地球外生命体とは僕らのことですか?
@uisan4869
第1話 地球外生命体とは、僕らのことですか?
「1番の番号札をお持ちの方、こちらにどうぞ」
1番、俺か。手に持った番号札を確認し、電子版に表示された番号をもとに呼ばれた席に向かう。
席に付くと、メガネをかけた小難しそうな雰囲気を醸し出す女性がパソコンを打ちながら片手間に「今日はどうされました?」と女性にしては低い声で聞いてくる。
「あ、今日は…その、戸籍と住民票を取りに…」
「はい、ではこちらの書類にご記入を…え、うわぁ!あなた!地球外生命体!」
マスクをしていても、肌の色、瞳孔の形、人間のそれとは異なる耳、口などどれだけ隠してても分かる人間にはわかってしまうらしい。けど…
「地球外生命体って…僕のこと、なんですかね…?」
僕は人間とは確かに異なる見た目をしているが、地球外生命体ではない。
地球生まれ、九州育ち、両親共々人間の、純粋極まりない程に人間の、はずなのだから。
「地球外生命体には、地球人への戸籍の登録も、住民票の発行もできません。出来るとしても滞在ビザ程度です」
「いや、だからなんでも説明してますけど、僕は正真正銘普通の地球人なんです!信じてください!」
何度必死に同じ説明をしても目の前の役職員であるこの小難しそうな女性は一向に信じてくれない。信じてくれないどころか疑心暗鬼はさらに強まるばかり。
僕はこんな見た目のせいで、戸籍や住民票を剥奪されて、今まで旅をしながらなんとか生きてきたが、幼い頃から貯めてきた貯金も底を尽いてきた。
旅をするにも宿に泊まるためにも食事をするためにも金がどうしてもいる。金を稼ぐためには戸籍が不明な僕はどこも雇ってくれない。それどころか、こんな成では人間の職場では働けない。ではどこで働くか?それは特区地域にいる地球外生命体が暮らす場所でしか働けない。だが、特区では純粋な人間である僕は匂いでバレてしまい、その生命を狙われてしまう。
小さな虫程度でも怖い臆病な僕がそんな場所で働けるわけがない。
「いつもこうなんだ。どこに行っても厄介者扱い。こんな見た目のせいだ…」
なぜ人間の親から生まれたはずなのに、このような面妖な見た目になってしまったのか、今までも何度か病院でも診察をしてもらったことはあるがどこに行っても「問題なし」との同じ答え。僕は僕のままであるがために、見た目のコンプレックスが1番の悩みなんだ。
「はあ、結局住民票も戸籍も取れなかった…」
財布の中に入っている残りの所持金は、1797円。始めに持っていたお金ももうここまできた。
さらに困ったことがもう一つ。
突然やってくる猛烈な空腹だ。僕の身体は普通の人より空腹を感じやすく、一度に食べる量も多い。学生のときは普通に同級生と同じぐらいだったはずなのに、今では食費だけでも凄まじい金額になってしまう。
正直、この所持金では一瞬で消えるのは確定している。
ここまでなんとか空腹と戦いながら、コンビニで10円のガムを買って一週間かみ続けたりで誤魔化してきたが、それももう限界に差し掛かっている。
「でも、これを使ったら…何もかもおしまいだ」この世界、お金が無ければ生きていけない。せめてアルバイトや行政に生活保護の申請などできればいいのだが、先程の住民票や戸籍登録でもわかったとおり、この見た目では何も出来ないし、自分が人間であるという証明すら出来ない。
このお金を今使えば、一瞬は腹も満たされるだろうが、その先に待っているのは空腹で路地裏で餓死している自分の姿が目に浮かぶ。
しかし…
僕の空腹はもはや我慢の限界だった。
僕の足は金欠とは反して向かった先は、ちょうど近くにあった定食屋。サラリーマンが僅かに出入りする昼の時間帯にしてはくたびれているが、雰囲気自体はかなり好きな感じだ。
壁に貼られた手書きのメニュー、僕は自らの空腹と欲望のままにかつ定食の大盛りとサイドにポテトサラダ、味噌汁、ご飯は無料で特盛にしてもらえるとのことだったので言葉に甘えて特盛してもらった。これで合計1500円、+税。
所持金ギリギリに収めることは出来たが、同時に明日のお金を失った。
だが、もう後悔しても遅い。すでに厨房に通ってしまったオーダー、耳の奥をくすぐるカツの揚がる音と匂い。これらを前にして、この場から立ち去る勇気は今の僕には持ち合わせていなかった。
5分ほどテーブルに置かれたお茶で喉と空腹を若干でも潤しつつ、注文した料理が来るのを待っているとエプロンと頭には三角巾を被った女性が料理を運んできた。
鼻腔の嗅覚の奥深くをくすぐるこの香ばしい香り。空腹への刺激が今は強すぎる。
早く腹の中に入れたい。
「おまたせ~!でっかいお兄ちゃん!たんとお食べ!」食堂の元気なおばちゃんは力強いにこやかな笑顔でそういうと僕の背中を勢いよく叩くとそのまま別の客の注文を取りに向かった。
やっと待ちわびたご飯。これを食べてしまえばもうお金はない。だけど、そんなことはもはやどうでもいい。今は目の前の料理を最大限味わう事だけを考えよう。
そう心に決め、テーブルの脇に置かれた箸の入ったBOXから一膳取り出し、手を合わせて定食を口いっぱいに頬張った。
無我夢中に頬張る最中、突然異変は僕の身体に襲いかかった。
食べ始めた時は芳醇な定食の味が口の中いっぱいに広がっていたのだが、食べ進むうちに何故か味がわからなくなってきた。それどころか、味付けが気持ち悪くなってきて、次第に食材本来の味の方が色濃く感じるようになった。
「何だ、これ・・・・」
定食になにか異物や何かが混入していたわけでもないはずだ。マスクや帽子、サングラスで変装して、自分では姿は隠せているつもりだし見られてもいないはずだ。
しかし、確かに感じる味の違和感。先程まで感じていた素材本来の味も消えて、今でっは完全に無味だ。まるで定食の形をした噛み終えたガムを食べているようだ。
味がしなくなったとはいえ、お金を払って、人に作ってもらっているんだ。残すわけにはいかない。両親にもそう言われて育った。自分でもそう心に決めている。
なんとか定食を食べ終え、会計へと向かう。
「すみません、お会計いいですか?」
伝票を手渡し、お金を渡す。その際におばちゃんの表情を伺ったが、どこにも怪しい様子はなく、何なら全て完食した僕にエプロンのポケットから飴玉をくれた。
こんな施しまでしてくれる人が悪い人ではない。僕はお会計をするまで心のなかに抱いていた事を恥じた。
だが、そうなるとなぜ途中から定食の味がなくなったのかが疑問だ。いや、ちょっと待てよ。
違和感の中、一つの可能性にたどり着いた。
「味が無くなったんじゃなくて、僕が味を感じなくなったのか?」
検証を始めることにした。
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