36.せーんせいに言ってやろー!
消えた。
そう、消えた。
飛んだとか高速移動だとかそんなちゃちなもんじゃなくて消えた。
もしかしなくても転移だな?
曰く空間魔法を練習すると使えるという。
私使えないんですが。
現在練習中なのですが。
あの龍人は使えるんだーへー。
……まずくね?
私以上に魔法使えるってこと?
知っての通り人間の体の私は、それなりに身体能力が高いとはいえあくまで常識の範囲内だ。
ラウムとかイケおじみたいなアホなスペックな訳じゃない。
正直ラウムに勝てたのだって魔法のゴリ押しによるところが大きい。
単純な近接戦の技術じゃ比べるべくもない。
つまり、魔法のない私はただの一般人。
もちろん龍に戻れば物理で殴れるようになるけど、この町でそれは正直やりたくない。
色々厄介な事になりそうだし。
だから実質龍になるのは封印。
その状態で私以上に魔法が使えるかつ近距離もできそうな雰囲気のやつと戦う?
勘弁して欲しい。
そもそも魔法撃つと自分がダメージ食らうってなんなんだよ!
無理ゲーか!
あー、くそっ。
体の左側が全部めちゃくちゃ痛い。
まあ咄嗟に捻れただけマシか。
正面だったら目とかやられてたかもしれない。
回復魔法で直したいしちゃんと傷の具合を確かめようと見てみたんだけど、見た瞬間視線逸らしたくなった。
やばいよこれ。
腕の骨は折れてるし、火傷が酷いし、肉も裂けて大変な事になってる。
回復魔法が無かったら全治1ヶ月は堅いと思う。
または動かないか切除。
こんなのも治る魔法って便利ねー。
服?
ボロボロです。
普通に服着た上に厚めのローブを羽織ってたのにそんな酷い傷なんだから、そりゃ耐えられるはずもないわ。
ただのぬののふくなんだから。
とりあえず傷は治しておこう。
ケクロプスもいないし回復魔法を使って傷を治す。
おん?
なんか見た目は治ったんだけど、ちょっと違和感がある。
少し痺れるというか。
なんでじゃ?
上手く神経が繋がらなかったとか?
うーん、まあ動かすのには支障無いしひとまずはいいか。
ダメそうなら騎士団の医務室でも訪ねてみよう。
はー、まったく、酷い目にあった。
だいたいなんなんだあいつ。
魔族がどうとか。
戦争の為に帝国と組んだんだっけ?
てことは、この町にいたのは軍事的な何か…ってところかな。
あれだけ完璧に気配も魔力も隠せる上、捕まっても転移で逃げられるとなればそりゃスパイ向きだわな。
それにしては角とか翼とか1発で人間じゃないってバレそうだけど。
まあそのへんは隠れてたんでしょう。
ちょっと人間の手助けがあれば隠れるくらいどうってことなさそうだし。
そうなると人間の協力者がいるってことか。
はてさて、それが帝国の人間なのか王国の内通者なのか。
それはいいとして、何が目的でこの町にいたんだ?
私はこの町に半月以上いたけど、その間変な事は起きなかった。
目的があったとしたら何かしらのアクションはあると思うんだけど。
はて、何してたんだか……。
ん?
いや、待てよ。
変な事はあったね。
ラウムが寝むりこけてたし。
その原因はあの龍人って事は確定してるし、本人は私の力を試す為って言ってた。
けど、それはついでであって本当はラウムを行動不能にする事自体が目的だとしたら?
聞きかじった知識だけど、戦争において敵兵は殺すよりも瀕死にさせる方が有効らしい。
現に地雷もそれが目的の兵器だとか。
今回の一件も実際に医務官の手を割かせる事はできただろうし、そうでなくても負傷者を寝かせるベットを一つ減らす事ができた。
そう考えればかなり有効だったんじゃない?
ミソは負傷じゃなくただ寝てるだけという事。
どうしても危機感が薄くなりやすく、本気で究明に動くのに半月もかかってるし、本当に戦争ならまだ寝てるだけだしということで殺して楽にさせてやるという選択肢がとれないってふうにも考えられる。
汚い。
流石人間汚い。
あいつ龍人だけど。
てことは帝国側は既に戦争を起こす気で動いてるのか。
うーん……流石に王国側も全くの無策って訳じゃないだろうけど、それにしたって帝国が先手を打ってる感が強い。
王国は不利そうだなぁ。
私がこの事をナタールに教えたら何とか間に合いそうに思えるけど。
うん。
まあだからって教えるかは別問題だけどね。
だって人間同士の戦争とか私には関係ないですしー。
どっちが勝とうが知ったこっちゃないですしー。
下手に巻き込まれるのも勘弁ですしー。
しーしーしー。
とは言ってもなぁ。
拡大解釈すれば、私ってば王国にだいぶお世話になってるしなあ。
ほら、騎士団でご飯食べさせてもらってるし。
寝床も提供してもらってるし。
しかも騎士団所属のラウムに服買ってもらったし。
心情的にはイケおじがいる帝国よりかは王国に味方したい気分。
だからといって、先頭に立って協力するかって言われたらうーんって感じ。
なんかこう、複雑な乙女心みたいな板挟みだ。
学校一番人気の先輩と、そこまでじゃないけどよく話す男子みたいな。
いやこの喩えわからん。
そもそも私よく話す人がいなかった。
わかりやすく喩えようとして逆に分かりづらくなったパターン。
……まあ、今回に限って言えばちょっとナタール達に協力してやってもいいかな。
もちろん好意でもなんでもないけど。
私、龍人に龍玉があるか知りたいんだよねー。
先祖に龍がいたとか真偽も曖昧そうな話じゃなくて親が龍だと言ったんだし、可能性としてはないわけではないと思う。
もしあるんなら単純にプラスになる。
無いなら無いで、いるか知らないけど別の龍人に会った時に余計な事をしなくて済むだろうしね。
それを確かめるにはケクロプスの死体が必要になる訳だけど、もし首尾よく殺せたとしてもそこに私が関わってなかったら死体を要求する権利はない。
当然だよね。
動物が群れの中で獲物を共有するのは全員が協力したから。
協力しない癖に食べるものは食べるとか許される訳が無い。
だから私は正々堂々正面から分け前を要求できるくらいには手を貸さないといけないって事だね。
そうなると一番手っ取り早いのはこの情報を伝える事で、なんやかんやいつの間にか事態に巻き込まれてる風を装うこと。
そうすればなし崩し的に参加しても何も言われない……はず。
だといいな……。
まあそれは無理矢理にでも参加しよう。
んじゃ、ナタールに今回の黒幕を伝え……伝え?
私に伝えられるのか……?
不安だ……。
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