第28話 前編
思ったよりやる。
霊力を込めた鎧を纏った征一郎相手に、荘龍は久々に手味わったことのない手ごたえを感じていた。
「やるじゃねえかゴミ野郎」
荘龍の悪口に答えるかのように、征一郎は霊力の波動を放ってきた。
アスファルトの舗装を剥がしながら直進してくる攻撃ではあったが、荘龍は自身の能力によって回避し、征一郎の腹を蹴り飛ばす。
「貴様もやるな」
征一郎は腹をさすりながらそう言った。
通常ならば蹴り飛ばすどころか、腹を突き破る威力で蹴ったのだが、予想外に征一郎は丈夫になっていた。
「確かに強くなったわ。前はワンパンでお漏らししたもんな。流石に今は無理だろ」
再び挑発してみるが、征一郎はたじろぐ様子が全くなかった。
「セコイ真似をする。今更、そんな安い挑発は通用しない」
「さよけ」
そう言いつつ、荘龍は征一郎の顔面を殴る。
紅に染まった拳の一撃は霊力によって硬化した顔面をも打ち砕くも、荘龍は全く手ごたえを感じなかった。
「いい突きだ。そこは褒めてやるよ」
「お前にも褒められても嬉しくねえよ。まあアレだ、あの時は強くはなってるんだな」
先ほども殴り合って実感したが、荘龍の攻撃は征一郎の肉体に確実なダメージを与えている。
尤も、そのダメージも全て吸血鬼の因子による恩恵によって、全て回復されてしまう。
だが、決して回復できないものがあるにも関わらず、征一郎は全く戦意を失っていなかった。
「そっくりそのまま返す。貴様に褒められても嬉しくなどない」
「褒めてねえよ、現状分析しただけだよ。オムツからオマルに進化したぐらいで勘違いしてんじゃねえぞ」
再び荘龍は得意の打撃を繰り出す。
圧倒的な速度を誇る神速の突きと蹴りは、征一郎の体を打ち砕いていく。
しかし、吸血鬼の因子によって回復していく肉体は、次第に荘龍の攻撃を防ぐようになっていった。
「見える、見えるぞ」
「テメーの敗北する姿か? さっきボコってやったのに、まだ夢から覚めねえのか?」
からかいながらも、荘龍は若干の違和感を感じていた。
不完全ではあるが、征一郎は防御が出来るようになっている。
荘龍の攻撃を避けることもできなかったにも関わらず、対応しきれるようになっているのは異常というしかない。
「夢ではない、現実さ。前には見切るどころか感じることすらできなかった貴様の攻撃を、今は対応できるようになった。まだ完璧ではないがな」
悪辣なまでな表情を見せつける征一郎に、荘龍は脅威を感じた。
「なるほど、吸血鬼の因子っていうのは恐ろしいな」
征一郎自身は確かに強いが、その力は決してずば抜けているわけはない。
霊気鎧装に至ったのは並大抵のことではないが、この頂きに至った山名冴子のように、霊力を解明して鍛錬を得た結果などではない。
その力は吸血鬼の因子によって手に入れたものだ。
「そうだろう、この力は君たちのデルタスーツにも劣らない。いや、この無限とも言える再生能力は間違いなく君たちの上を行く」
「そこは過大評価だと思うが、それなりの代物だってことは認めるよ。大した力もないお前にここまで頑張らせるんだ。ネズミも大怪物に変幻させるだからな。スゲースゲー、感心するわ」
反論ではなく、征一郎は再び霊気の弾丸を放ってきた。
回避しながら荘龍は宙を舞い、征一郎の胸部に飛び蹴りを当て、怯んだ隙を逃さずに打撃のラッシュを繰り出す。
顔、胸部、腹部、腕、足、股間、全てをランダムに手足を自在に扱いながら繰り出す打撃は、どれもが一撃必殺の威力を持っている。
だが、致命傷を与えたところで意味を持たず、与えたダメージは再生していく。
「無駄な攻撃だ。私の力をまだ理解していないようだな」
本来ならば、即死しているはずのダメージを食らっているはずではあるが、再生という恩恵で征一郎は余裕の態度を見せていた。
「お前の力じゃなくて、お前がドーピングして手に入れた力な。言語能力は再生してくれなかったのか?」
「なんとでも言い給え。この完璧な体を殺す術など無い。だから私は……」
自信たっぷりに答える征一郎であったが、いきなり膝をついて倒れる。
「なんだ、これは……」
その隙を見逃すことなく、荘龍はすかさず光速の飛び蹴りを繰り出す。
圧倒的なスピードによる蹴りは、全身を霊力の鎧で覆った征一郎を簡単に吹っ飛ばした。
「時間切れか? なんならもう一回ドーピングするまで待ってやろうか?」
挑発を繰り返すも、荘龍もまた征一郎の異常を読み取っていた。
膝をついて倒れた征一郎ではあるが、その力は衰えることなく、むしろ増大すらしている。
「こら、時間かけない方がいいな」
ある事情から格闘戦を選んだ荘龍であったが、増大し続ける霊力に嫌な予感がし、 使用を制限していたクリムゾンを抜いた。
「いろいろと聞きだしたい話もあったが、人命と親子の情がかかってるんだ。あばよ」
クリムゾンの出力を最大にし、荘龍は征一郎を葬るべくエネルギーマグナムを放った。
増幅された光の弾丸は征一郎の命を刈り取るべく、真っすぐに放たれていった。
