第30話 ドローンよ、あれが横浜町の菜の花だ

「昨日は大騒ぎして申し訳ありませんでしたああああああっ!」


〝なんだなんだ。朝から配信が始まったと思ったら、明日香が土下座してるぞ〟

〝昨日のホテルのロビーか〟

〝ホテルの人に謝ってるのか〟


「誰か怪我したわけでも、なにか壊れたわけでもないので。頭を上げてください。それより、仲直りできたのでしたら、三人で横浜町の菜の花を楽しんでください。そして来年また来てくださいね」


「ありがとうございますぅぅぅぅぅぅっ!」


〝ホテルの人、めっちゃ人格者〟

〝謝れて偉い〟

〝拓斗さんとアミーリアたんにも謝ったのか?〟


「それはもう。今朝、起きたら土下座で待機しててビックリしました」


〝土下座待機w〟

〝それは許すしかない〟

〝まあ当事者たちが許してるならいいか〟


「よかったですね、アスカさん。これで陸奥湾のもくずにならずに済みますよ」


「ありがとう、アミーリアさん! やっぱり誠心誠意に謝るのが一番ね!」


〝なんかこの二人、仲良くね?〟

〝どうしたの?〟


「俺にも分からなくて……起きたらこうでした。俺が寝てる間になにかあったんだと思うんだけど、教えてくれなくて」


〝拓斗さんが朴念仁すぎて、百合に走ったか〟

〝明日×アミか〟

〝一番あり得ないと思っていた組み合わせが現実のものに!?〟

〝キマシタワー〟

〝百合厨はちょっと黙ってて〟


「俺のチャンネルのコメント欄ってかなりの頻度で意味不明になるから、拾いづらいんだよなぁ……ま、いいや。そんなことより菜の花畑に向かいます。アミーリアさんと明日香さん、ちゃんとついてきて」


「「はーい」」


〝当たり前のように明日香と行動を共にしてるけど、拓斗さんはそれでいいのか〟

〝いきなり『赤ちゃん産みたい』とか言い出す相手だぞ〟


「昨日は確かにインパクトありましたね。けれど、ちゃんと謝ってくれたし。友達になろうってことで話がまとまりました。明日香さんみたいなベテラン配信者が友達になってくれたら百人力なんで、俺としても嬉しい限りです」


