第11話 碇ヶ関の道の駅

「拓斗です。配信再開しまーす。俺たちは無事、青森県に来ました」


「視聴者のみなさんには、ご心配おかけしました」


〝お、生きてる〟

〝そこが青森県かぁ。建物の中だからよく分からんな〟

〝二人とも髪が濡れてる。瘴気を超えるのはやっぱ大変なんだな〟

〝拓斗さんでさえ汗だくとか〟


「まあ汗はかきましたけど、これは汗じゃないです。温泉から上がったところです」


〝は?〟

〝風呂上がりのアミーリアたん!〟

〝絶対いい匂い!〟

〝モニターから花の香りしてきたわ〟


「碇ヶ関の道の駅ってところに来てます。地名に『関』とつくだけあって、かつて関所があったらしいです。津軽藩と秋田藩の境目だからでしょうね。さっきの矢立峠と同じく、道の駅に温泉があるんですよ。こっちは営業してます。瘴気を越えた疲れを汗と一緒に流しちゃいました」


「いい湯でしたよー。お肌すべすべになりました」


〝なんでアミーリアたんの入浴配信しないんだよ!〟

〝するわけなかろw〟

〝風呂上がりを見れただけで満足です〟

〝しっとりと濡れた髪が色っぽい〟


「ありがとうございまーす」


〝魔女ちゃん、配信慣れした女の子って感じ〟

〝ファンタジー世界の住人なのに拓斗さんより配信者っぽい〟

〝もはやアミーリアたんがメインでいいんじゃない?〟


「うふふ。あんなこと言われてますよタクトさん」


「無愛想で悪かったな。これでも改善しようと頑張ってるんだよ」


〝確かに初期に比べるとよくなった〟

〝明日香チャンネルでバズる前の動画見たけど、マジで淡々とモンスター殺してるだけの動画だもんな〟

〝コメントが一つもつかないなら、やる気が出ないのは仕方ない〟


「へえ。タクトさん努力してるんですね。えらい、えらい」


〝頭なでなで!?〟

〝いきなり距離近くない!?〟

〝配信切ってる間になにがあった! ナニしたのか!〟

〝この距離の近さは間違いない。混浴したな〟

〝お前ら、もうそういう関係かよ!〟

〝結婚式も配信してね〟


「け、結婚!? そういうんじゃなくてですね! 瘴気の中を歩いてるとき、タクトさんが何度も励ましてくれて。すっごく頼りがいがあって……だからせめて、なんでもないときは頼りになるお姉さんになりたくてですね!」


〝けっ、のろけやがって〟

〝(お姉さんって年齢か?)〟

〝499までは四捨五入したらゼロだからへーき〟

〝その桁で四捨五入するんかい!〟

〝じゃあ俺らも赤ちゃんだな。ばぶばぶ〟


「無理に年上ぶらなくても、俺はアミーリアさんを頼りにしてるよ。なにせ異世界から地球に帰ってこられたのはアミーリアさんのおかげだし。地元の人でも耐えられないような瘴気を、ちゃんと自分の足で越えてきた。胸を張っていい」


「タクトさん……」


〝なんだこれ。エロいことしてないのにエロいぞ〟

〝拓斗さんを見つめるアミーリアたんの表情はずっとエロいよ〟

〝こんなん十八禁じゃないだけで実質ポルノだろ〟


「おいコメント欄。根も葉もないこと書くな。アミーリアさんが困るだろ」


「根も葉もない……ええ、まあ……」


「さて。丁度バスの時間なので、バスに乗って弘前に行きます。移動時間とか見ても面白くないでしょうから、配信切りますね」


〝待って! 流しっぱにして!〟

〝青森県のバスって木炭車?〟

〝リンゴを動力にしてそう〟


「馬鹿にするな。普通のディーゼルエンジンだ。見せてやるからちょっと待て!」


〝待ちまーす〟

〝お、建物の外に出た〟

〝周りを山に囲まれてる。こうやって見ると普通の田舎だな〟

〝タコ焼き売ってる。美味しそう〟

〝割と賑わってるな……青森県って本当に人間が住んでたんだ……〟

〝バスが来たぞ〟

〝なんか屋根の上についてね?〟

〝機関砲……?〟

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