好奇心の矛先
刻堂元記
第1話 悲劇
ジェシカにとって、マシューは愛する子どもたちのうちの1人だった。ジェシカは、マシューと過ごす時間を何よりも大切にしていたし、実際、マシューは、まだ2歳の小さな男の子だった。
「マシュ、そんなものに触れちゃダメでしょ!」
ジェシカが大きな声で𠮟りつける。マシュという愛称で呼ばれた男の子は、好奇心ゆえか、棚の最下段に飾られていたミニカーを持ち上げ、どこで覚えたのか、
「ブーン、ブブーン、ブゥゥーン」
などという擬音を用いて、車を地面ではなく、空の上で走らせていた。ジェシカはそれを見て、
「はいはい、これはお兄ちゃんのだから、別のおもちゃで遊ぼうね」
と言い聞かせ、誤飲されたり、涎をつけられたりする前に、早めに取り上げた。小さい子どもは目を離したら、何をするか分からない。ジェシカは、それを過去の子育て経験から、充分に自覚していたはずだった。
しかし、ジェシカはマシューに合う良いおもちゃを探そうと、後ろを向いてしまった。一瞬なら大丈夫と思ったからなのかもしれない。
「マシュ、ちょっとだけ待ってね」
明るく、だけど申し訳なさそうな声を出しながら、おもちゃが入った箱の中をジェシカが物色する。だが、ジェシカは、マシューがいつの間にか、そこには本来あってはならない拳銃をいじっていることに、全く気が付いていなかった。
「えへ、えへへ」
「マシュ、どうしたの?何か面白いものでも……」
ジェシカが振り向こうとした矢先、背後から銃声が、パン、パンと聞こえた。背中に激痛が走り、意識がもうろうとしていく中、ジェシカが、拳銃をすぐにでも、マシューから奪わないといけないという強い思いで、腕を伸ばす。
(届……かない……。どう……して、あれが……)
ジェシカは自身の不注意をひどく後悔しながら、その命を絶った。直後、銃声を聞きつけ、駆け付けた家族は、部屋のありさまを見た直後、何が起こったのか数秒間、理解できないまま、その場に立ち尽くしていた。
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