第140話 王女様とのお話
混乱することにも慣れっ子なリリは復帰するのも早かった。王女様が顎に手を当てて首を傾げている様を見て、紅茶を飲みながら待つ余裕さえある。
「確かそれは宝剣ファルゼスよね? 雲を割るという逸話が残っている剣よね?」
「そうです。名前は覚えてないですけど雲を割るって話でしたね」
だから一発ギャグなのだ。雲を割るなんて機能付けるくらいなら一瞬で野菜の皮むきができる方が万倍役に立つじゃん。
製作者がギャグで作ったのに、後の時代に宝剣として国の宝に認定されたのを知ったらどんな気持ちなんだろうね。前世でも、歴史に名を残した人が書いたラブレターが博物館に展示される事があったけど、あれと同じような感じかな?
あれイジメの領域に両足突っ込んでると思うけど、死んでるから晒しあげてもいいって倫理観なのかな? 誰かに宛てたラブレターを勝手に衆人の目に晒すとか発想がヤバい。完全に鬼畜の所業だと思うよ。
「随分と価値のある物を陛下に頂いたんですのね。よかったわね、ノエル」
正直いらんけど、それをくれた人の家族の前で言うほど愚かじゃないよ。曖昧に笑っておく。次はもう少し実用的な物をくれ。例えば沢山物が入れられるような何かとか、魔法のかかった袋とかさ。
私の表情からリリは察したようだ。少しニヤッと笑った。
「父から優秀な人だから機会があったら会うといいって手紙が来たのよ。謁見して直ぐに送ってくるなんて余っ程気に入ったのね」
王女様も冷静さを取り戻したみたいで普通に話し始めた。国王陛下からの手紙を読んだ翌日、私が現れたから話しかけてみたって感じだったのね。
「それなのにエドガールが邪魔をするから……。あの人はいつもああなのよ。単純な力で言えば優秀だから護衛として付けられてるけど、はっきり言って替えたいのよね。本当の意味で優秀な騎士はただの第三王女には勿体ないって事なのかしら」
王女様は相当不満が溜まってたようで、聞いてもない愚痴を語りだした。悠々自適な王女様生活ってのも大変なんだろう。立場が違えば別の苦労もあるよね。
平民は食うに困る人もいるけど、王族も毒の警戒とかである意味食うに困るんだろうし。
そう考えると私の今の生活は快適だ。昔はお肉もまともに食べられなかったけど、今は好きなものを食べられる。村の皆の生活も、養蜂と魔道具の導入で豊かになったし順風満帆だ。
私はシャルロットと前に座るリリの頭を撫でる。リリは何故撫でられてるかわからないけど撫でやすいように頭を傾け、シャルロットはもっと撫でろと私に顔を押し付ける。
「あなた達は仲が良いみたいね」
「そうですわね。小さい頃から一緒に育ったようなものですから。姉妹とも違いますが、友人と表現すれば物足りなくて……。わたくしたちは一体なんなのかしら。フフフッ」
リリは昔のことを思い出したのか、柔らかく笑った。私とリリの関係が何かって言われると確かに難しい。
私にとってリリは半身かな? 寝食を共にし過ぎて、一緒にいるのが当たり前になってしまったし。じゃあエマちゃんはなんなのかって言えばエマちゃんも半身だ。
つまり私の半分はリリで、もう半分はエマちゃんだね。私無いなったわ。成分表に私の名前がない。
王女様はふわりと笑うリリを見て、どこか羨ましそうな顔をした。周りにいつも人が居ても、心理的にボッチなんだろうな。気を許せない様な立場なのか、王女様に対して周りが壁を作っているのかは分からないけど、仲良しみたいな人がいないんじゃなかろうか。
ルール的には良くないかもしれないが気になったから聞いてみよう。
「王女様はご友人は?」
「私にいると思う?」
どこか自嘲気味にそう答えた。王女様も新入生だから、今年で十三歳だよね。中学一年生とかだもんなぁ。思春期真っ盛りで人間関係に悩むお年頃だ。
「じゃあ王女様も今日お泊まり会参加します?」
「ングッ……ゲホッゲホッゲホッ……」
「リリ大丈夫?」
紅茶が器官に入ったのか、リリがむせてしまったから背中をさすってあげる。メイドさんに渡されたハンカチで口を拭き、ハンカチを返した。
メイドさんがそのハンカチをしまう姿を見て、何故か邪推してしまうのは私が悪いんだろうか……。テキトーにポンと置くわけにいかないから、一度しまうのは理解できるんだけど……なんか袋に入れて日付とか書いてそうなんだよなぁ。
「ベランジェール様、申し訳ありません。先程も申したようにノエルは王侯貴族の礼儀作法には疎いところがありまして……」
「ええ、私もさっき言った通り気にしないから普通に喋っていいわ」
突然誘うのが悪いのか、そもそも誘うのが悪いのかわからないけど、何かが良くなかったらしい。
「お泊まり会というのは何なの?」
「お泊まり会はお泊まり会ですよ? 皆でお泊まりするんですよ。皆で楽しくお喋りして、そのまま皆で一緒に寝るんです。ただそれだけですね」
私の中で今日のお泊まり会にはエマちゃんも誘って、エマちゃんとリリを侍らせるつもりだ。いわゆる両手に花をするのだ。制服姿のエマちゃんをベッドに入れるのは私の理性が狂ってしまうから、パジャマパーティーって感じかな。
「………………参加してみようかしら」
「はぁーい」
王女様は随分悩んだ後でそう言った。お泊まり会、パジャマパーティー呼び方はなんでもいいけど王女様が参加表明してくれたよ。これはどうやらかなーり異例みたいで、私と王女様以外の表情は死んでる。リリも、いつものメイドさんも、王女様付きのメイドさんも白目剥いてるよ。
「じゃあ王女様は寝る時に着る服を持参してくださいね。そうしないとすっぽんぽんで寝る事になっちゃいますから」
「すっぽんぽん……? すっぽんぽんって何かしら。可愛らしい響きですし、私もすっぽんぽんに挑戦してみてもいい?」
「多分怒られますよ? すっぽんぽん」
「怒られるようなことなのね。すっぽんぽんは」
全裸とか裸って言い方は良くないかと思ってすっぽんぽんにしたけど、思った以上にすっぽんぽんに食いつくね。
「ではすっぽんぽんに興味はありますが、怒られるのは嫌なので服を持ってまた後で来ます。お泊まり会の会場はここで良いのかしら?」
「良いですよー。ではまた後で」
王女様はまだ死んだままのメイドさんを連れて部屋を出ていった。いつものメイドさんは死んだ顔から復活したらしく、ゾンビ顔だ。顔が真っ青だね。
「じゃあリリ、私エマちゃんにも声掛けてくるよ」
「え、ええ……。え、ベランジェール様参加するって言いましたわよね……?」
「うん、するってさ。やっぱ友達居ないから寂しいっぽい。じゃあ平民の寮に行ってくるから王女様の参加するお泊まり会の準備よろしくね」
私はそう言って部屋を出た。後ろで「王女様の参加するお泊まり会の準備って何すれば良いんですのよ!?」って声が聞こえた気がするけど気のせいって事でここはどうか。
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