王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜

第1話

 ここセントール王国には一風変わった習慣がある。


 それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。


 要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。


 つまりは合宿に呼ばれた令嬢達は、四六時中監視の目がある中での生活を強いられることになる訳だ。ちなみに合宿期間は三ヶ月という長丁場だ。


 国中の貴族令嬢の内、15~18歳の妙齢の令嬢全てが対象となる。そんなモルモットみたいな扱いはイヤだと、自分から辞退する令嬢達も中には居るが、書類による一次審査、そして家柄や派閥の力関係などを考慮した二次審査を見事パスした6人の令嬢達が今、王宮の一室に集められている。


 何れ劣らぬ美女揃いだ。王妃になる気満々の野心に溢れた目をしている。そんな中、一人だけ明らかに浮いている令嬢が居た。


 燻んだ金髪の長い髪を無造作に一つに纏め、分厚い牛乳ビン底の眼鏡を掛け、手にはなにやらメモ帳みたいな紙とペンを握り締めている。


 どう見ても場違いなその格好に、他の5人の候補者達から怪訝な目を向けられているが、その令嬢は全く意に介す様子は無く、辺りを見回しては仕切りにメモを取ったり、なにかブツブツ呟いたりしている。


 やがてドアが開き、王宮関係の方々が入室して来た。その中には件の王太子ミハエルの姿もある。ミハエルは全員を見渡して、


「みんな、良く集まってくれた。これから三ヶ月という長い期間、一緒に過ごすことになる訳だ。一つよろしく頼む。まずはお互い自己紹介と行こうじゃないか」


 そう言って端の方に立っている令嬢に目を向けた。


「では私から。ラングレー公爵家のドロシーと言いますわ。歳は18。皆さん、よろしくお願いしますわね。もっとも、選ばれるのは私に決まっていますから、皆さんは全て当て馬ということになりますわね。ご苦労様。せいぜい頑張って下さいましね。オーッホホホホッ!」


 ドロシーの挨拶で場の空気は一気にピリピリした雰囲気になったが、


「...ドロシー嬢は典型的な高飛車お嬢様...と...恐らくこの中じゃ一番高位に当たる令嬢だから自分が選ばれて当然と思い込んでいる...と...メモメモ...」


 例の場違い令嬢だけはそんなことを全く気にせずに、ただひたすらメモを取っていたのだった。

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