『逃亡』
やましん(テンパー)
『逃亡』
『これは、フィクションで、ジョークです。』
やましんは、暗闇に浮かぶ自販機の陰から、顔を覗かせた。
ここには、100ドリムの野菜ジュースがあった。
少なくとも、2週間前までは。
しかし、やっと、たどり着いてみれば、もはや、なかったのだ。
他は、すべて、170ドリム以上である。
手元には、もはや、150ドリムしかない。
自宅は、電気も水道も止められている。ガスは、底をついていた。
新しい政府は、あからさまに、様々な弱者撲滅を標榜しているのみならず、着実に、実行していた。
内務省『弱滅隊』が組織されていて、財産の無い国民、力の無い老人などの壊滅作業を進めているのである。
いつ、襲ってくるか、解らない。
もし、襲われても、すぐに100万ドリム渡せば命は取りあえず助かる。
先は解らないが。
海外からは、かなり叩かれている訳だが、政府は強気だった。
実は、瀬戸内海の地下から、謎の資源『ぱかぴか放射体』が大量に見付かった。
これは、食糧にも、燃料にも、なんにでもなる、魔法の資源だった。
ただし、利用するには、まずは、『ぱかぴか人間』になる必要があり、そのためには、『ぱかぴか元素』を注射する必要があって、その費用が、ひとり頭、1000万ドリムかかるのだ。
仕事のある人は、分割払いも効くが、やましんみたいな無職で、それなりの有力者からの援助がない年寄りなどの場合は、手元に財力がある以外には、他には手がない。
万策つきたのである。
野菜ジュースを、最後に頂いて、『見切り広場』に、行こうと思った。
『見切り広場』に行くと、『弱滅隊』が現れて、殺してくれた上、簡素な埋葬をしてくれる。
穴に埋めて、『なまごみだあ。』と、三回唱えるだけだが。
それでも、弱滅山の『ひとすて峠』から、投げ落とされて、ただ打ち捨てられるよりは、かなりましだ。
『やれやれ、仕方ないか。諦めよう。』
やましんは、『見切り広場』に向かおうとした。
すると、自販機が『パンパかパーン』と、叫んだ。
『おめでとうございます🎉✨😆✨🎊。あなたは、行きすがり自販機大賞に当選しました。お好きな品を、三品差し上げます。』
『なんとお。』
やましんは、200円のエネルギードリンクと、大入り麦茶、さらに、懐かしい、スビカルを頂いた。
『これで、『遥か山』の上の墓まで上がれる。墓で自決したら、市役所が埋めてくれるんだ。』
やましんは、エネルギードリンクを半分飲んで、遥かなかなたに見えるはずの(いまは、見えないが)、お墓山の墓地を目指して歩き始めた。弱滅山の倍以上離れているし、かなり高いのだ。
🧗♀️
お墓山の道を歩くものは、倒れるまでは、『弱滅隊』も、手は出さない約束がある。
やましんは、まるで、にじり上がるように、その、まったく整備されないために、いまはやたら険しく、ぎたぎたな道を一歩一歩と、歩いた。
聴くところでは、市役所の人は、公用ドロンで上がる。
しかし、年寄りには、厳しい道のりである。
夜が明けて、激しい紫外線が降り注いだ。
地球は、磁場を弱めていたからである。
また、夜になった。
すこし、眠った。
🌞ツカレタナ〰️〰️
やっと、墓に着いたのは、翌々日の夕方だった。
やましんは、さいごのスビカルを飲みながら、両親の墓の前で、『はあ〰️〰️』と、言って、息絶えたのである。
静かな笑みを浮かべていた。
しかし、もはや、誰も埋葬には来なかった。
『ぱかぴか元素』には、脳を、静かに破壊する緩い毒素があったのだ。
🌇
『逃亡』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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