第7話:レジスタンス

 どうして彼は、飛び降りたのだろうか。彼、シアン・シルスの死は、 エルを動揺させた。


同じなのだと。 エルは、自分がシアンと同じであるから彼の死が自分の運命を感じさせたのだ。 自分もシアンのように死を選ぶ時がくるのだと言う不安がエルを動揺させたのだ。 サラは、そんなエルをやさしくなだめた。


「シアン・シルスがエルに見せたのは、古代人の生き方なんだ!」


とサラは、なぜかそう思うのだった。


基本的に古代人は、心が弱い。


永く生きすぎた為に心が疲弊している。


古代人が生きるには、理由が必要で……その様々な理由が無くなったり、心が折れた時、古代人は、簡単に死を選ぶ。


古代人は、寿命が存在しない。


故に心が折れた時が古代人の死でもあるのだ。古代人にとって死は、肉体的な寿命などではなく……心の寿命が肉体の寿命になる。


肉体の寿命が存在しない為に先に心の寿命がやってくるのである。


そして、古代人は、生きる理由を見失った時、簡単に死を選んでしまう種族でもあるのだ。






 人、生命は、どうして生まれ、それを生み出した地球は、人類に何を望んでいるのだろうか。進化であろうか。それとも絶滅であろうか。



 一人の少女が剣をふりかだして、とどめをさそうとしている青年を止めに入った。少女が守ろうとしているのは、同じ年ぐらいの若者である。少女の後ろで片膝をついて苦しそうにうめいている若者。少女は、両手を大きく広げて殺意に満ちた青年に哀願するように涙を流して何かを叫んでいた。


「お願い! 止めて! ラファエル、彼を殺さないで!!」


硬いベットの上でエルは、そう叫んで飛び起きた。エルは、びっしょりと身体中に冷汗をかき、疲れたようにため息をついた。


「……さっきの……夢は、……何?……夢の中で私が叫んでいた。泣いていた。……ラファエル?……誰なの?……わからない」


エルは、頭を抱え込み理解しがたい夢、鮮明でリアルな……現実に在ったと錯覚させるほどの夢に疑問を覚えた。ただの夢ではないと言う事は、エルの心が敏感に感じ取っていた。


ドンドン


エルの部屋の扉を叩く音。エルは、ベットの上で身をすくませた。


「エル? どうしたんだい? 大きな叫び声が聞こえたよ」


「サラ……」


扉の向こう側から聞こえてきたサラの声にエルは、安心したように笑みを浮かべた。


「何でもないの! サラ、少しうなされていただけよ。直ぐにブリッジに行くわ。そこで待っていて!」


「うん、わかった!」


エルの返事にサラは、安心したように言った。


扉の向こうからサラの気配がさっていく。

それを確認したかのようにエルは、ベットから降り立ち正面にある鏡に向かった。


「さてと……行かなくちゃ……」


エルは、鏡に向かってそう呟くと自分の顔を見据えた。


そして、鏡の正面に右手を触れて口元をきゅっと結ぶ。


「あなたは、……誰?」


エルは、無意識の内にそう呟いてた。



 ブリッジには、ガスタルディーとサラが待っていた。ガスタルディーは、周りに360°展開されてる外の様子を映し出した映像を見てエルに口を開いた。


「確かこの辺りのはずだ」


「正確な位置は、わからないのですか?」


「すまない。レジスタンスは、帝国に位置を知られるのを恐れて、正確な場所を公表してない」


「それは、わかりますが……正確な位置がわからないとなれば……船を下りて探すしかなさそうですね」


エルがそう言うとガスタルディーは、頷いた。するとエルは、両手を胸元で組み祈るように下を向いた。宇宙船エルは、少女エルの分身である。少女エルが思い描くだけで船を自由に動かせる。そういう風に宇宙船とエルは、繋がっているのである。


