第8話

 全員が夕食を終え、食後のお茶を楽しんでいた時だった。


「やぁ諸君、初日の感想はどうかな?」


 ミハエルがやって来てそう尋ねた。


「とても有意義な一日でしたわ」


 全員を代表してドロシーがそう答えた。ライラだけは不満たらたらといった感じではあったが、他のみんなは充実したような表情を浮かべている。


「それは良かった。なにか不満があったら遠慮なく言ってくれ」


「あの、すいません」


 そこでレイチェルが手を挙げた。


「なんだ?」


「使用人はどうなるんでしょう? 私が連れて来た侍女や執事は帰されてしまいましたので、身支度一つ整えるのも一苦労なんですが...」


 すると多かれ少なかれ全員がそう思っていたのか、うんうんと頷いている者も居る。だがライラだけは我関せずといった感じで平然としていた。


「なるほど。それは気付かなくて申し訳なかった。男と違って女はなにかと大変だったな。良かろう。希望者には王宮付きの侍女を用意することにしよう」


 ミハエルの言葉を受け、ライラを除いた全員が手を挙げて希望の意思表示をした。


「ライラ嬢、君は希望しないのかい?」


「えぇ、結構です。自分のことは自分でするようにと育てられて来ましたから。温室育ちのお嬢様とは訳が違いますよ」


 そのライラの発言に、場の空気が一瞬にしてピリピリしたものになったが、


「それに王宮付きの侍女ってことは、監視者でもあるってことなんでしょう? これ以上監視の目を増やしたくなんてありませんよ。ただでさえこんな監禁生活でストレスが溜まってるってのに、自分の部屋にまで監視の目があったりなんかしたら、気が休まる暇もないじゃありませんか。それこそ息が詰まっちゃう」


 そうライラが続けたことで、ピリ付いていたた空気は一気に霧散した。そしてライラを除いた全員が気不味げに顔を見合わせた。


「こいつは手厳しいな。せめて軟禁と言ってくれないか?」


 ミハエルが苦笑しながらそう言った。


「大して変わらないじゃありませんか...」


 ライラは鰾膠も無い。


「あの...私、侍女は不要ですわ...」


「あ、私も...」


「私もですわ...」


「私も~」


「あ、私は侍女を付けて下さい!」


 すると今度はソニアを除いた全員が侍女を断った。


「分かった。ソニア嬢のみ侍女を手配しよう。他にはなにかあるかな?」


「私、帰りたいんですけど...」


 ライラが気怠げにそう言った。


「それはダメだ。許可できない」


 ミハエルも鰾膠も無い。


「ハァ...」


 ライラはわざとらしく大きなため息を一つ吐いた。

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