第29話 前編

「こんにちわ」


 間の抜けた声が鬼道隊の残党たちの巣に響く。


「早速で悪いけど死んでもらうよ」


 ラファールとなった冬の右腕から、何もかもを吹き飛ばすような深緑の球体が放たれる。


 吸血鬼となった鬼道隊たちは一方的にぶっ飛ばされ、同時に爆発に巻き込まれていた。


「うーん、ちょっと水素が多めだったかな?」


「お前、やり過ぎだろ」


 呆れた声で、クフィール姿の宗護がそう言った。


「やっぱり僕、ちょっと怒ってるみたいだね。家族を引き裂いたり、愛情を利用する外道にはどうしても手加減が出来なくてさ」


 水素と酸素を混合させ、気力の膜で包みこんで発射する。


 冬お得意の緑風弾はグレネード弾以上の破壊力を誇るが、それだけに使いどころを間違えると何もかも吹き飛ばしてしまう。


「お前はこの廃ビルを吹っ飛ばしに来たのかよ? 違うだろ」


 宗護が冬に注意すると、鬼道隊の一人が密かに宗護へと襲い掛かってくるが、宗護は右腕に持った愛刀の金獅子を容赦なく突き刺していた。


「そういう宗護も頭に来てるんじゃない?」


 冬がそう言うと、金獅子に刺された鬼道隊員は一瞬にして燃え上がり、炭素になってしまった。


「頭に来ない方がおかしい。こういう腐れ外道どもは、滅却するしかないからな」


意図的に怒りを込めた声で、静かに、同時に全てを焼き付くしそうな熱量でそう言った。


「貴様ら、何しに来た?」


 鬼道隊員が錫杖を突きつけて二人を囲むが、宗護は険しい顔つきで、冬は不敵に笑っていた。


「卑劣に人質取ってる外道共から一般市民を救助に来た」


「ついでに卑劣な犯罪者たちを駆逐しに来たよ」


 二人の言葉に、鬼道隊員たちはすかさずに吸血鬼化し、襲い掛かってくる。


「正体さらけ出したか」


「その方がいいよ、だってさ……」


 冬はすかさず、襲い掛かってきた吸血鬼を愛刀で胴体を一文字に切り捨てる。


「これなら何の罪悪感も無しに切り捨てれるからね」


「お前らも災難だな。なまじ、吸血鬼になったばっかりに逮捕じゃなく駆除されるんだからな」


「ホントだよ。吸血鬼は駆除対象って知らなかったのかな?」


 何人かの理性ある吸血鬼が動きを止める。


 軽口ではあるが、宗護と冬の言葉には殺気が含まれていた。


「お前ら、自分たちが吸血鬼になって強くなったと勘違いしてるかもしれないが、お前らがやったことは完全なる自殺行為だ」


「人間のままだったら、最悪無期懲役で塀の外に出てこれたかもしれないのに。つくづく、君らは救えないよ」


 たじろぐ吸血鬼、元鬼道隊や霊安室のメンバーは立ちすくんでいたが、一人だけが発勁を放ってきた。


「お前達には分かるか! 拝み屋だの、役立たずだの、時代の遺物だとと蔑まれてきた我々の気持ちが……」


 そこまで言いかけたタイミングで、金獅子が顔面に突き刺さっていた。


「それで犯罪を正当化できると思っているのか? 俺たちも舐められたものだ」


 投げた金獅子を掴み、男を壁ごと突き刺しながら、金獅子の先端から炎があふれ出す。


「あがががが!」


「やっぱりお前らには、砂一つ分の慈悲も必要がないことがよく分かったよ」

 

