第8話 おじいちゃんは孫に甘い

「アマンダが育てた子となれば、わしにとっては孫も同然……ほほほ、嬉しいものじゃな」


 玉座に座っていたときの険しい表情とは別人だ。

 皇帝陛下は、それはもうとろけるような笑顔で微笑みかけてくる。

 私のもっちもちのほっぺを指でつついてくる。意外と力加減をわかっているのか、不快ではなかった。むしろ、ちょっと嬉しい。


「べろべろば~」

「きゃ……きゃっきゃっ!」


 前世ではどんどん弱っていくおじいちゃんを介護していたから、こうやって「孫扱い」されると……ちょっと、涙が出てきそうになる。

 皇帝陛下は、私がにこりと微笑みかけるだけで手を叩いて喜んだ。


「皇帝陛下。アデル殿下のことは……」

「うむ、察しておったことじゃ。あれの母親は、もとより敵対国から嫁いできた女じゃった……我が帝国に対しても、伴侶としてのわしに対しても、色々と思うところもあったのじゃろうて」


 少し寂しそうに呟く皇帝陛下。


「天災とも呼ぶべきモンスターの発生に対抗すべく、強権的に組織されたのがこの国……シャンガル帝国じゃ。じゃが、わしではなくアマンダを呪うとは」


 アデルさんは、僻地に幽閉という形で処罰する予定らしい。

 婿殿は呪いに関与していないとかで、そのまま生家に返されるそうだ。

 ほっと胸をなで下ろす。

 もし、死刑という判断になるとしたら、心穏やかではいられなかっただろう。私が多くの人が集まったあの場でお母さまに絡みついた鎖を握りつぶしてしまったせいで、アデルさんが死ぬ……というのは、ちょっと責任を感じてしまう。


「ところで、だよ。その呪いを解いたのは、一体どういうカラクリなのかね?」


 女の子の声が響いた。

 ローブを着た人影が、ばさりとフードを脱ぎ捨てた。

 赤い髪を二つ結いにした女の子だった。年齢は16歳前後というところか。


「あの呪いは古く、アマンダ殿下の魂に馴染みきっていた。広間にいた者で呪いの存在を感知できていたのは、僕の他にはあと数人といったところだろう。解呪が可能な僧侶も白魔法の使い手もいなかっただろうね……それが、急に呪い返しが起きて驚いた」


 口ぶりからすると、かなりの腕利きの魔術師みたいだ。

 騎士のお兄さんが、冷静な口ぶりで同調する。


「シュヴァルツ。それについては、俺からも説明を求めたい。王城にある戦力の把握は、騎士団として当然の勤めだからな」


 皇帝陛下が連れてきた2名は、それぞれ腕のいい魔術師と騎士ってことね。なるほど、護衛に不足はないだろう。


「それは……」


 シュヴァルツさんが口ごもる。

 ちらり、と私に視線を送ってきた。

 私は首をブンブンと横に振る。私じゃありません、断じて!

 こんな小さな体で、面倒には巻き込まれたくない。


「リリィ、アインツ、落ち着け」


 魔術師の女の子がリリィ。騎士のおにいさんがアインツというらしい。

 彼らの様子を見るに、このシャガル帝国という場所は能力さえ高ければ、若かろうがなんだろうが、即戦力として採用しているっぽい。

 もちろん、自分がそんなに優秀な人材とは思えないが……でも、『FFG』のゲーム設定の中でサクラが「過労死聖女」ってポジションだったことは忘れちゃいけない。


「そのことじゃが……わしの勘ではあるがのぅ、あの呪いを解いた者はおまえではないか?」


 皇帝陛下が指さしたのは……。


「は、はいぃ!?」

「ノアル・シュヴァルツ。アマンダにかけられた不妊の呪いを解いたのは、おまえじゃな?」


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