第164話 細工は流々仕上げを御覧じろ
王都を再度出て皆と合流した。草原の地面をサカモトがちょちょいと掘り返し、そこに私が引っこ抜いた
たまにはキャンプも良いもんだね!
朝になり、サカモトを一人にするわけにも行かないから私が一人で王都へ向かう。何かあったらシャルロットが全速力で知らせてくれる手はずになっている。シャルロットとゴレムスくんとサカモトが揃っていて、一体何があるんだという話だけど我が子らを外にお留守番させるのはやっぱり心配になっちゃうよ。
世の中変な人は一定数いるからね。
生憎の空模様の中走って王都へ到着し、先ずは屋台を回って腹ごしらえをした。昨日はろくにご飯食べれてないから仕方ないね。皆は魔力で十分らしいから羨ましい。
色んな所を回らなきゃ行けないけど、最初に行くべきは冒険者ギルドかな? 申請書類を提出してギルドが登録作業をしてる間に他のところを回ったら効率がいいと思う。
王都の冒険者ギルドへ来るのはこれで二回目だ。そこまで大きくない冒険者ギルドの建物に入る。朝早かったからか、ギルド内は結構混みあっていて依頼の張り出されている掲示板前はごった返していた。
私は依頼争奪戦を眺めながら受付に並ぶ。やはり肉体派というか荒事が多い冒険者たちの依頼争奪戦は中々に壮絶だ。ほとんど体当たりみたいな勢いで掲示板前を陣取ったり、パーティメンバーが他の冒険者をディフェンスして一人が依頼を選んだりと、戦略がありそうだった。一種の競技じゃん。手に汗握るね。
「次の方どうぞ」
「あ、はい。えっと従魔登録お願いしたいんですけど、従魔がおっきくて王都に入れないっぽいんです。その場合どうやって登録すればいいですか?」
綺麗な受付嬢さんに相談すると、受付嬢さんは険しい顔をした。やっぱ登録する従魔連れてこないで登録するのは難しいかな?
「お嬢さんが王都に入れられない程大きな魔物を従魔に出来るとは思えませんが……。原則冒険者ギルドに連れてきていただけないと登録は難しいですよ」
まぁそうなるよねぇ。そうじゃなかったら存在しない従魔を登録して悪用する人とか出るだろうし……。
「でも登録してない魔物連れてきて良いんですか? 王都に入れないって王都よりおっきいって意味ではないですけど、檻なんて絶対無理ですし」
王都近くに連れてくる為の従魔登録をする為に、王都へ従魔を連れてこいとはこれいかに。
「因みになんの魔物ですか?」
「ブラックドラゴンですね」
「……次の方どうぞー」
無情にも受付嬢さんがシラケた様な顔で受付を終了しようとしている。私は後ろの冒険者に待ってと片手を向けてから受付嬢に向き直る。
迷惑掛かりそうだからあまり使いたくないんだけど仕方がない。私はベルレアン辺境伯家の家紋付きナイフを受付に置いた。
「これわかりますか?」
「……も、申し訳ありません!」
お貴族様パワー恐るべし! ……お貴族様パワーって事で良いんだよね? 受付で拒否されてナイフ取り出したヤバい奴ではないよね?
「いえ。それでドラゴンの従魔登録をしたいんですけど、冒険者ギルドに連れてきて良いんですか? ギルドぺしゃんこになっちゃいますけど……」
「それは困りますが……かと言って見もしないで登録する訳にも……」
受付嬢さんは心底困った様に汗汗しちゃってる。規則的には出来ないが、お貴族ナイフ取り出したヤバい奴を前に断固拒否も出来ないんだろうな。
「じゃあ折衷案としてこんなのはどうですか? 書類は先に書いておくの。だけど受理するのは実際にドラゴンを王都の近くまで連れてきてから。職員さんがドラゴンを確認できたら、書類は少し前に受理されてたって形にするんだよ。ほらぜーんぶ丸く収まるよ?」
「ですがそれも不正では……?」
「不正!? とんでもない! こういうのは臨機応変な対応って言うんですよ? 大丈夫です。だって誰も困らないし、誰も損しないんですから。平気でしょ? 寝坊をしたけど遅刻はしなかった、それと一緒だよ? 寝坊は良くないけど間に合ってるから誰にも迷惑はかからない。よくあることだよね」
私はベルレアンナイフの家紋の部分を心臓の鼓動に合わせてコツコツと指で叩く。そしてリズムに合わせて大丈夫、平気と囁き続ける。
「……わかりました。ではそうしますよ」
●
なんとか書類を提出してから冒険者ギルドを後にした。後は知り合いの所を回って話を広めて貰おう。未だ空はどんよりと曇ったままだ。シャルロットは雨に濡れるのが好きじゃないから降り出す前にさっさと終わらせないと。
移動する道すがら、お喋りしてるおば様達にも話をしておいた。『ここだけの話なんだけどー』『皆には内緒だよー?』と触れ回ればトレンド入り間違いなしだ。おば様たちは自己顕示欲を満たすために一生懸命広めてくれるでしょう!
各所を回って噂をお願いしてから、私ももっと積極的に認知度を上げる行動をするよ。
屋根の上に登って思いっきり柏手をうつ。弟探しの経験がここで活きたね!
なんだなんだとキョロキョロしている所で私は大声で話し出す。
「王都にお住まいのみなさーん! 元気してるー? 実は妖精さんがでっかいドラゴン捕まえたから王都にお披露目するんだってさー! なんかもうすぐ南門の方から来るらしいから暇な人は南門に行って応援してあげてよ」
よくわからないけど楽しそうだと笑っている人や、そんなわけないと否定的な冒険者、あまり興味無さそうな人など様々だ。
「応援はしなくてもいいけど、頭には入れといてよ。じゃないとドラゴン来た時におしっこ漏らすでしょ? そんじゃ暇な人は南門へ集合ね!」
王都の南側を中心に、色んな所で同じように言って回った。
これだけ言って回れば大丈夫でしょう! パニックってのは周りが落ち着いてれば中々起きないんだよ。
仮に『サ、サカモトだあああ!』ってなる人がいても、周りの人達が『お、サカモトいらっしゃい』くらいのテンションだったら恥ずかしくてパニックにはならない。『え? あ、そんな感じなん?』くらいに落ち着くはずだ。
●
王都を出て皆と合流した。まだお昼時だと言うのに分厚い雲に覆われてるから薄暗く、シャルロットも雨が降りそうで嫌なのか私の服の中に隠れてしまった。
私はサカモトの頭に乗って王都へ向かう。強者の貫禄を見せつけながら、サカモトは威風堂々と歩いていく。
視力を強化して見ると、南門の外には沢山では無いけど人集りが出来ていた。あの人達はサカモトの見学に来たんだろうね。
外壁の上にも兵士や騎士っぽい人も立っているのが見えた。これじゃまるで王都を侵略するみたいだよ。
「よぉし! サカモト、この調子で王都に突き進むよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます