珈琲と莨

辻島 治

カフェーパウリスタ

 銀座駅から数分の場所。お気に入りになったのは、パウリスタオールド。深めな味が、好きな莨の味に似ている気がする。


 暑いうちに口に含めば深めに焙煎された豆の風味をダイレクトに舌に、口内に感じ、鼻腔には草原のような香りがひろがる。そんな莨の銘柄は、思い浮かばないし、なんだったかな、という感じだ。もしかしたら、祖父の引き出しからくすねて吸ってみた莨の香りに、似ているのかも知れない。どこか、懐かしい気がする。


 最初、莨を吸った時は、美味しいとは感じなかった。パサパサている苦い草の味がする、というものだった。が、学生時代に焙煎珈琲の美味しさに気がつき、それから、大人になる頃には、喫煙することの意味が、分かった。周りからは、身体によくないことや、その時間がもったいないんだよと言われるかも知れないけれど、人間の脳みそは24時間をフル稼働できるようにはできていない。そう、自分は、考えている。


 勇敢と無謀は、大きく異なることだった。と、今になって、気がついた。そう、莫迦に気がついたら、無意識のうちに苦笑してしまった。


 もしも、十年後の自分が、この日の十年後にこの文章を読んだら、どう思うだろう。その時の自分も、また苦笑しているのかも知れない。


 未来のことはわからないし、過去は変えられない、だからこそ、どうなりたいのか、なにがしたいのか、今の自分がみつけてゆかないといけないことだ。


 店内を出たら、風が吹いた。そっと、目の前を何かが通り過ぎた気がするが、それはもしかすると、そっと振り向いてみただけの幻想に過ぎないかも知れない。

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珈琲と莨 辻島 治 @Tsujishima_036

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