第44話 突入前
翌日、起きてみると、リンがいない。
リン――?
室内に荒れた形跡はない。さらわれたというわけでも無いようだ。
アイテムボックスを整理しながら待っていると、リンが扉を開いて入ってきた。
――血まみれで。
「おい! リン! どうした!」
「すみません、ご主人様、しくじってしまいました」
俺はリンの服を脱がせ、体に包帯を巻き、ポーションを飲ませる。
「何があった、聞かせてくれ」
「情報収集をしようと……魔晶石鉱山へ行ったのです」
「どうして一人でそんなことを……」
「ロックス率いる傭兵団は武力を盾に鉱山労働者達を昼夜問わず酷使していました。資源が無くなるまで、掘り続けるつもりです。まずは魔晶石から。次は鉄や銅などの鉱石を……」
「もういい、しゃべるな」
ガハッ、とリンは吐血した。内臓深くまで傷が入っているようだ。矢でも刺さったのだろうか。
「いえ、私は言わなくてはなりません。ロックスの居場所がわかりました。魔晶石鉱山の奥です。どうしてそこを根城にしているかはわかりませんが、そしたら、いきなり地響きのようなものが……」
「地響き?」
「それで、高所にいた私は落ちてしまい、ロックスと部下に見つかり、後は、逃げるだけで精一杯でした。申し訳ありません……」
「そんなことはない。お前はよくやった」
「ご主人様、逃げてください。これは、罠です……」
そう言ってリンは気を失ってしまった。
俺の代わりに斥候を引き受けてくれたリン。そっと毛布を掛ける。俺では看病をしてやれないのが申し訳ない。
懐にある、冷たい黒鉄を意識する。
捕まらなかっただけでリンはよくやった。ロックスの居場所を突き止めたことも。
俺に黙って行動したことは褒められたことではない。だが、彼女の思いを無駄にすることはできない。
リンが見つかったせいで警備は厚くなっているだろう。行動は夜が望ましいか。
これは罠です、というリンの最後の言葉。そんなことは正直どうだっていい……。
――俺の仲間を傷つけたな、ロックス!
シリンダーに弾を込める。片手で虚空を目掛けて構える。
その銃は、今か今かと火を噴く時を待っていた。
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