クイーンゲーム

あんせる

第1話:出会いはいつでもロマンチック

「お買い上げ頂きありがとうございますっ!!」


 土曜日、強い日差しがアスファルトを照らす、私はお客さんに太陽に負けないくらいの笑顔で挨拶して、いつもの様に花達に水を配る。

 私は土曜日なのにも関わらず実家の花屋の手伝いをしている。...あ、嫌々やっている訳では無いよ、私...花咲 絵梨ハナサキ エリは、いつか自分の花屋さんを持つのが夢で、毎週土曜日と平日に時間がある時は、こうして花屋になる為の修行をしているのだ。


「絵梨~!!ちょっと、配達頼める~??」


 二階から花の剪定をしている私の母が呼びかける、女手一つで私をここまで育ててくれた自慢の母だ。


「は~い!!...町田さんのとこ~??」


「そうそう~暑いから気を付けて行ってきてね~」


 私は花をまとめて、花屋のエプロンを身に付けたまま外に出る。地球温暖化の影響なのか、溶けそうなほど暑い温度に身を包まれながら、注文を受けた町田さんの元へ向かう。


「...わぁっ!!!!」


 突然、私の背後から物凄く大きな声が聞こえてきて、私は思わずびっくりしてしまい、勢いよく後ろを振り返る。


「あははっ!!お姉ちゃん...毎回そのリアクションじゃん!!ウケる~!!」


「...もぉ、やっぱり百香だ...いっつも驚かさないでよね?」


 この子は私の妹の花咲 百香ハナサキ モカ普段は良い子で自慢の妹なのだが、私にイタズラするのが趣味で、毎日こんな感じで驚かされている...。

  余程私を驚かせたのが嬉しいのか、口元を両手で隠して、ニヤニヤしている、姉として妹に好かれるのは大変嬉しい事だし、仕草が可愛い百香は花と同じくらい、私の癒しなのだ。


「配達してるの?百香も手伝うよ?」


「ほんと?じゃ、一緒に行こっか!!」


 私の問いかけに対して百香は、大きな声で「うん!!」と返事して、太陽のように眩しい笑顔で私に手を差し出す、どうやら手を繋ぎたいようだ。

 私はその手に向かって手を伸ばす、指先と指先が触れ合おうとした瞬間、異変が起きた、私のこの平和な日常を壊す、異変が...。


「...!?百香っ!!危ないっ!!」


 突如として、百香の背後の空間がぐちゃぐちゃに歪む、歪な空間の中から、黒い手の様な物が勢いよく百香の肩を掴み、ぐちゃぐちゃの空間に引きずり込もうとしている。

 私は反射的に百香の肩を掴んで、後ろに倒れさせる、黒い手のような物が百香の肩から離れて一安心した瞬間、一本の黒い手が私の肩を掴んで、ぐちゃぐちゃの空間の中に引きずり込む。

 抵抗虚しく、私はそのまま引きずり込まれ、私が最後に見た光景は、百香が引きずり込まれる私に向かって手を伸ばしている姿だった。


























「う...うぅ......もか...」


 どうやら私は気絶してしまっていた様だ、意識を取り戻し、目を開けるが...何も見えない、ここがどこなのか、どれくらいの時間が経過したのか、何も分からない...。

 百香は無事なのだろうか、これから私はどうなるのだろうか、様々な不安に身体を震わせると、手元に何か柔らかい感触のものがある事に気付く。


「な...なんだろう...柔らかい...」


 暗闇に目が慣れてきたのだろうか、柔らかい物の正体に気付く、...女の子だ、私と同じ年くらいだろうか、綺麗に整えられ、肩まで伸びているいる黒髪に、華奢な身体、不思議と彼女からは猫を連想させる雰囲気があって、思わず見とれてしまうと、彼女が目を開く。


「...あっ、え、えっと...こんにちは...!!」


「貴方...いつまで触ってるの...?」


「へ?...あっ!!!」


 凛とした声で彼女の言葉を聞くと、私の手が彼女の胸に触れている事に気付いて、直ぐに手を離す、とんでもない事をしてしまったと猛反省して、顔を赤くすると、彼女が辺りを見渡し始める。


「あ...あの...ここがどこか分かりますか...?」


「.........」


「あ...あのっ...!!」


「気安く話しかけないで、セクハラ女」


「せ...せくっ...そ、そんなつもりじゃ...!!」


 彼女の誤解を解こうと、手をあたふたさせて説明しようとしたその時、唐突に、ぱっ...と部屋の照明が付く。

 ...お城の中...そこは、中世に出てくるお城の中の様な空間で、とても広い...高そうな家具や、天上にはとても大きなシャンデリアが吊り下がっている、...そして、私達のように、大勢の人が地面に横たわっている、中には既に目覚めていて、ここがどこなのか話し合っている人、パニックになっているのか、恐怖し、身体を震わせている人...。

