能力者たちのデスゲーム

虹空天音

シーズン1~鬼ごっこ~

ゲーム開幕

第1話 ゲーム開始前

 真っ暗な視界。

 眼が閉じられているから、自分は眠っていることが分かる。

 自分の寝ている地面は固く、平らだけど冷たかった。


 そして———僕はゆっくりと、目を覚ました。


「ん……あれ……ここは、どこだ?」


 僕がゆっくりと起き上がって周りを見回すと、たくさんの人が狭い部屋に押し込められている、ということが分かる。


 そして僕を覗き込んでいるのは、目鼻立ちの整った、モデルと言われても信じるしかない美少女だった。


 その隣では、大分年上の男性が、僕を見下ろしている。


「あっ、やっと起きたんだね。ちょっと心配しちゃった」


 その美少女は愛らしい笑みを浮かべて、笑いかけてきた。

 隣の男性が僕に手を差し伸べて、立たせてくれる。


「怪我は……ねえな。よし、ちゃんと立てるし大丈夫だ」


 意外といい人かも。

 顔が怖かったので、僕はホッと安心しながら、二人に尋ねた。


「すみません、ここがどこか分かりますか?」


 その二人は顔を見合わせて、首を振った。


「分からないんだよ、それが」

「ああ。唯一の知り合い、うちの事務所の稼ぎ頭、桜庭さくらば美晴みはるがいたもんだから、二人でいるんだが」


 やっぱり、その……美晴さんは、事務所に入っているんだ。


 それならその美少女ぶりももっともだと、僕は納得した。

 そして安心した僕は、


「自己紹介でもしませんか?」


 と提案してみたんだ。

 二人はうなずいて、すぐさま我先にと自己紹介をしてくれた。


「私はまぁ言った通り桜庭さくらば美晴みはる。とある事務所でアイドルやってます。実は………」


 美晴さんが何か言いかけたが、ハッと口をつぐみ、首を振った。


「ごめん、何でもない。気にしないで」


 その態度が必死だったので、僕は少し気になったが、あまり詮索するのも失礼だと思いうなずいた。


「じゃあ、次は俺だな。俺はその事務所の社長だ。名前は月川つきかわ翔也しょうや。よろしくな」


 月川さんは愛想よく右手を出してきたので、僕はその手を握り返した。


「じゃあ、君も自己紹介してくれるかな?」


 美晴さんに言われ、僕は口を開く。


「僕は藍沢あいざわ海斗かいとです。年は12。50メートル走は6秒で走れます。よく『ぶっ飛んでる』って言われます」


 50メートル走6秒ということに二人は目を見張った。

 僕は少し照れた。


 だけど、これは全て「あの力」のおかげなんだ。


 ようやく自己紹介が終わったと思うと、いきなり学校などで流れているチャイムの音が、部屋全体に響き渡った。


「な、何……?」


 美晴さんが不思議そうに言う。

 すると、ボイスチェンジャーか何かで声を変えた放送が、上から流れてきた。


『ゲーム会場へようこそ。「能力者」の皆さん。あ、ここに集まっている人たちは全員、能力の使える「能力者」です』


 その場にいる全員が驚き、周りを見回した。

 僕もだった。


 なぜなら僕も、能力を使える「能力者」だったから。


 僕は美晴さんを見た。

 美晴さんも驚いていて、僕の方を見つめ返している。


 全員が能力者ということは、美晴さんも何らかの能力を所持しているということだ。


 つまり、先ほど言いかけた言葉の続きは、「能力者」だったのかもしれない。


 周りにはたくさん人がいて、どんな人も個性的な外見をしていた。


「へぇ、全員能力者なら、」


 一人の女性が不敵な笑みを浮かべた。

 そして、その自分の手に炎を出して見せる。


「もう能力を隠す必要もないってことね」


 その炎は荒れ狂い、やがて形を成し始めた。

 それは……剣、だ。


「で? 何をしろって? ゲーム会場ってことは、何かするの?」


 その女性は剣を振り回し、狭い部屋の壁を壊した。


「まっ、そんなことやってられないから、能力で脱出してやるけど。この、炎を操る力でね」


『…………』


 放送の音が止まり、辺りは無音になる。

 その女性がもう無理だというふうにため息をつき、壊した壁から外に出ようとした。


『………まぁ、もう実質ゲームは始まってるんで。一人ぐらいいなくなってもいいよね』


 その時だったのだ。激しい銃声が鳴り響いたのは。

 そして、その女性が倒れたというのを、僕が認識できたのは……。


「………⁉」


 騒然となる部屋。

 それは当然のことなのだ。


 人が殺されるのを目の前で見るのは、誰もが初めてのはずだったから。


 生々しい鮮血が部屋の白い床に飛び散った。


「…………」


 その場はただ無言になり、重苦しい雰囲気になってしまった。


『………とまあ、こんな感じです。いくらお前たちが能力者とはいっても……こっちは、能力とかそんな次元じゃないですから』


 それから少しだけ無言になったかと思うと、壊された壁が修復し始めて、その女性の死体も跡形もなく消え去る。


 そして、女性がいなくなった以外は、全て、時が戻ったように元通りになった。


『さて……ようやくですね。説明しましょうか。……この能力者たちの、デスゲームを』

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