【推理士・明石正孝シリーズ第3弾】迷宮入り殺人事件
@windrain
第1話 県警本部
どういうわけか、ミステリー研究会に変な依頼が来るようになってしまった。
落とし物を見つけて欲しいとか、パソコンの設定をして欲しいとか、「あの
中には浮気相手を突き止めて欲しいとか、興信所に頼めよ、みたいな依頼まで来る。そういうやつに限って、調査費を出す気がさらさらないんだ。
そもそもみんなでミステリーを読んだり、ミステリー映画やドラマを観ようというのがこのサークルの趣旨だ。
それなのに、猫を探したついでに明石が殺人事件を解決してしまったものだから、たちまち評判が広まってしまったんだ。
明石は勝手に『推理士・明石正孝 学内事務所 殺人事件2件の解決実績あり』なんて張り紙をホワイトボードに貼ってるし、同じ物を学内掲示板にも勝手に貼っているらしい。
それでサークルに依頼が舞い込むんだが、ろくな依頼が来ないものだから、明石の機嫌が悪い。
「もっと殺人事件が起こらないものか・・・」
もっとも、サークルメンバーは結構楽しそうに駆け回っている。今では探偵ごっこが活動のメインになっていて、依頼がないと退屈そうだ。
そんなある日、明石のスマホにメールが入ったようだった。それを読んだあいつの目が、キラリと光る。
「三上、出かけるぞ」
明石は愛用のノートパソコンをバッグに入れると、立ち上がった。僕は君の秘書か? まあ、そう言えなくもないか。
「なになに、いよいよ事件か?」サークル代表の春日が僕たちに声をかける。「後で必ず教えてくれよ」
校門を出ると、1台の車から背の高い30代っぽい男が出てきた。
「君たちが明石君と三上君?」
僕が頷くと、
「乗ってくれ、案内するから」
そして連れて行かれた先が、なんと、県警本部だった。
別に悪いことをしたわけでもないのに、こういうところへ入ると心臓が高鳴るのはなぜだろう?
僕たちは、「捜査会議中」とドアにプレートを貼り付けられた会議室に案内された。
「田中管理官、2人をお連れしました」
やっぱり。予想はしていたが、予想どおりだった。会議室には田中管理官のほか、部下と思われる者が3人着席していた。僕たちを連れてきた1人を含めて、部下は4人らしい。
「よく来てくれたね。悪いが、また手を貸して欲しい。空いてる席に座ってくれ」
えーと、僕たちの意思確認はしないんですね? まあ、明石は表面上は迷惑そうな顔をしているが、実際はやる気満々なはずだ。
「プリンターありますか?」
明石がぶしつけに言ったので、1人が部屋の隅にあったプリンターをキャスター付きのテーブルに乗せて運んできた。
明石は字が壊滅的に汚いので、気づいたことはプリントアウトしてホワイトボードに貼るつもりだ。
「事件が起こったのは半年前」早速、田中管理官が説明に入る。「日曜日の午前中、市内郊外の地下道で起こった。そこは国道のバイパスが走っており、県道との交差点に作られた歩行者と自転車用の地下道だった。だが県道が狭かったので、別ルートに拡幅して新しい交差点が作られたんだが、その地下道は残された」
ホワイトボードに現場の位置を示した地図と地下道の写真が貼られた。真ん中に階段、両壁際に自転車用のスロープ、スロープと階段の間に金属製の手すりがある、普通の地下道だった。
「被害者は佐山道夫、17歳の高校2年生だ。彼はジョギングが好きで、市内まで走ってきてゲームショップで買い物をした後、家に帰る途中で階段から転げ落ちて、手すりと階段に後頭部を強打して死亡したものと当初は思われた。しかしその後の捜査で、ポケットにあった財布から
「小銭は残っていたんですか? 最初から
明石の問いに、田中管理官は次のとおり答えた。
「前日に親から1か月分の小遣いをもらったばかりなので、それはない。鑑識の調べで、財布に本人以外の指紋が付着していたことがわかったので、指紋採取者データと照合したが、一致する者はいなかった。」
「犯罪歴のない者が犯人、というわけですか」
「そういうことになるな」
「それで捜査が行き詰まっていると?」
田中管理官はため息をついた。
「手掛かりが全くないんだ。犯罪歴のない者が、いきなり強盗殺人を犯すと思うか? しかも
田中管理官は、右手で室内のメンバーを示しながら言った。
「この特別チームを立ち上げて、捜査方針以外の線を調べてみたんだ。捜査一課長には内緒でね」
「怨恨の線の捜査ですか?」
「そうだ、君を見習ってね。君ならそうするだろう?」
「そうですね、金銭目的の線で行き詰まったらそうしますね。で、成果はあったんですか?」
田中管理官は、少ししょんぼりしてしまった。
「怨恨の線も、全く出てこないんだ。佐山は誰からも好かれていたという。勿論
「それで僕たちが呼ばれたというわけですか」
「そういうわけだ。君ならこの事件をどう分析する?」
「殺害動機については、金銭目的の線とも怨恨の線ともまだ断定できませんね。それ以外のところから探っていくしかないでしょう。死体を写した写真はありますか?」
うっ・・・。また始まったよ明石。どんだけ死体を見るのが好きなんだよ。
田中管理官がホワイトボードに遺体の写真を貼りだしたので、僕は目を背けた。僕はこういうのは苦手なんだ。
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