP出身の俊が、どういう部分が受けるのかをちゃんと調べている。
核になる部分は、まさに魂がロックなのである。
ただ演奏技術については、暁が代表するようにメタル的な技術がある。
その暁の衣装は、完全にグランジ系であったりして、まさにごった煮。
ノイズというのはその名の通り、時代に生まれた一つの雑音ではあろう。
あとはその雑音が、世界が無視できないぐらいにまで、大きくなるかどうかが成功への道だ。
大阪のノリというのは、全体的にやはり関東よりも激しい。
なので演奏曲にしても、ノイズのスタンダードであるロックからメタルが多い。
もっともそれだけだと息切れするので、カバー曲をやったりもする。
それこそまさにグランジの代表である、ニルヴァーナのSmells Like Teen Spiritを千歳が歌ったりする。
商業ロックに終止符を打ったと言われるこの曲を、感情で歌う千歳が発するというのは、皮肉なことであるのかもしれない。
ここから一気に、テンションを70年代のスピードに持っていったりする。
みんな大好きタフボーイは、どのライブでもノリがよくなるのでありがたい。
二時間のステージであったが、アンコールが何度もかかって結局、26曲も演奏してしまった。
これはMCで時間をちゃんと、空けるのを失敗している。
さすがに楽屋に引き上げてきた時、俊でさえもが椅子に座り込んだ。
「床が冷たくて気持ちいい……」
簡単に洗える衣装の暁は、遠慮なく寝転がっている。
やってきた阿部も、完全に呆れていた。
前回と違ってお客さんのノリが良かったので、ペース配分を考えずに突っ走った。
主に暁と千歳が悪い。
ただ俊と栄二も、ペースを落とそうとしなかったのだ。
これまでのワンマンライブの中で、一番客数が多かったというのもある。
だが武道館は、一万人である。
本当はあと4000人ほど入るのだが、ライブ用の設営をすると、どうしても裏側の座席は見えなくなる。
完全にステージだけを中心にするのは、音響の面から不可能なのだ。
「また無茶なことを……」
阿部が楽屋にやってきて、その様子を見ていたりする。
「今日は俊君もグロッキーなのね」
「だってアレンジ多いから、それに合わせるの大変だったし……」
リードギターが暴走すると、リズム隊や打ち込みは大変になるのだ。
ただアドリブに応じて合わせられるあたり、やはり練習の多さがリターンを生んでいる。
ダウンしたノイズの楽屋には、竜道のメンバーが顔を出しに来たりもした。
音楽性はけっこう違うが、今日のライブは熱狂という点では竜道の目指すものと同じだ。
しかしもはや、打ち上げをする体力すら残っていいないノイズのメンバーたち。
魚河岸で並ぶ魚や、パイプ椅子に座って燃え尽きている面々に、声をかけることもなく去っていく。
「めっちゃ上手くなっとるやん」
「上手いんじゃなくて凄くなっとる」
「それな」
技術的なものは、あまり意識しないのが竜道である。
レコーディングは技術が重要である。
もっともライブ版の音源などというのも、世の中には普通に出回っているが。
そのライブの与えた印象が、竜道には成長と見えたのだ。
前は確かに、スキャンダラスな曲などを使って、インパクト重視であった。
しかし今回は、普通の演奏が充分なインパクトを持っていたのだ。
竜道のメンバーが来たことを、阿部は後からノイズのメンバーに話す。
あちらもあちらで、大阪を拠点としながらも、売れるようになってきている。
地元に愛されはしているが、ちゃんと全国区の音楽にもなったのだ。
そのあたり情報化の社会では、いいものは普通に地方から出てくる。
徳島が言っていた、福岡のGEARというバンドもその一つであろう。
ビジネスホテルに放り込まれたメンバーは、そのままベッドで気絶したように眠った。
幸いと言うべきなのか、女性陣のメイク落としなどは、ちゃんと専門のスタッフがやってくれている。
朝のラウンジに集合して、これからもう帰還である。
「いつかさあ、もうちょっと大物みたいなスケジュールでツアー出来るようになったら、京都の観光案内とかしてほしいなあ」
千歳がそんなことを言うが、月子としては悩ましい。
「京都は観光地だけど、あんまり観光には向いてない」
バスも地下鉄もあるが、バスは時刻表が全く当てにならないのだ。
京都で意外と観光に適しているのは、自転車であったりする。
少しだけギアチェンジがついている自転車なら、市内をかなりの速度で巡ることが出来る。
もっとも車線を走るのは難しく、上手く自転車道のある道を行く必要がある。
月子も高校時代は、主に自転車を使っていたものだ。
東京だと移動手段は、自転車さえあまり使わなかったりする。
特に楽器を持って移動するなら、事故の危険は絶対に避けなければいけない。
「あたし自転車乗れない」
意外なところで明らかになる、暁の弱点である。
「大人になってからだと苦労するから、今のうちに練習しておけば?」
そんな俊も東京ではあまり自転車に乗らないが、昔はあちこちに旅行に連れられていったため、そこでの移動手段として普通に乗れるようにはなっている。
仙台出身の信吾や、埼玉出身の栄二としては、自転車を使わないというのが驚きである。
もっとも自転車に乗れる千歳でも、そういう人間はそこそこいるな、と思ったりした。
暁の場合はそもそも、移動時にギターを持つことが多いため、自転車という選択肢が最初からなかったというべきなのか。
もしもギターを運ぶ場合は、普通に徒歩と電車であったし、アンプまで運ぶ場合は父が自動車を出していた。
京都でもまたいずれ、とは思う。
しかし今日は千歳に予定もあるため、ノイズは素直に東京に戻ってくるのであった。
「京都には寄れなかったけど、これ大阪のお土産です」
千歳が訪れたのは、久しぶりの声楽教師の元であった。
ノイズが売れてきて忙しくなっても、千歳は基礎を怠らない。
技術的に見れば、自分が一番下手なことは、明らかであるからだ。
「たこ焼きせんべい?」
「これが意外と美味しくて」
ただこの日、歌のレッスンは休みとなった。
前日に二時間も、ライブで全力を使い果たしたのだ。
普段のライブなら、休みのパートになる曲をしっかり入れている。
だが大阪は前のツアーでの、ぎりぎり失敗しなかったという経験から、力が入りすぎた。
もちろん武道館は、一日2ステージを二日間という予定になっている。
さらに消耗は激しくなるが、声は基本的に消耗品だ。
なのでこの日は、ギターの方を見てもらう。
専門はピアノとヴァイオリンで、ギターはアコギを弾けるぐらいというものなのだが、音楽全般の知識が優れている。
クラシック畑の人間ではあるが、普通にミュージカルの演出なども手がけている。
アドバイス自体は可能なのだ。
「でもエレキギターも置いてますよね? 娘さんでしたっけ?」
「ええ、下の娘が四月から高校生になるんで、バンドを組む気満々なの」
少しため息をついてしまうのは、クラシック畑の人間だからというのもある。
ただ上の娘がやたらとクラシックでは実績を残しているため、妹としては違う路線に走りたいらしい。
そして出してきたのが、一枚のチケットであった。
「どうせなら聴く方の勉強もしてみる? 予定していたチケット、夫が行けなくなって」
「え、KCですか! うちのリーダーとメインボーカルも行く予定ですよ。あれ? でもこういうチケットって、本人確認が必要なんじゃ?」
転売防止のために、アイドルグループなどは本人確認が徹底されていることもある。
外タレの場合は、それぞれ違う。
また日本ではライブの撮影などは禁止されていることが多いが、海外では逆にスルーされていたりする。
認知度を上げるのにいい、とでも思われているのだ。
「招待券だから、限定されてないチケットなのよ」
「しかも無茶苦茶いい席じゃないですか」
「関係者席ね」
「ケイトリー・コートナーとも、ひょっとしてお知り合いで?」
「まあ……日本に来た時は、必ず会う程度にはね」
なんとも凄いつながりがあるものだ。
ただそれを言うなら、ノイズも俊のコネクションは、海外の大物プロモーターと知り合い程度ではあったりする。
福岡ツアーの終了後である。
これなら確かに聴きに行ける。
教え子特権というのを、ここで使わせてもらえるのか。
「東京ドームかあ。三日連続って凄いですよね」
「けれどプロモーターの意向であって、ケイティはあんまりドームは好きじゃないのよ。それにもう野球のシーズンも始まっているから、設営も大忙しだし」
「あ、そういやドームって、野球のドームですよね」
どうもバンドなどをやっていると、ドームというのが本来は野球に使われるのだということを、忘れてしまったりする。
「まあ今回は、私も見に行かないわけにはいかないし」
「何か仕事で?」
「そうじゃないんだけど、色々とね」
そこはちょっと説明も出来ないところである。
ケイトリー・コートナー、通称KCも元は、クラシックの技術から出てきた人間である。
もっとも彼女も比較的、すぐにポップスの世界に転身したのだが。
「元は彼女とは、友達の友達というか、天敵だけど同時に友人でもあった人間の友達というか」
「先生、クラシックだったんですよね?」
「そう。子供の頃はこれでも、ヨーロッパで色々なジュニアコンクール優勝して、ショパンコンクールの優勝も目指してたんだけどね……」
「あ、なんか聞いたことあります。レベルの高いコンクールですよね?」
「それに挑む前に、そのライバルというか……天敵に木っ端微塵に負けて、一度は完全にピアノから離れちゃったから」
ライバルと言うのもおこがましいレベル差があった。
後から来たのに、瞬時に追い越されてしまった。
しかも彼女は、簡単にクラシック路線を捨てたのだ。
単純に羨望し憎むには、彼女の才能は圧倒的であり、そして同時に人生は悲運に満ちていた。
彼女にしかないと言われた歌声は、肺の病気ですぐに失われた。
「日本の音楽シーンも無茶苦茶にしていったしね」
一時期は日本で楽曲提供をしまくって、それこそ俊の父の全盛を終わらせてしまったのだ。
ムーブメントの転換点の一つである。
「ツーアイのことですよね?」
「今ではそんな略称もあるみたいね。本当にあの頃、学校に行って野球見ながら、一日に10曲ぐらい作ってたらしいから」
「音楽界の手塚治虫ですね」
「その例えはちょっと分からないけど、生前に27歳で死ぬまでに発表された曲だけでも2000曲あったし、完成してない曲を合わせると二万曲ぐらいあるから」
ちなみに手塚治虫は、月産400ページに加えて、漫画家をしながらアニメーターをして、医学博士にまでなっているという、ちょっと歴史的に見てもバグな存在である。
「編曲の終わってない曲は、一応私も声をかけられたけど、ちょっとジャンルが違ったから無理なのよね」
KCは彼女の死後も、その未発表曲の提供を受けている。
元々遺言で、それを許されていたミュージシャンであるのだ。
世界的な歌姫と、師匠の間につながりがあったでござる。
千歳はそれに驚きながらも、幸運をかみ締めていた。
「やっぱり東京ドームが目標なの?」
「俊さん、リーダーはコストに合わないからうちではやれないって言ってるんですけどね」
「そうね、貴方たちはアリーナとかのちゃんとしたところでやった方がいいと思う」
ライブではあるが打ち込みも多用し、そして特にギターだ。
天敵の忘れ形見は、ほとんどの楽器を数日でマスターするという、バグのような音楽的才能を持っている。
だがただ弾くだけでは届かない、ロックでフィーリングというべき表現は、ちょっと天性のものがあると思う。
「そういえば貴女たちのバンドは、カバー曲もしてるのよね?」
「だいたいあたしの影響で、80年代とかのアニソンするのが多いです」
「……アレンジの能力は高いわけか……」
その呟きは小さくて、千歳の耳にも届かなかった。
ほぼ完成しているが、編曲次第でどうなるか分からない。
15年前の曲であるが、いまだに普通にアレンジ次第で通用してしまう。
そしてその楽曲を、どうポップスにアレンジしていくのか。
(ひょっとしてこの子たちも……)
彼女の残した作品を、凡百な人間に渡すわけにはいかない。
だがノイズの楽曲を聴いてみれば、その編曲のセンスは分かる。
(話してみてもいいかもしれない)
そう考える間にも、千歳のギターは新曲を披露していた。
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