幾多もの怪物を葬ってきたクリムゾンの一発であったが、紅蓮の光弾は肥大化した征一郎の右腕によって天空へと弾かれてしまった。
「何?」
超高出力のエネルギー弾が、簡単に弾かれたことに荘龍は驚愕するも、そのタイミングに合わせて征一郎は右腕から霊力の波動を放ってきた。
凄まじい威力のエネルギーではあるが、避けることは不可能ではない。
そう思ったのもつかの間、荘龍は霊波の直撃を食らっていた。
「この!」
光の速度で動ける圧倒的なスピードから、荘龍は攻撃を食らったことがほとんどない。
無論、攻撃を食らっただけで動けなくなるほど脆弱ではないが、それでも予想外な攻撃に荘龍は若干動揺した。
「まいったね、レイちゃん以外の攻撃は食らわないようにしてたのによ」
かろうじてダメージはとっさにシールドを張ったことで軽減できたが、征一郎は絶叫しながら荘龍へと襲い掛かってきた。
「死ね!!!!!!!」
力任せで両腕を肥大化させて霊力を纏った攻撃を、荘龍は回避しようとするも、それを待っていたかのように、避けようとした方向に蹴りが飛んできた。
「うぉ!」
我ながらブサイクな声だと荘龍は思ったが、意外過ぎる二発目の攻撃に荘龍はあえてそのまま距離を取った。
「たまたまが続くなおいって……」
吹っ飛ばされた隙を見逃さずに征一郎は再び襲い掛かる。
今度は避けようとするも、霊力にて体を拘束されて荘龍は征一郎の追撃をそのまま食らうことになった。
「いつもいつも俺の上をいきやがって! 貴様はずっと目障りだったんだ! 俺が順調に築き上げてきたものを簡単にぶち壊しやがってよ!」
先ほどまであった鷹揚さは消え去り、征一郎は憎悪をむき出しにしてきた。
そんな中で荘龍が一発一発は久しぶりに食らった攻撃の中では、トップ3に入るほどに威力とダメージがあった。
「俺がこの地位にたどり着くまでにどれだけの努力と苦労を重ねてきたと思っている! 我儘な父親、傲慢な兄貴、そして俺を妾腹としてバカにする古参連中! 奴らを見返すためだけに俺はずっと生きてきたんだ!」
すました顔よりもずっといい顔をしていると、征一郎の攻撃を受けながら荘龍はそう思った。
そういう憎悪を貯め込みながら、この男はずっと生きてきた。
それだけがある意味、生きる原動力であり全てだったのだろうが、それだけに威力はあっても響くものを感じられない。
「お前さえいなければ、こんなくだらないことをする必要もなかった。だがな、ある意味感謝してる」
「へえ、感謝してくれるんだ」
「ああ、貴様のおかげで吸血鬼の姫を手に入れることが出来るんだからな。あの子の力は絶大だ。あの力があれば日本はもちろん、世界すら支配できる。薄汚い人間からより高位の存在になり、俺は全てを支配してやるよ!」
あまりにも馬鹿馬鹿しく、同時に征一郎の持つ皇家らしいクズっぷりが垣間見れて荘龍は思わず笑えてきた。
「JKどころかJCの女子に色目使うとか、お前も親父や兄貴と同じでどうしようもねえゲスだな。変態過ぎて笑えてくるよ」
「何だと?」
「何が世界だの、全てを支配するだよ。お前、よっぽど抑圧されてそれに従うだけのしょっぱい人生送ってきたんだな? 親父や兄貴見返したかったら正々堂々とやればよかったじゃねえかよ。お前も所詮は皇家っていうクソみたいな一族の一員だな。カエルの子はカエル、チンカス野郎の息子はチンカスだったっていうことか?」
「調子乗るなよ! 貴様のように安穏した生活を送ってきたわけじゃないんだ! お前もお前の親父のようにぶち殺してや……」
霊力の拘束を力任せに振りほどき、荘龍は征一郎の喉笛と両目を貫手で貫いた。
「親父のように……だと?」
再生はしても追撃できずに隙を作るほどの痛みに、征一郎は怯んでしまった。
「てめえ、黙って聞いてりゃ偉そうなことばっかり言いやがって。テメーに親父の何が分かるんだコラ?」
久しぶりに食らった攻撃と、久しぶりに荘龍の闘争本能にスイッチを入れる言葉に荘龍は荒ぶっていた。
「挙句の果てには、父親と子供を引き裂くような外道行為。何があの子を手に入れるだ! テメーが触っていいのは股間に付いてる風鈴モドキだけだ!」
「やかましい!」
反撃をする征一郎に荘龍は右腕を紅に染めた拳を叩き込んだ。
防御する征一郎の両腕を打ち砕きながら、その拳は征一郎の腹部に命中し、再び征一郎は宙を舞った。
そのタイミングに合わせて荘龍に涼子から通信が入る。
「おう涼子どうした? うん、ああ、何? そういうことね。了解了解、そのままそのアホ捕まえとけよ」
涼子より山城を拘束し、黒崎義隆が捕らわれている場所を白状させた連絡を受け、荘龍は深くため息をついた。
「お前を生かしておく理由も意味も、これで完全になくなったな」
そう言い捨てると、荘龍は全身に気を巡らせる。
「星心、閃光!」
全身が紅のオーラに包まれ、荘龍はゆっくりと構えをとった。
「ここからは本当の戦いだ。遊びの時間は終了したからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます