第4話:俺氏、女子高生ギャルに「赤ちゃん」と煽られる

「もうお前と話し合うのは疲れたわ」

「はい、私も疲れました。こっちは仕事で忙しいのに」

「俺と喋ってるのは何だ、これは仕事じゃねぇーかのよ!」

「仕事というよりもただの子守ですね、はい」

「子守される歳じゃねぇ〜よ、俺は。イジワルされたって、ホットラインに電話掛けるぞ、ゴラァ」

「ならば、ゆっくりと受話器を下ろし、電話をお切りになられたほうがお互いにハッピーになれると思うのですが……」

「お前がなってもな、俺がならねぇーよ」


 はぁ〜イライラが止まらない。

 コイツと喋っていると、こっちのイライラが加速度的に増えてくる。見たことない人を嫌いになるって初めてだわ。


「で、どうしたんですか? さっきから怒ってるみたいで」

「怒ってるみたいじゃなくて、本気で怒ってるんだよ!!」

「通りで先程からキャンキャン吠えてるんですね」

「俺は犬か!! 俺は犬なのか? そんな高い声してる?」

「それで負け犬さんはどうしたんですか? わざわざ電話を掛けてきて」

「さっきから何回も言ってるだろ。おもちゃ——」


 あぁ〜と電話の主は、俺の声に重ねるように。


「おもちゃがなくなって怒ってるんですよねぇ〜?」

「俺、赤ちゃんかよ!! その言い方だと、おもちゃを取り上げられて泣いちゃったみてぇーだろうがよ!!」


 この女と喋っていると、調子が狂ってしまう。

 毎回毎回、この女に主導権を握られて負けてしまうのだ。


「で、赤ちゃん」

「誰が赤ちゃんだ、この野郎」

「ばぶばぶさん」

「誰がばぶばぶだよ。舐め腐りやがって」

「なら、アンハッピーさん?」

「もうそれでいいよ、事実だからさ」


 名前を名乗ってなかったが、まぁ〜いいだろ。

 アンハッピーさんと呼ばれていたほうが遥かにマシだ。


「それで言いたいことはそれだけですか?」

「それだけじゃねぇーよ。これからだよ。テメェのせいで、全然話が進んでないんだよ。調子狂うぜ、全く」

「アンハッピーさんってお喋りなんですねぇ〜」

「俺じゃなくて、お前な。お前が喋ってるんだよ」

「えへへ〜。お喋り上手だなんてやめてくださいよぉ〜」

「一言も言ってねぇーよ。無駄な会話が多すぎるんだよ」

「で、さっきから長電話してますけど、何が目的ですか?」


 ハッピーセットを購入した。

 でも、おもちゃが入ってなかった。

 だから、俺はクレームの電話を掛けたわけだが……。


「決まってんだろ。おもちゃ持って俺の家に来いよ!!」

「それがないと泣いちゃいますからねぇ〜」

「泣く泣かないの問題じゃなくて、頼んだ商品の中に不足品があったんだよ。それなら持ってくるのがあたりめぇーだろ?」

「そうですよねぇ〜。おもちゃがないと困りますもんねぇ〜。夜泣きまでしちゃって大変ですもんねぇ〜」


 全然話が通じてない。

 コイツ……絶対に俺をバカにしてやがる。

 赤ちゃんみたいな扱いである。舐め腐ってるな、マジで。


「それでご住所のほうを伺っても?」

「神奈川県(一部省略)だよ」

「確認します。神奈川県(一部省略)ですね」

「そうだよ。合ってる合ってる」

「あぁ〜良かった。住所しっかりと頭の中に入ってて」

「口頭で暗記かよ。メモを取れ、メモを。すぐ忘れるぞ」

「あぁ〜大丈夫です。間違えても、電話掛かってくるだけなんで。もう何回も間違えましたけど、何とかなりましたから!」


 全然大丈夫じゃねぇーだろ。

 注文の品が届かなくて、怒りの電話が来ただけだろ。

 自分の中では何とかなったとは言ってるけど無理あるだろ。


「で、早く来いよ。俺の家まで」

「えっ?? 遊びに行ってもいいんですか?」

「ちげぇーよ。おもちゃを持ってくるんだよ、俺の家まで」


 あれ?

 おもちゃを持って家に来いって、小学生の会話かよ。


「あぁ〜行きたい気持ちは山々なんですけどねぇ〜」

「何かあるのかよ?」

「私が店舗を離れると、唯一の電話番が居なくなるんですよ」

「おまえの仕事内容、電話番かよ。初めて聞いたわ」

「人手が足りないときは、レジも担当するんですけどね」

「普通にしないとダメだわ。電話番が異常なんだよ」

「立派な仕事ですよ。電話番も」


 職業の差に、貴賎は関係ない。

 どんな職種に就こうとも、一生懸命働いている。

 それだけで、誰かにバカにされてはならないのだ。


「悪かったよ。なら、他の子を呼べ、俺のところまで」

「わ、私を……捨てるってことですか? 都合が悪くなったら、もうお前には用はないとポイッと投げ捨てるんですか?」

「気色悪いこと言うなよ。てか、勝手に昼ドラ始めるな」

「捨てられたわけじゃなかったんですね、安心しました」

「安心しなくていいから、さっさとおもちゃを持ってこいよ。お前が無理なら他の子でもいいからさ。ほら、さっさと」

「あぁ〜申し訳ございません。当店ではそんなデリバリーサービスは承ってません。なので、忘れ物は店舗に来てください」


 頭の中に疑問符と怒りが容赦無く駆け巡る。

 沸点が煮え切ってしまい、俺の怒りはピークになる。


「はぁ〜?? さっきまでの住所確認はどんな意味だよ?」

「決まってるじゃないですか〜。出禁通告書を送る為に必要な住所確認ですよ。もう、当たり前なことを」

「なら、最初からそう伝えろよ!! 長電話しやがってよ」


 電話越しの相手にここまで怒ることになるとは。

 でも、もう喋っているだけでは埒が明かないな。

 俺が自ら店舗に行き、話を付けないとダメだ。

 あと、この生意気な女がどんな奴か気になるな。


「お前名前は何って言うんだよ?」

「口説いてるんですか?」

「このタイミングで口説くわけねぇーだろうが!!」

「ラブストーリーは突然にって言いますからねぇ〜」

「絶対にお前とは始まらないから安心しとけ!!」


 少しだけ沈黙が続いたあと、女性は名前を名乗った。


桜凛櫻子おうりんさくらこです。普段は何処にでもいる女子高生JKギャルやってまぁ〜す。サクサクって気軽に呼んでくださぁ〜い」

「合コンかよ!! テンション高すぎるわ!!」

「二人だけなので、これはお見合いかもしれませんがね」

「お断りだよ、願い下げするわ。テメェみてぇな女は」


 兎にも角にも、相手の名前が判明した。

 桜凛櫻子。この名前だけは絶対忘れない。

 よしっ。完璧に覚えたぞ、殴り込みに行くか。


 はぁ〜と深い溜め息を吐いてから。


「もういいよ、俺が行くわ。そっちに」

「えぇ〜? お肉が自ら来てくれるんですかぁ〜?」

「お肉って呼ぶな。てか、人様をお肉扱いするんじゃね〜」

「こ〜いうのって、カモがネギ背負ってやってくると言うんですよねぇ〜」


 コイツと話してたら、全然会話が進まない。

 店舗に着いたら、違う人に対応してもらおう。

 それでコイツの上司に当たる人物に愚痴っておこう。


「今から店舗におもちゃ取りに行くって言ってるんだよ」

「あぁ〜おかまいなく。私は全然気にしないんで」

「気にしろよ。てか、そこは申し訳ございませんだろうが」

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