8.
黒いローブを着た集団でした。わたしの両の手の力が黒いローブから覗く腕一本に叶わないことは火より明らかですが、ハーツさんが簡単に昏倒されたのはわたしの想像の中にはありませんでした。数名が鈍器を握っているところから、不意打ちの一撃が決まったものと考えられます。ただ、彼らは手柄にした一名の気絶者にとどめを振り下ろすのではなく、後ろ手と足を縛って彼女の武器を取り上げました。
口を手で抑えられ、首に巻き付く腕がややきつく絞まるものですから、息をするのが困難です。わたしのことも殺めるつもりは無いらしく、しかし足をばたつかせて抵抗すると、じっとしろ、と下腹部に重い一撃を受けました。こみ上げるものを少し吐き出して目が眩みます。黒色が、わたしを見ている。たくさんの黒が言葉を投げあいつつわたしを見ている。路地に吹く風が心臓を止めるように冷たい。気味の悪い腕が、独立した生き物のように首元を蠢く。ローブを擦る音が鋸を挽く音に聞こえる。息ができない。喉元が震える。でも声は出ない。声が出ても誰も助けには来ない。いやだ、こわい、こわい、こわい、こわい、こわい。
たす……け……。
気絶していたようです。言い争う声でわたしの意識は肉体に呼び戻され、冷たい床の感触が頬から伝わってきます。まだお腹の痛みが残っているあたり、時間はあまり経っていないようです。四肢の自由が親指二本分ほどの太さの縄で失われていることはすぐにでもわかりました。せっかくの服は着たままでしたが、せっかくの靴はどこかで脱げてしまったようです。使われていない倉庫の中のようで、運び出されることが今生ないであろう貨物がいくつも積み上がっています。人を拐って身を隠す場所として十分な機能を持っていると言えるでしょう。
「だから!別にあたしは何も知らないし、知ってたところで教えるわけないって言ってんでしょ!!」
言い争いの一方は、既に起きていたハーツさんのようでした。なかなかの剣幕ですが、両手両足の自由を奪われて、なおかつご自分のナイフを首に立てられているあたり、優勢には程遠いことは明白です。
「これの価値も知らずに連れてたわけねーだろ!どこで見つけた!これのことを誰から訊いた!」
「ふんっ!人にものを尋ねるってんなら、口の聞き方から勉強することね。やり方もなにもかも全部陰湿なのよ、あんたら!」
問い詰めていたローブはヒュッとナイフを振ります。ハーツさんの頬が少し切れ、赤色が顔を伝っています。ただ、睨むことをやめたら負けてしまうとハーツさんは態度を変える様子はありません。
「あんまり我々を怒らせないことだ。貴様一人がどうなろうが我々は全く問題ない。これと関わった、その時点で既にお前は土にでも埋めるところだ。なら、死ぬ前に情報ぐらい吐いて我々の役に立ったらどうだ」
「こっちだってあんたらの都合なんてどーでもいいし。殺るってんならやってみれば。どーせその根性だってないんでしょ?」
これみよがしに挑発を続けます。それに乗る形で、ローブはハーツさんの腹を蹴り上げます。
「うぶっ……!」
これは流石に堪えたようで、ハーツさんの表情に苦しさがまじります。
「調子に乗るな!自分の立場がわかっていないらしい。大人しくこっちの質問に答えればいいものを……」
少しうつむき、息遣いが乱れたハーツさんが、ちらとこちらを見ます。
「……!マリー!」
わたしが目覚めたことに気がついたようです。
「なんだ、起きたのか」
わたしのすぐ横のローブがわたしの顎を持ち上げます。手も足も使えない中頭だけを無理に引っ張り上げられて痛いです。
「お前は覚えているか?この連中のことを」
状況的に、ここは顔を横に振るべきだとわたしは感じ、そうしました。顎を持たれているせいで、体全体をひねるような動きにはなりましたが。
「嘘を吐くなっ!正直に―」
「マリー!こんな奴らの言うことなんて聞く必要ない!どーせ金目当てとかのバカ連中に決ま―」
「お前は黙ってろ!!」
ハーツさんのそばのローブが顔を蹴飛ばして、ハーツさんの言葉は中断されました。
「我々に逆らえると思うな。こいつらに何を吹き込まれたのか知らんが、我々の命令に黙って従え」
ローブの目つきがより強くなります。
「お前は今まで何をしていた?どうしてこいつと一緒にいた」
突き刺してくるような瞳孔に、しかしこれに負けてはいけないとわたしはわたしを鼓舞します。恐怖心も一緒に振り払うように、わたしは首を横に振りました。それを確認して、ローブはわたしの顎と乱暴に離しました。受け身も取れずに体がまた冷たい地面に衝突します。
「そうか」
ローブは、他のローブたちを見やりました。
「これ以上は時間の無駄だ。神の怒り以降、本部の人員が足りていない中こんなことを続けるわけにもいかない」
まとめ役なローブは呼吸を開けて続けます。
「こいつらが街に来るまでの動向は引き続き調べておけ。日没後、闇夜に紛れてこれを本部に届けよう。その女は、もう何も喋らないだろう」
一言だけ言いました。
「消せ」
ハーツさんの近くのローブは、その命令を受理し、蹴飛ばしたハーツさんを足で踏んづけて、振り上げたナイフを、その顔へ振り下ろし―
乾いた音、人が死ぬ音ではありませんでした。カラン、とナイフが転がり、腕から血を流すローブはその痛みにもだえています。そのひとつ前、倉庫の壁が突き破られる音がありました。銃弾は床をカラカラと転がり、わたしの足元で止まりました。
「申し訳ない、遅れた」
崩れた木板の裂け目から、外の光が差し込みます。逆光が、黒いコートをより黒くします。
「何だお前はっ!」
声は重く、鬼気迫るものがありました。
「関係者だ」
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