第16話
「いや、簡単に言ってくれるが...」
ミハエルは渋い顔になった。
「そんなにすぐ侍女を手配することなど難しいぞ?」
「民間に頼ったらどうです?」
するとすかさずライラがそう提案した。
「民間?」
「えぇ、民間の人材派遣会社です」
「人材派遣...そこでは侍女も扱っているのか?」
「えぇ、もっとも侍女って呼び方じゃなく、メイドさんって呼び方をしてますけどね」
「メイド...」
ミハエルは聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「要は使用人ってことですよ。貴族の気分を味わいたい富裕層の市民の間で雇うのが流行っているそうです。なんでもメイドさんが着る専用のメイド服なるものまであるらしいですよ?」
「そうなのか...知らなかった...しかし随分とライラ嬢は詳しいんだな?」
「小説のネタになるかも知れないと思いましてね。少し調べたことがあるんですよ。市民の間で今なにがトレンドなのかを把握するためには、常にアンテナを張り巡らしておく必要がありますからね」
「そうなんだ...」
「えぇ、トレンドに乗り遅れた小説はヒットしませんからね」
「なるほど...小説家というのも案外大変な商売なんだな...それはともかくとして、そのメイドさんなる者に後宮の侍女が務まるものなのか?」
「彼女達はプロですからね。なんの問題もなく務まると思いますよ」
「そうか...分かった。君がそう言うなら信じてみよう」
「良かったです。それじゃあ、ちょっとメモを拝借」
そう言ってライラはミハエルの机上のメモ帳になにやら書き込んだ。
「これ、会社の名前と住所です」
「あぁ、ありがとう」
「どういたしまして...ところで殿下、ソニア嬢は意識戻ったんですか?」
「あぁ、最初は朦朧としていたが次第に意識をハッキリ取り戻して、今は普通に喋れる状態になっている。かなりショックを受けた様子ではあるがな...」
「それは無理もありませんよね...命が助かっただけでも良かったと思わないと...」
「そうだな...」
二人は揃って沈痛な表情を浮かべた。
「殿下、ソニア嬢は家に帰してあげてくれませんか? きっともう本人も懲り懲りだと思っているはずでしょうから...」
「いや、それがな...ソニア嬢は自分から残ると言ってるんだ」
「えっ!? そうなんですか!? なんでまた...あんなに酷い目に遭ったっていうのに...」
ライラは目を剥いた。
「なんでも実家の期待を一身に背負って来たから、こんなところで帰る訳にはいかないとのことだ」
「それはまた...」
ライラは心からソニアに同情した。
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