夢幻

とろり。

第1話 宿命



「例の武将が裏で手を引いている。いくさが起こるのは時間の問題だ」

「ん。承知した。これはささやかな物だ、受け取れ」


 やなぎの忍び、そうは隣国の情報を流した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ 


「柳派の連中が邪魔だ、消せ」

「ハッ! 承知いたしました」


 柳派の忍びは少数気鋭。武術、策略等全てにおいて他の流派を凌ぐ。唯一対等に渡り合えるのは、柳派から勘当された可炎かえんという男。彼は師事する武将に柳派の一掃を命じられた。

 彼は武将の命令に背いたことは無い。が、今回ばかりは心に迷いが生じていた。柳派の一掃は一筋縄ではいかない。それに下手をすれば、自らの命が危険にさらされる。

 可炎は死ぬ訳にはいかなかった。幼い娘を残して死ぬ訳にはいかなかった。


 命令に背くことはやろうと思えば出来るが、彼を追う者が増えるだけ。安心できる夜は減る。

 故に

 可炎は準備を整え、柳派を一掃するために屋敷を後にした。



 柳派の住む場所を可炎は知っている。可炎は彼らを一掃するために、一帯に火を放った。

 轟々と燃える森。黒煙が立ちのぼる。

 夜。視界の悪い状態で、柳派の連中は次々に姿を現した。そして円刃えんばをひとりひとり確実に当てていく。


「ぐっ」

「かぁ」

「がっ」


 円刃えんばは全て命中し、柳派の一掃に成功した。かと思われた。


可炎かえんよ、久しぶりだな」

そう!!!!」

「私はそう簡単にはやられんよ」

「くっ!」

「お前にはまだ幼い娘がいるのだろう? まだ死ね無いんじゃないのか? だが、もう手遅れだがな」

「死ぬのはどちらだろうな」

「ふっ、口だけは達者だな」

「ゴタクは十分だ。あの世にいけ!」


 可炎は円刃を投げる。しかし、素早い身のこなしに避けられた。壮が可炎に近付くと短刀を突いた。サッと可炎が壮の裏を取る。しかし――。


ツー、ポタポタ


 壮の短刀が可炎の腹部に突き刺さった。


「くっ、何を……」

「可炎よ、忘れたのか? 私には幻術という武器があることを」

「くっ……」

「決着はついた。屍は埋めてやる」


 可炎が倒れると、壮は不気味に嗤った。



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