 うさ耳のついたフードを被っている少女が刃物を片手に、一点を見つめている...。


「はいっ!!みなさしゃん!!おはようございましゅ!!」


 突如、小さな女の子の様なキャラクターが、巨大なモニターに映し出される、その声の大きさからか、今まで眠っていた人達も起き上がり、ざわめきが起こる。


「みなしゃま!!混乱していると思いましゅが!!落ち着いてくだしゃい!!これから!!ゲームについての説明を行いましゅ!!」


「ゲーム?なんだそれ?」「私、早く帰りたいんだけど」

「お母さん...?お母さん...どこ?」「だっる...なにこれ...」

「ねぇ、この後仕事なんだけど...」「テレビの企画か?」

「ちょっとぉ!!このあと彼氏とデートなのに...!!」

「テレビの企画?まじ?」「あの...トイレ借りても...」

「私そんなの応募した覚えないよ~?」「jq5tkw,...」

「テレビ?ねぇテレビだって!!」「なんなんだよ...」


「...うるせぇ゛黙ってろ!!クソビッチが!!!」


 少女の様なキャラクターの態度が豹変し、荒々しい口調になると、全員が静まりかえる、暫く静寂が続くと、少女のキャラクターは元の口調に戻り、再度説明を始める。


「わたちは今回の【クイーンゲーム】の実行係...「めるてぃ」ちゃんでしゅ!!よろしくお願いしましゅ!!」


「早速でしゅが!!みなしゃま!!自分達の右手首をご覧くだひゃい!!」


 言われた通り右手を見てみると、見慣れないピンク色のブレスレットを身に付けていることに気付く、ブレスレットと言うよりかは腕時計に近い形で、ディスプレイの様な部分に触れると、画面が光る...。


「それは「めるてぃウォッチ」でしゅ!!無理矢理外そうとすると毒物を注射されちゃいましゅのでお気を付けくだひゃい!!!!」


「ど...毒物...!?」


 私を含め、会場にどよめきが起こるが、めるてぃと名乗ったキャラクターは説明を続ける。


「ちなみに!!毒物は今夜の22:00にも注射されてしまいましゅ!!なので!!皆様は今晩で確実に死にましゅ!!!」


「う...嘘...そんな...」


「しかしでしゅ!!私が開催する「ゲーム」に参加して、勝ち残れば、毒物を一日だけ無効化する「おくすり」をプレゼントするでしゅ!!」


「なのでみなひゃま!!どんどんゲームに参加してくだひゃい!!」


「おい゛!!お前!!いい加減にしろ!!」


 めるてぃの話を遮って、金髪の女性が立ち上がり、声を上げる。


「さっきから聞いてりゃ毒物がなんだとか...いい加減にしろ!!私はそんなゲームに参加した覚えは無い!!」


 金髪の女性に感化されたのか、会場から拍手が巻き起こり、勇気を出して発言した彼女を賞賛すると共に、めるてぃに対して激しい抗議が始まる。


「あーもう...うっとおしいでしゅねぇ...」


 めるてぃが右手を上げると、金髪の女性のブレスレットが点滅する、その数秒後にぷすっ...と金髪の女性の腕に何かが刺さると、女性の腕が黒く腫れ上がり、もう片方の腕で首元を押さえつける。


「い゛ッ...息がっ...がぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」


 金髪の女性はそのまま地面にうつ伏せになると、暫くの間のたうち回り、その後、ぱたりと動かなくなる...。


 あまりにも衝撃的な光景に、会場がどよめいていると、金髪の女性の近くにいた女性も、同じ様に腕が黒く膨れ上がり、息が出来ないと叫び続け、数秒後にぱたりと動かなくなる。


「説明を聞かない子はお仕置でしゅ...」

「君たちにはそれぞれ「ぺあ」が設定されていますでしゅ!!!ぺあが死亡すると自分も死亡するので注意でしゅ!!」

「ペアはめるてぃウォッチから確認出来るから、みんな1回確認してみるといいでしゅ!!」


 訳の分からない状況に始めてみる人の死体、私はこの状況に混乱しながらも、言われた通りブレスレットを操作して、色々な項目を見てみる...。

 ゲームの説明を記す項目の隣に、「プロフィール」と書かれた所をタップしてみると、私のペアの名前と顔が表示されていた。


伊黒 レイイグロ レイ


「こ...この子...」


「花咲 絵梨...」


私のペアは、猫を連想させる黒髪の彼女だった。



「ゲームが終了するのは...ここにいる参加者1000人...いや、998人が10人になるまで続けることでしゅ!!」


「【クイーンゲーム】...開幕でしゅ!!!」






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