〝すげぇな。俺だったら全力で逃げるわ〟

〝選択肢を間違えたらナイフで刺されそう〟

〝けど拓斗さんなら刺されたところで平気じゃね? 唾つけとけば治りそう〟

〝つーか明日香の剣じゃ全力で振り下ろしても刃が通らんだろw〟


「コメント酷くない? まあ、なに言われても仕方ないことしましたけど」


〝おっと。アミーリアたんと違って明日香はコンタクト型デバイス入れてたか〟

〝明日香の口調、いつもと違うくね〟

〝昨日に比べれば普通〟

〝そういうことじゃなくて〟


「今まで清楚系として売ってきたけど、あんな醜態さらしたら、もう無理なんで。これからは素の性格でいくんで。よろしくお願いしまーす」


〝まだ配信者としてやっていくつもりなのか。強い〟

〝もう無理じゃね?〟

〝いや、昨日の病んでる感じは、むしろ需要ある〟

〝俺は好きよ。俺のこと監禁して飼育して欲しい〟

〝ここのコメント、たまにヤベェの湧くよな〟

〝全然たまにじゃない定期〟


「菜の花畑が見えてきました。どうですか? あの鮮やかな黄色、カメラ越しでも伝わってますか?」


〝確かに鮮やか〟

〝だけど遠くてよく分からん〟

〝でも広いのは分かる。黄色い地平線〟


「じゃあドローンで空撮してみましょう」


〝そうか、ドローンってそういう機能もあったな〟

〝ドローン撮影って空撮してこそだろ〟

〝ダンジョン配信者のドローンっていつも自動追尾ばっかりだから忘れてたw〟

〝黄色が増えてきた〟

〝マジで広いな!〟

〝クラナドで見た!〟

〝画面がほぼ黄色だ。こんなに広い菜の花畑は初めて見た〟

〝凄すぎて語彙が死んだ〟

〝横浜町の菜の花畑は凄いぞおじさん「横浜町の菜の花畑は凄いぞ」〟

〝ああ、ドローンの高度が戻っていく。この景色をもっと見せてくれ~~〟

〝空撮ばっかりだと拓斗さんたちが見えないから仕方ない〟

〝お花畑でキャッキャウフフするアミーリアと明日香を撮るんだ〟


「空撮って、つまり空からの景色ですよね? 私も見たいです!」


「そっか。アミーリアさんってスマホ持ってないんだっけ。じゃあ今度は私のドローンで空撮するから一緒に見よ。あと、今度一緒にスマホ買いに行こう!」


「ありがとうございます、アスカさん! わあ、本当に真っ黄色ですね!」


「この迷路みたいなのなんだろう?」


〝美少女二人が寄り添っている姿は眼福じゃ〟

〝明日香の笑顔いいな。昨日の般若みたいな顔が嘘みたいだ〟

〝あれは拓斗さんをアミーリアたんに盗られたゆえだからな。わだかまりがなくなったっぽいから、こっちが素の明日香なんだろう〟

〝やっぱ男なんかいないほうがいいんだよ。女の子だけで仲良くすべきなんだよ。俺が全能者だったら世界から男を抹消するのに〟

〝そしたらお前も消えるじゃね?〟

〝俺は概念的存在になって女の子だけの世界を未来永劫に見守っていくんだよ〟

〝また新手の上級者が出てきたな〟


「迷路みたいなのは本当に迷路だよ。草を刈り取って、菜の花畑の中に通路を作って、毎年この時期に一般開放してるんだ」


「じゃあ菜の花畑の中を歩けるってことですか!?」


「あの綺麗なお花畑を、合法的に!」


「そりゃ菜の花フェスティバルのために作った迷路だから。歩いても不法侵入にはならないよ」


「わくわくしますね! 行きましょう明日香さん!」


「待ってよ、アミーリアさん。そんな急に走り出さないで。小学生じゃないんだから、もう、仕方ない人ね」


〝尊い。ああ、尊い〟

〝なるほど、これが百合ね〟

〝菜の花畑だけど百合の花が見えた〟

〝なんか拓斗さんがボケッと突っ立ってるけど追いかけないの?〟

〝拓斗さん?〟


「ああ……いや、なんつーか。こういうときアミーリアさんはいつも俺に呼びかけるのに、今日は『行きましょう明日香さん』なんだな、と思って」


〝明日香にアミーリアたんを寝取られたか〟

〝NTR! NTR!〟


「なんだよ寝取られって。俺とアミーリアさんはそういう関係じゃないから、取られるもなにもないっつーの。ただ俺の名前を呼んでもらえなかったのが、ちょっと寂しかっただけで……」


〝あ、ガチで落ち込んでる〟

〝元気出して〟

〝アミーリアたん、友達作る機会がなかったから。同性の友達ができて、はしゃいでるんだよ。別に拓斗さんがいらなくなったわけじゃないよ〟

〝そうそう今だけ。そのうちまた『拓斗さん拓斗さん』って寄ってくるから〟


「みんな優しい……ありがとう。分かってる。アミーリアさんに歳の近い女友達ができて、俺も嬉しいよ……」


〝拓斗さん、お言葉ですがアミーリアたんは三百歳ですよ〟

〝明日香よりシルヴァナさんのほうが歳近いよ〟


「言われてみると確かに」


〝気持ちは分かる。アミーリアたん、見た目だけじゃなくて言動も十代っぽいからな〟

〝塔に引きこもってたせいで人生経験が乏しいからだろ。長生きして達観してるところもあるけど〟

〝それを拓斗さん色に染めてる最中だったのに明日香色が混じって、拓斗さんが絶賛嫉妬中というわけですね〟


「いや、だから嫉妬とかはないってば」


〝自分のことは自分では分からないものですよ〟

〝三角関係が盛り上がって参りました〟

〝盛り上がるな。百合の間に挟まるな〟

〝百合とか三角関係とかどうでもいいよ。拓斗さんの活躍だけ見ていたい。俺ホモじゃないけど拓斗さんだけを見ていたい〟

〝リスナーの中に色んな派閥ができてきたな……〟

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