8話 天然アイドル 七瀬 翠 編
今日は家庭科で調理実習の授業がある。僕は母子家庭で育ったので自炊が基本だ。だから僕は料理が得意だ。ママがよく僕の料理を褒めてくれたから料理自体は好きになった。でもみんなでやる共同作業はどうも苦手だ。
5人1組で料理を作り始める。
紫尊くんとマドンナ四天王の1人「七瀬 翠」(ななせ みどり)さんが同じ班だ。
七瀬さんの一芸はアイドルだ。
緑色の髪の毛にクリッとした大きな瞳、背は高くはないがそれがまた七瀬さんの顔とよく合っている。表情豊かで感情を表に出してしまうタイプだ。顔を見ればよくわかる子だ。いつも何事にも一生懸命でみんなからは愛されキャラ。でも天然なのがたまにきず。
レシピは親子丼と豚汁と浅漬けだ。
僕と紫尊くんと七瀬さんが親子丼づくりで、あとの2人の女の子が豚汁と浅漬けづくりだ。
トントントントントントントントン
僕は手早く玉ねぎを切る。5人分だからまあまあ量が多い。
「すごーい!佐伯くん料理できるんだ〜」
七瀬さんが目をキラキラさせながら感動している。
(なんて単純なんだ。これくらいのことを本気で感動しているなんて......)
「佐伯くん、ちょっと代わってもらおうか」
紫尊くんが割り込んできた。
これは間違いなく七瀬さんにかっこいいところを見せたいだけだろう。
トントントン、トントン、ト
『いたっ!』
紫尊くんが指を切ってしまった。幸い少し切っただけだった。なのに七瀬さんはこれまた死ぬんじゃないかというぐらいの顔つきになって本気で心配をしている。
「ごめん。調子に乗りすぎた、ちょっと保健室行ってくるわ」
(恥ずい、恥ずかしすぎる、この場にいれない)
紫尊くんは恥ずかしさを隠すためにそそくさと
1人、教室を出て行った。
「じゃあ、わたしが紫尊くんの分も頑張る!」
七瀬さんは僕と紫尊くんの影響を受けてやる気モード全開だ。七瀬さんは影響を受けやすいタイプなのかもしれない。腕まくりをして玉ねぎを切り始めた。
とん、とん、とん、
「あわわわ、あわわ、これむずかしい」
見るからに危なっかしい。みんなが一斉に止めに入る。
「翠ちゃん、鰹だし作っといてもらっていい?」1人の女子が誘導をする。
「はい!」
返事だけはいい。
僕は玉ねぎ、椎茸、とりもも肉、三つ葉と切り分ける。女の子2人は豚汁と浅漬け作りに夢中だ。ふと横にいる七瀬さんを見るととんでもないことをしでかしている。
かつおぶしで取った出汁をそのままシンクに捨てている真っ最中だった。
残ったのは出涸らし状態の生気を全て吸い取られたカツオブシそのものだった。
僕はあまりにも呆気に取られて七瀬さんを止めもせず最後まで見入ってしまった。
「あ、あの、どうして出汁を捨てたんですか?」
他の人たちに聞こえないように最小の声で七瀬さんの耳元でささやく。
「鰹出汁ってこの残った鰹のことですよね」
僕の最小の小声に釣られてか七瀬さんも最小の小声で僕の耳元に囁いた。
(まさか、出汁の方ではなく、鰹の方が重要だと思ってたってことか。間違いなくこの子は全く料理をしないタイプだ)
「大事なのは捨てた方です。そっちが鰹出汁です」
「ええ!?どうしよう。もう一度作り直します。あっ!でも鰹節がもうない。わたし......泣いちゃいそうです」
感情豊かな七瀬さんは本当に今にも泣き出しそうだ。
「僕がなんとかします。何事もなかったかのように卵をといておいてください。それとフライパンも温めておいてください」
「はい、わかりました」
「あれー?翠ちゃんと佐伯くんてそんな仲良しだったの?2人でヒソヒソ話して」
女の子2人がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「佐伯くんは料理上手なのでいろいろ相談してたんです。でもわたしのせいで美味しくない親子丼になるかもです。ごめんね、みんな」
七瀬さんは本当に申し訳なさそうに話す。
「いや、七瀬さんが僕に美味しい親子丼の作り方を教えてくれてたんだ。だから楽しみにしてていいよ。そっちも美味しい豚汁と浅漬けよろしくね」
僕は七瀬さんを精一杯庇った。
(最近は困っている人を助けるのが仕事になったのかな)とぼやいてしまう。
「すぐ戻るから」
そう言い残して僕は他の班のところへ調達に行く。鰹節が余っているところはない。仕方ない。何か代わりになる調味料をもらってこよう。
どこに行っても僕がほしい調味料はない。
その時、ふと白木 桃さんが目に止まる。
(あっ、桃ちゃん、この前魔法の調味料を常に持ち歩いてるって言ってたな。これしかない)
僕は最後の賭けに白木 桃さんを頼ることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あとがき
たぶん人気が出るだろう七瀬 翠 ちゃんのストーリーです☆
翠ちゃんにキュンとしたら☆をつけてくださいね♡
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