第51話 ギルマスとのお喋り
ギルドマスターに案内されてギルマスの執務室にやってきた。中はかなりシンプルで、部屋の全ての調度品を足してもギルマスの着ているドレスの方が高そうに見える。
今は部屋の真ん中にあるソファに座ってギルマスが何かを書き終えるのを待っている所だ。
背中にシャルロットが張り付いていては座りにくくてしょうがないから前に来てもらっている。これじゃおんぶに抱っこにと子育てママ気分だよ。
「ねーシャルロットー。なんかシャルロットってこのファーみたいな所から甘い匂いするね! 食べられたりする? このファーの部分飴細工だったりする?」
「やめろやめろ。めっちゃ怖がってんぞ。でも確かに甘い匂いするな……」
今日もシャルロットは私とアレクシアさんに美味そうだと思われて元気にイヤイヤしてるね! イヤイヤしながらも離れたりしない辺りシャルロット的にもじゃれ合いの範疇なんだろう。女王蜂なのにいじられ後輩ムーブとかもうわけわからんね!
「貴方達仲良いわね。待たせたかしら? これがその子を従魔登録する為の申請書よ。こことこことここ、書いてもらえるかしら?」
ギルマスが申請書を私の前に置いてくれた。申請書もそこまで難しい内容じゃないみたいで助かる。役所の書類はいつだって書く時に何を言ってるかわからなくて困るんだよね。
責任者として私、従魔の名前にシャルロット、従魔の種族は……なんだ? キラーハニービー? クイーンキラーハニービー?
「ねぇねぇ、シャルロットってなんて魔物?」
「知らね。私見た事ねーよ。そのちょっと丸っこいキラーハニービー」
ギルマスの方を見る。
「私も知らないわね。クイーンキラーハニービーかと思ったけれど、少し違うし。取り敢えず手続きさえして置けば大きな問題にはならないから、クイーンキラーハニービー変異種って書いておきなさい」
「はぁーい」
書き終えてギルマスに渡す。
「はい、結構。じゃあこれでそのシャルロットを街中に連れ歩いても平気よ。後で従魔の証としてリボンか何か付けてあげなさい」
申請書に注意書きがされてたね。従魔の証は必須ではないけど、他者から見て誤解されないように目印を付けておくことを推奨するって。何か可愛いリボンでも見付けてあげよう。サテンのシュシュとか良いかもしれないね。
「それじゃあ改めて自己紹介するわね。私はナターシャ、このティヴィルの街の冒険者ギルド、ギルドマスターをしているわ。宜しくね」
「私はノエルだよ! この子はシャルロット! ほら、魔力ばっかり食べてないでご挨拶は?」
ガチガチ!
「よろしい!」
「今の威嚇じゃねーの? 挨拶だったか? まぁ私の事は良いわな。改めて久し振りだなギルマス」
「えぇ、久し振りね。貴方ったら突然引退するわ、とか言って居なくなったと思ったらこんな大きな子を連れて来て……月日が流れるのは早いわね。モリスは元気にしてるかしら?」
「あぁ、モリスは元気だよ。ちなみにノエルは私の子じゃねーからな? ウチの子はもっと普通だ」
「ねぇアレクシアさん、それだと私が普通じゃないみたいになっちゃうよ? フフフッ」
「まんまそう言ってんだよ……」
なんでよ! 最近は同年代の子達と一緒に遊んでたから上手く擬態出来てたでしょーが!
「あら、貴方の子じゃないのね。どういう関係?」
「こいつの親に頼まれて街を案内してんだよ。色々厄介な事情があってな。わかってんだろ?」
「えぇ、魔法でしょう? さっきは突然感じたことも無いような膨大な魔力が渦巻いてたから驚いちゃったわよ」
やっぱりわかる人にはわかっちゃうみたいだ。だから国に報告義務とかないのかな? 見る人が見ればわかるから一々報告義務課してると嘘をつく人もいて確認に手間が掛かるとか……?
「私って魔力多いですか? 昨日グスタフって人にも言われたんだけど他の人の魔力なんて私知らないからよくわからないんですよ……。世界一ですか? 世界一多いですか?」
「そうねぇ、世界一って事はないし、国で一番って事もないわね。でもトップクラスに多い事は間違いないし、何より貴方の年齢でその魔力量はハッキリ言って理解できないレベルね。才能の差というのも確かに存在すると思うけど、魔力量はどうしたって鍛えるのに時間がかかるの。だから一生懸命訓練した才能ある若者よりも、一生懸命訓練し続けた老人の方が多いのが普通ね。その普通が貴方には当てはまっていない」
やはり魔力の貯蔵庫あるいは生成する身体機能も強化されてて、それプラス身体強化でずっと魔力を消費してるから爆発的に増えてるんだろうな。
「エルフの間では魔法は願いを叶える力だと言われているわ。砂漠で育った者や、逆に水に慣れ親しんだ者は水魔法を発現した。誰よりも速く走りたかった少年は風魔法を発現した。一流の鍛冶師になりたかった人は火魔法を発現した。これはただの興味本位なのだけれど……貴方は何を願って、どんな魔法を発現したのか聞いてみてもいいかしら?」
「単純だよ? 何を願ったのかわからないけど、身体強化が出来るの。壊して良い物があるなら壊してみせようか?」
「いいえ、見せてもらわなくても平気よ。……貴方だけに喋らせるのもフェアじゃないから私の魔法も教えるわね。私の魔法は植物を操るの」
ギルマスがそう言って手を伸ばすとドレスの装飾だと思っていたバラの花からイバラが延びていく。ギルマスの身体を伝って延びていくイバラはギルマスの指先までいくと、新しくバラの花を咲かせた。
「こんな感じね。植物があれば結構何でも思い通りに出来るけど、植物がなければ何も出来ないわ」
なんというかゴージャスで華やかで女性らしさが出る素敵な魔法だ。私のナイフむしゃむしゃギャグみたいな披露をしなくて良かったよ……。
「ノエルの魔法より見栄えがいいな」
「私も同じ事思ったよ。お披露目してたら恥ずかしくなるところだった」
身体強化魔法は大好きでお気に入りだ。だけど女子力の高いお披露目方法も研究しないとね!
「私以外の魔法使いの人に初めて会ったから聞きたいんだけど、発現した魔法以外の魔法は使えないの? 例えば私が植物魔法を使うとかさ」
「そうね、基本的には無理ね。ただ擬似的に他の魔法を使うのは訓練次第で可能よ。例えば私は植物の操作しか出来ないけど、根を使えば間接的に土を操作する事が出来るわ」
「なるほど……。私が石コロを思いっ切り投げれば遠距離魔法! みたいな感じ?」
「そ、そうね。……そうかしら?」
「私はなんか違うと思うぞ……」
じゃあ私が大木引き抜いて振り回せば植物魔法! みたいな感じかな? 確かに訓練次第では想像する他の魔法と同じような事が出来るかもしれない。だけど私の望む魔法袋の効果を身体強化で手に入れるのは現実的じゃないね。やっぱり王家にお宅訪問するしかない。それがわかっただけでも一歩前進だと思っておこう!
「他に聞きたいことはないかしら?」
「あるぞ。なんで私達をこの部屋に呼んだ?」
「単純な話よ。ほっといたらあの場に居た冒険者が皆殺しにされてもおかしくないくらいの魔力を感じたから介入しただけ。最も本人にそんなつもりは無さそうだけど」
冒険者の強さ知らないからね、出来るだけ強化はマシマシにしたよ。変に手心加えて護れなくても嫌だし。
私はアレクシアさんとギルマスの会話はききながし、どんどん遅くなっていくお昼ご飯に思いを馳せるのだった。
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