3話 王国の太陽
「ようこそ、レヴァナント侯爵令息」
勇者時代、【王国の太陽と月】と讃えられたステラ姫。
今は14歳の若さでありながらも、その輝く笑顔は周囲を魅了するに足る完璧なものだった。
家格上、侯爵家の子息であるユーシスへ最初に挨拶するのは常道だ。しかし、姫の双眸に温かみは一切感じられなかった。
今ならわかる。蔑みの色が見え隠れしていると。
その証拠にユーシスが名乗り返す前に視線を素早く私へと移し、貴族風の正式な口上を述べる。
「我が栄光ある王国の星々が一つ、マリア・シルヴィアイス・フローズメイデン伯爵令嬢。ようこそ、私の主催した【太陽の
姫様はユーシスのような平民の血が流れる者と交わす言葉など一つもないといった風情で、私に挨拶を紡ぐ。
腹が煮えくり返る思いだが、ここで冷静さを欠いては元も子もない。
マリアローズの記憶を元に貴族令嬢がよくやるカーテシーで返事をする。
「我らが月光にして陽光、ステラ姫殿下。歓待のお言葉を賜り、深く感謝しております」
お、さすがの
というかもしかしてマリアって、自分より立場の強い相手には媚びるタイプじゃないだろうな?
「あら?
おっと。
姫様に陽光と敬称がつけられるようになったのは今から五年後か。
この国では太陽を司るのが王族直系の男性。そして月を司るのが王族直系の女性と伝統で決められている。
無論、王族の優劣は大体的に公表されていないが暗黙の認知ならある。
月よりも太陽が格上である、と。
だからこそ女性の姫に太陽にちなんだ敬称をつけるのは、王家が定めた序列に反するから不遜だと指摘をしたのだろう。
しかし……。
「ですがマリアさんは先見の明がおありかもしれませんわ。時に真実味を帯びる愉快な冗談には、父陛下も寛容になりますもの。ねえ、みなさん」
おほほほっと取り巻き連中を交えて朗らかに笑う姫様。
先見の明とか……遠からずな発言にビクッとするが、私の懸念は無駄だった。やっぱり姫様は既にこの頃から、自分こそが王位継承権第一位に相応しいと考えていたらしい。
私の発言は、王族男児の敬称すらも姫様にふさわしいと宣ったも同然だ。
すなわち、どの王位継承者よりもステラ姫が格上だと。
となればこそ、今は粛々と私に不遜だと諫言しつつ、先見の明があるなどと褒めちぎるのだから……こちらの発言をいたく気に入ってくれたようだ。
自分を処刑に陥れた張本人に……気に入られるなんて反吐がでるなあ。
「マリアさんには、大いに
そもそも今回、姫様が主催した屋外パーティ―の名前に『太陽』がついているあたり大胆と言わざるを得ない。いくら王族とはいえ、太陽の呼称が許されているのは男性のみ。
つまり王子ミカエルの派閥を黙らせ、自らが主宰するパーティーに【太陽】の名を使えるのだから、改めて15年前から姫派閥は幅を利かせていたと再確認する。
「来たる帝国との戦では、フローズメイデン伯爵のご活躍を大いに期待しています」
「過分な御言葉を賜り、父も私も大変名誉に存じます」
帝国の宣戦布告。
あの戦争はひどいもので、勇者として目覚めた私にとっての初陣でもあった。
フローズメイデンの領地は、想定される戦地とさほど離れていない。戦力として期待する貴族家に、愛想をふりまくのを忘れない
よくよく見渡せばこのパーティーに出席している貴族家は、帝国戦争において功績を残した家柄ばかりだ。姫様は帝国の宣戦布告に対し、自派閥の地盤堅めと士気向上を目的としたパーティーを開いたのだろう。
勇者時代は貴族のあれこれを面倒くさがって、姫様に全て丸投げだった。それが祟って、気付けばいい様に周りを固められ、処刑される時は私を擁護する貴族は圧倒的少数になってしまった。
その失敗を繰り返すのは避けたい。
今世は……勇者として頑なに貫き通してきた正義だけでは上手くやれないだろう。
貴族の
ふふっ。よく戦友のリカルド公爵に『お前は偽善がすぎる』と笑われたけど……あいつは死の間際まで、私の手が回らないところで手を差し伸べてくれてたっけ……。
もう勇者時代のように甘えてはいられない。
今世は全て、自分でこなそう。
必ずやり遂げてみせる。
そこで私は
ん?
待てよ?
今、この姫様はなんて言った?
【太陽の
勇者時代にかつてユーシスから聞いた話を思い出す。
確かユーシスは【太陽の花園】とかいうパーティーがきっかけで、姫様から
そこで私は【太陽の花園】で起きた、
あーなるほど。
この
だけどこれから起きる
どうせだったらもっと面白いやつでいこう。
私はそう決心を固めて——
今すぐにでもくびり殺してやりたい姫様へ————
笑顔で
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