今エルは、森の上で浮いてる自分を感じていた。そして、静かに森の中へと身体を横たえるように思い描く。すると、宇宙船エルは、静かに森の中へ木々をなぎ倒しながら着陸するのだった。



 白く大きな船。その船体が森の中に沈み、自重により少し地面の中へ沈み込んだ。


宇宙船の左側面に人間の大人が出入りできるぐらいの大きさのハッチがある。そこから、ゆっくりと最初にサラが姿を見せる。辺りを見渡してサラは、森の中へ身を躍らせた。続いて、ガスタルディー、エルと言う順番で船から下りてきた。そして、直ぐに森の中に潜んでいる気配を感じたエルが声をあげた。


「誰?」


そのエルの声にゾロゾロと木の影から数人の男達が現れた。手には、弓や剣を持っている。サラとガスタルディーは、冷汗を浮かべてそれを見ていた。





 一つの洞窟を利用して住みやすい用に手をくわえられた所。岩肌がゴツゴツとむきだしになっていて、天井からは、染み出した水がポツリと落ちて跳ね上がる。


そんな所へサラ達は、連れて来られた。ガスタルディーとサラは、暗い鉄格子のはめられた部屋へ閉じ込められた。



何故かエルだけが小さな小部屋に連れてこられた。そこで彼女をまっていたのは、30代後半の渋い顔立ちの男だった。四角い机の向こう側で椅子に腰をかけてエルを睨み付けている男。エルは、自分を連れてきた別の男に背を押されてしかたなしに前に進み出た。


そして、ゆっくりと目の前にある木の椅子に腰掛けた。


「君は、古代人だね?」


「……」


「我々には、わかるのだよ!君は、この辺り一帯が我々、レジスタンス、カハの軍の勢力化にあるのを知っていて来たのか?我々を滅ぼす為にあの皇帝ラーが古代人である君を送り込んだのか?」


男は、冷静でそれでいて落着いた口調で言った。そして、エルは、静かに口を開く。


「あなたは、何か誤解をしているようですね。あなたがたが現れて私達を捕まえてくれた事は、幸いでした。こちらから探す手間がなくなったのですから……」


「では、やはり……」


「誤解しないでください!! もし、私にその気があったなら、すでにやっています」


「それは、無理だ! ここには、対古代人用の結界がはってある! 古代人としての能力を封じ込めるためのものだ! 我々には、そういったものがある」


「…………」


エルは、静かに両目を閉じた。男の言う事が真実であるかは、わからない。ただ古代人である自分を男は、恐れていて自分の事を頭から信用する気がない事がエルには、わかる。その誤解を解き、どうにかして信用してもらわなければとエルは、強く心に思うのだった。


「君は、そんな事は出来ないと思っているのだろう? 我々は、発掘しのだ! そう言う物をな! 君が古代人だと直ぐにわかったのもそう言うものからだ」


男は、エルに脅しをかけた。抵抗しても無駄だっと男は、言ってるのである。エルは、そんな男をあざ笑うかのように笑みを浮かべた。それは、大人の女性がするかのようにまだ少女のエルには、似合わないほど大人びた笑みであった。


「誤解しないで……っと……言ってるのに……あなたは、聞く耳をもたのですね?」


「フッ……皇帝の手先など……信用できんのだ! 例え、君のような可愛い顔した少女であってもだよ!!」


「そんなに信用できないと言うのなら、もう何も申しません! でもこれだけは、言わせてください。私は、あなた達レジスタンスの協力を求めてやってきました。私の目的は、皇帝ラーを倒す事! いくら、私が古代人だとしても一人では、なにもできない。だから……」


「……古代人が……皇帝ラーを裏切ると言うのか? 皇帝にしか従わず、古代人にとって、皇帝の命令は、絶対だと聞く。それが……古代人の君が……皇帝ラーを裏切ると言うのか?」


男は、驚きのあまりエルに向かって声を張り上げてドンっと机を殴りつけた。エルは、男の激しさに驚きながらも、コクリっと頷いて見せた。

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