 頭は無論のこと、そのまま金獅子から生み出された炎は瞬く間に吸血鬼となった鬼道隊員を炭素にしてしまった。


「ぼさっとしてるんじゃないよ!」


 旋風神をレーザーブレード化させ、冬は吸血鬼達の体を切り裂いていった。


「宗護が言ったけどさ、君らはもう、死ぬか殺されるかのどっちかしかないんだよ。僕もさ、気が長い方じゃないんだよ」


「俺もだ、お前らは殲滅する。今の内に念仏でも唱えてろ」


 金獅子の刀身が炎に包まれていく。


「星心・轟炎!」


 宗護の態度に何かを諦めたのか、開き直ったかのように襲ってくる吸血鬼達を宗護たちは再び切り裂いていくが、斬られた吸血鬼達は全身を焼き焦がされていく。


 星心によって生み出された炎が刀身を包み、切った対象を五千度の火力によって焼却させる。


 圧倒的な火炎の力によって、相手の業ごと全てを焼き尽くし、滅却させる剣から、この技はこう呼ばれていた。


「火炎焼業剣……久々に頭に来てるみたいだね」


「この事件が始まってから、正直激怒しっぱなしだよ。で、今は完全に大激怒してる」


 轟炎に包まれた愛刀を突きつけられ、吸血鬼達はたじろいでいた。


「僕も大激怒してるよ。ま、大巨神様と違って生かしておくだけの自信はないけど」


「お前が生かしておいた試しはないだろ」


「心外だな、そんなことないって。たまには見逃すこともあるさ」


 ふざけながら冬はそう言うが、一体の吸血鬼が隙を突くように迫ってきた瞬間に冬の突風に壁際へと叩きつけられる。


「稀だからこそ、見逃すんだけどね」


 水素と酸素の混合弾を叩きつけ、吸血鬼達は吹き飛ばされ燃やされていく。


 宗護と冬、クフィールとラファール相手では戦いにすらならず、吸血鬼達はまるで害虫駆除業者に駆除される害虫のように、処理されていった。


「調子に乗るなよ貴様ら!」


「こっちには、人質がいるんだぞ!」


 流石にやられっぱなしというわけにはいかないのか、彼らも意地を見せてきたらしい。


「知ってるよバーカ」


「分かり切ったこと言ってんじゃねえよ」


 白けた口調で二人はそう答えるが、怒りのボルテージは静かに、それでいて同時に燃え上がっていた。


「黙って大人しくしてりゃさあ、今日死ぬのが明日ぐらいになったかもしれないのに。なんで君らみたいなアホはさ、わざわざ死にたがるかな?」


「待て! 黒崎がどうなってもいいのか?」


 吸血鬼の一人が脅しのつもりでそう言ったのだろうが、二人には完全に逆効果であることに気づいていない。


「やってみろよ。その時はお前ら全員あの世行き確定だからな」


「待ちなよ。彼らにも慈悲を与えるのもそう悪いことじゃないと思うよ」


 金獅子すら燃やし尽くすほどの炎を突きつける宗護に、冬はそっとその肩を叩いた。


「君ら、助かりたいかな?」


 冬の提案に、何人かの吸血鬼達が動きを止める。

 

 すかさず冬は動きを止めなかった吸血鬼達に狙いを定め、指から空気弾を発射した。


 高圧縮された緑風弾は、容易く吸血鬼達の頭部を粉砕する。すかさず宗護は吸血鬼達を焼き焦がしていった。


「まーだ状況が分かっていないアホがいるみたいだね。僕らは君らを助けたいと思っているのにさ」


「さっさと黒崎さんを出せ。お前らが助かる道はそれしかない」


 ここまで言っても鈍い彼らに苛立った宗護は、目の前にいた吸血鬼を頭部から唐竹に切り捨てる。


 両断された肉体が炎に包まれ、黒焦げになっていく姿にようやく恐怖を感じられるようになったのか、吸血鬼達は大人しくなった。


「やっと、話が理解できるようになったみたいだな」


「分かったならさっさと黒崎さんがいる場所まで案内してね。ちなみに、八つ当たりしたり逃げたりしたら、この世に存在することが、地獄に感じるぐらいの苦痛を与えるよ」


 後半部分だけ、あえて冬は静かに低い声でそう言った。


 普段おちゃらけている冬であるが、いざという時はなりふり構わずに相手の息の根を止めるだけの覚悟を持ち合わせている。


 すでに、我が身が可愛くなった吸血鬼達は黙って二人の言うことを聞く以外のことはできなかったのであった。

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