消えない血痕
独り暮らしを始めたM晴荘では、とにかく台所に違和感があった。曇りガラス越しに手形と顔を見るという不可思議な体験もあった。
台所で何かがあったのか。
そんな漠然とした思いはあったが、では何があったのかは全く分からなかった。今ほどネットが普及していなかった平成十三年。知識不足といい加減さで、契約のときに不動産屋に詳しく部屋のことを訊かなかった自分も悪い。
そんな漠然とした思いを募らせながら暮らしていたが、当時付き合っていた彼女には一切、それらのことは言わなかった。
怖がって、部屋に来てくれなくなるのが嫌だったのだ。若気の至りというか、煩悩の塊というか。
二週間に一度くらいの頻度で彼女は来てくれた。
そのときに限って奇妙なことが起こった。
彼女が来た日だけシャワーボックスの電灯がつかなくなるのだ。
「電球が切れてるよ」
彼女が教えてくれた。
確かにつかない。
気が利かないから替えの電球はなかった。
今度替えておくね。
そう言うのだが、不思議なことに、彼女が部屋から去ると電灯はついた。
これは一度や二度ではない。
必ず、ということではないが、電灯がつかなくなるのは決まって彼女が来たときだった。
「また切れてるよ、どうして新しいのにしてくれないの?」
途中からは呆れられたが、翌日にはつくのだから替えるタイミングがない。
ちなみに、僕はこの部屋に三年間住むことになるのだが、結局、退去するまで一度も電球を替えることはなかった。
三年間、ずっとだったのはそれだけじゃない。
シャワーボックスの壁についた血も、三年間ずっとあった。
その原因かもしれない過去の出来事を知ることになるのは、もう少し先のことだった。
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