22話 小さな死神
「……やっぱり商売をするとしたら『精霊石』の採掘が一番儲かるはずよ」
「くるるるー」
「シロちゃんも賛成みたいね?」
「かうううくるううう」
「そうね。人手が欲しいところよね。ちょっとシロちゃんの力も借りるけどいいかしら?」
「くうううくるる!」
私とシロちゃんだけで採掘し続けるのには限界がある。というより効率が悪い。
そこで私が思い付いたのは、幼馴染のユーシスだ。正確にはユーシス本人を頼るのではなく、ユーシスが
「【
思い立ったが吉日!
私はシロちゃんを肩に乗せて、【
館と言えば聞こえはいいが、ここは実質牢獄のような場所だ。常に薄暗い石壁と石床に囲まれた内装は圧迫感を覚える。何より不気味なのが、鉄格子に閉じ込められる
「うぁぁうー……だすけでぇ……」
「いだい、いだいにゃあ……」
「……ぐるじいわん」
ここは【
アストロメリア王国の礎となる者たちを囲った館である。
まず、前提として王国は亜人の人権を認めていない。だからこそ不当に
そしてレヴァナント侯爵家は代々、王国の
落とし子として引き取られたユーシスも例にもれず、ここで亜人を使って、毒殺、絞殺、呪殺、惨殺などの練習を強制的にさせられている。。
あらゆる殺し方を学び、ようやく【
確かに王国の暗部を支えるという意味ではそうなのかもしれない。
だけどやはり思うところもある。それは私が勇者時代に聞いた、ユーシスがぽそりと呟いた一言が引っかかっているからだ。
『もう自分がわからない』
今思えば……ユーシスは平気で嘘をつく野郎ではあったけど、レヴァナント侯爵家に入ってから嘘の質が少しだけ変化していた気がする。
まるで
孤児院の頃のあいつは、嘘は吐くけど決して誰かを傷つけるような奴ではなかった。
それが強制的に、何度も何度も人殺しの練習をしてゆくうちに……暗殺術は正義だと、殺しは必要なのだと、自分を騙すようになったのでは?
本当は人殺しなんてしたくなかった。
それでも逃れられぬ義務から……徐々に狂っていった……?
あ、考えれば考えるほど腑に落ちるぞ!?
というか私は今の今までどうして幼馴染があんな
ああ……でも、そうか。
当時の私は十四歳かそこらで、必死に師匠の剣術に食らいついてたっけ。
ユーシスがいきなり貴族のお偉方に引き取られて、自分だけ焦っていた節もあった。そこで折よく勇者としての力に目覚めて、自分にもやれることがあると歓喜して、一心不乱に剣や魔法に邁進していた。周りを見る余裕なんてなかった。
ユーシスはそんな必死な
————だから、そうか。
今、目の前で亜人種である【
「ユーシス」
「……誰だ!?」
「私よ、
駄犬って……やっぱり庶民の血を引くユーシスは見下すスタイルのマリアさん。
「え、マリア……? 【
お、自分を僕と言わないあたり、レヴァナント侯爵家のぼっちゃんとしての仮面をかぶらずに私と話してくれそうかな?
「
「……マリアは一体、
「さあ? とにかく今はその【
「……」
ボギリッとくぐもった音と共に、【
どうやら絞殺したようだ。
うん。
まあ、私もここで偽善を振りかざすつもりはない。
必要な特訓なんだろうし。
でもやっぱり【
「マリア、その肩に乗っているトカゲは……魔物かな?」
「貴方の罪悪感をやわらげる救世主かしら?」
「一体なにを言ってるの……?」
「論より証拠ね。シロちゃん、見せてあげなさい」
「くーるーるーるー!」
シロちゃんが【
その神秘的な光が消える頃には、額に十字の痣が刻まれた【
「あう……あなたが、いや、あなたがたが、あたしを蘇らせてっ、くれたわん……!?」
「黄泉の世界からおかえりなさい。最初の【
「あたしが【還り人】……?」
死んだはずの者を黄泉の世界から復活させる禁忌魔法、【
条件は死後24時間以内。
そして自分より魔力量が低い者に限るそうだ。というのも復活させるのに、死んだ者の魂の重みの分だけ自身の魔力が消費されてしまうらしい。
つまり、自分より強い魔力の持主を復活させると最悪シロちゃんが死に至るケースだってある。その辺の見極めは慎重にしなければいけないけど、復活させる前にだいたいの魔力消費量はわかるらしい。
さて蘇った【
第一段階の作戦は成功だ。
「哀れな【
ユーシスによって死の恐怖と苦痛を刻まれた瞬間、救世主の登場!
簡単なシナリオと演出だな?
「はわわわわ……慈悲深き神獣様と聖女様だわん……どうかあたしをこの殺人鬼から御守りくださいわんんん」
ここでそれっぽい雰囲気を出しておけば、簡単に絶対服従と崇拝が手に入りそうだ!
やっほい!
この調子でユーシスが殺していった亜人を蘇らせて鉱山の労働力に充てるぞー!
とはいえ私は使い捨てが大嫌いだ。ステラ姫のように何でもかんでも駒を使い捨てるやり方は天地がひっくり返っても認めない。
それ相応の働きをすれば評価し、ふさわしい待遇を与えるつもりだ。
「私たちの加護が欲しくば勤勉になさい。家畜のごとく、馬車馬のごとく、私たちの手足となって働きなさい。さすれば小汚い者であろうと、卑しい性根であろうと、私たちの祝福を受けられますわ」
「はわわあああ……かしこまりましたわん……! 誠心誠意、尽くさせていただきますわん!」
「マリアは……いや、そのトカゲは一体なにをしたんだい……?」
「ユーシスの罪悪感を薄めてくれたのよ。駄犬の貴方に理解できるかしら?」
「なっ……」
「人殺し、嫌なのでしょう?」
私が真顔でユーシスに詰め寄ると、彼は真意を突かれたかのようにウッと仰け反った。
「……そ、そんなことはないね。別にそういうのはない」
おやおや。
左のまゆがピクリとしたなユーシスくん。
それ、お前が嘘をつくときの癖だぞ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます