第3話 冒険者ギルド

 なぜ異世界の文字が読めるのだろう、という疑問はさておいて、冒険者ギルドにたどり着いた。


「いらっしゃいませぇ」


 笑顔で応対する受付嬢。それに対してよそ者に無遠慮な視線を向けてくる冒険者たち。


 俺は受付嬢の元へ行き、要件を告げる。


「俺の能力を鑑定してもらいたい」


「能力と言いますと、ステータスカードはお持ちで?」


「いや、持っていない」


「では、お作り致しますねぇ」


 そう言って受付嬢は何か魔法を唱え出すと、手元にあるカードに魔力を収斂させた。


 青い光が辺りを包む。


「これで冒険者としての登録は完了ですぅ」


「こんなに簡単でいいのか?」


「お名前を入力する必要はありますが、いかがしますか?」


 受付嬢のとろんとした垂れ目が俺を覗き込む。やけに間延びした口調は受付嬢っぽくはない。

 こう言っちゃなんだが、頭はあまり良くなさそう。


「名前……そうだな、クレドで」


「クレド様ですねぇ」


 ステータスカードを手渡してもらい、それに触れると、宙に俺のステータスが浮かぶ。


『クレド:魔法使いLv1

スキル:ファイアブラストLv1、ディープフリーズLv1』

固有スキル:なし』


「へ?」


 素っ頓狂な声が出てしまった。魔法使い? 俺が、この身なりで、魔法使いとして転生だと?


「クレド様は固有スキルがないようですねぇ」


 周囲の冒険者たちがクスクス笑いを漏らす。

 魔法使いLv1に笑ったのか、固有スキルがないことに笑ったのか。


「ちょっと待ってくれ、俺にだって何か能力が……」


「とりあえずアイアンランクからのスタートになります。冒険者として頑張ってくださいねぇ?」


 受付嬢は無責任にそう言うと、俺から手数料を徴収した。


「くそっ、魔法使いだと? 何かスキルはないのか」


「魔法を使ってみればよいのではないですかねぇ? なあんでもいいんですよ」


「ファイアブラスト!」


 手のひらの上で炎がはじけただけだった。あまりにもしょうもない。


 せめて、せめて何か強い固有スキルがあれば……。

 歯噛みしても自分が弱いことには変わりない。


「どうしますかあ? 冒険者クエストでも受けていかれますかあ?」


 そう言って受付嬢は退屈そうに外はね髪をいじっている。


「……そうする」


 初心者向けのクエストから、『スライム狩り』を選んで依頼する。


「かしこまりましたあ。受領しますよぉ。良き旅を」


 俺は正直その場からすぐにでも逃げ出したかった。

 自分が無能な冒険者だという事実が受け入れられなかったからだ。

 転生したら、何か、こう、チート能力とか手に入るものなんじゃないのか。


 今の俺には、黒コートも、スーツも、妙にちぐはぐなものに思える。せっかくイケメンに転生したのに、この世界でも負け犬じゃないか。

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