第15話 私の暴露と魔法について

 「お父さんお母さん、私も大切な話があるんだけどいいかな? たぶん話すなら今なんだと思うんだ」


 両親が息を呑んだ。やっぱりエリーズさんの言う通り、私に何かがあったのは両親も気付いていたんだろうな。


 私は深呼吸をひとつして話し出す。


「あのね、洗礼式の日に前世の記憶が甦ったの。……前世って言って伝わる?」


「えっと……それは産まれる前の事……で、いいのかな……?」


「うん、お父さんの言う通りだね。ただ確証はなくて、たぶんそうなんだろうなぁっていう感じかな?」


 お母さんはまた席に戻って目を閉じて黙っている。お父さんは私の言うことを一生懸命考えているみたい。


「ごめんね、パパも理解しようとしてるんだけど、イマイチわからないよ。普通では考えられない事がノエルの身に起きたって事だけはわかった。でも洗礼式より前の記憶はしっかりあるんだろう?」


「うん、あるよ。洗礼式の日に忘れていた事を思い出したって言ったらわかりやすいかな?」


「なるほどなぁ。パパとしてはどっちでも良いんだけど、その前世の記憶について何か話したい事があるってことでいいのかな?」


「いや、どっちでもいいってなに……? 私結構すごい話をしてると思うんだけど気にならないの?」


「パパは正直あまり気にならないかなぁ。もちろん話したいならいくらでも聞くけどね。ママはどう?」


 動かなかったお母さんが長い溜息をついた事で私は背筋が伸びた。


「はぁー……。ねぇノエル、貴方にとってはすごく重要な事だと思うわ。だけどパパとママからするとそこまで重要なことではないのよ。洗礼式の日に前世の事を思い出した、それはわかったわよ? だけどそれで何か変わったの?」


「いや変わったよ? だって私前世ではたぶん十八歳だったから、今精神的にはお父さんとお母さんとそこまで変わらないよ?」


「それは確かにある意味問題ね。でもはっきり言って洗礼式の前後でノエルが変わった事ってあまり無いわよ? だから五歳とほとんど変わらない十八歳って事になるわ」


「そんなことないもん! 立派な大人ですぅ!」


「立派な大人は全速力で走ってお友達の家に向かわないし、スプーン振り回して壊したりしません」


 まぁ確かにそんな大人はいないけどさぁ。正直な所、かなり肉体の方に精神が引っ張られてると思う。さすがに前世の私は日常生活で走り回ったり飛び跳ねたりなんてしていない。……私の最近の行動を女子大生の姿で想像すると結構ヤバメじゃない? というかドン引きだわ。


 でもしょうがなくない? 急いで行かないとお母さんに止められちゃうし、魔法の練習だしさ。


「むー……嘘ついてるわけじゃないのに……」


「誰も嘘ついてるとか信じてないとか言ってないでしょ? ただ洗礼式の前も、洗礼式の後も私たちの子である事は変わらないってだけよ」


「ママの言う通りだよ。ノエルは自慢の子だ」


 そんな言われ方すると胸の奥がじーんと熱くなるね。正直な話気味が悪いと思われたり、ウチの子を返せって責められる事も覚悟していた。いつも迷惑ばかりかけて、突然前世を憶えているなんて言い出す変な子を、今までと変わらずに受け入れてくれる両親には驚きと感謝しかないよ。


「でもどうして信じられるの? 私が言うのも変な話だけど凄く突拍子もない事を言ってると思うよ?」


「そうねぇ……。さっきも言ったけど、洗礼式の日に多少の変化はあったと思うわ。でもノエルは覚えてない? 四歳くらいの時に『学校に遅刻しちゃう! 学校ってなに!』とか言って朝飛び起きたじゃない。結局それも前世の影響でしょう? 安心しなさい。あなたは元々変な子よ」


「そんな事もあったなぁ。それによくスマホとかいうのを探してなかったか? 洗礼式の日にハッキリと思い出したってだけで、それ以前から朧気に覚えてたんだろう」


 確かにノエルの記憶を振り返ってみるとふわっと浮かんだ前世の記憶に振り回されてる事が結構あったね。両親から見たら突然変な事をし始める子っていうのは今も昔も変わらない。ただその理由が前世の記憶によるものだったって理由がわかった分、納得できる所があったんだろうなぁ。今も昔も変わらずに変な子ですって思われてるのは複雑な心境だけどまぁいいや。わかって貰えたなら次の話にいけるよ。


「ちょっと納得いかない評価はおいておくとして、私が言いたいのは精神的には五歳じゃないからもう少し詳しく話を聞きたいってことだよ。私が魔法を発現した事でお父さんとお母さんに危険はないの? 例えば魔法を発現した場合、本当は国に報告の義務があるのにしていないとかさ」


「そういうのは無かったと思うなぁ。たださっきも言ったように珍しい便利な力だから狙われる事がある。……正直に言うと気を付けなきゃいけないのは悪人より貴族だよ。平民は基本的に逆らう事ができないから悪い貴族は強引に、そうでない貴族も必要とあらば正式な手続きをとってから連れて行くことがある。だから目立つ事は避けたいっていうのが本音かな」


 お父さんが少し気まずそうにそう言った。お父さんが私を守るつもりでいるのは間違いないんだろうけど、現実的には貴族に目をつけられてしまった場合は貧乏農家の我が家には対処する手段がないんだろう。


 その後も家族で私の魔法について話し合った。


 貴族、平民問わず魔法を発現した人はその希少性から引く手あまただ。ただ身分の違いが如実に出るのは子供時代。平民の子供の場合は運が悪ければ連れ去られて売られたり、貴族にいい様に使われたり、中には実験動物のような扱いをされて廃人になった、なんて噂もあるらしい。両親は基本的にこの村からでたこともないし、身近に魔法が使える人がいたわけじゃないから実際のところどうなるのかはわからないって。ただ扱いの良し悪しは別としても、平民が魔法を発現した場合は今までと同じ生活とはいかないそうだ。だから私が将来どういう選択を取るにしても、今バレる事は避けたいと言っていた。


 それに問題なのが私が使えるのは身体強化の魔法であって、その使い方は戦闘になるんじゃないかってこと。まぁそれはそうだろうね、重い物持てますよ! とかいって土木関係とか考えたけど、普通の人を集めれば済む問題に希少性の高い魔法使いを敢えて使う理由もないもんね。お金のあるお貴族様なら尚更だ。それなら普通では倒せないような魔物を倒したり、負けるわけにはいかない戦争なんかで使う方がよっぽど効率的。私としては戦闘も嫌じゃないんだけど、やっぱり危険な事は避けてほしいのが親心なんだろう。今は五歳児だしね。


 洗礼式の日の後、エリーズさんから必要であれば実家を通して辺境伯家に話を通してもらうと言われたそうだ。なんでも私の住むこの村はベルレアン辺境伯家が治める領地だそうで、エリーズさんのお爺さんが辺境伯家とは懇意にしているらしい。貴族も含めて悪い連中に目を付けられる前に、いっその事、評判が良くて伝手もある辺境伯家に後ろ盾になってもらうのも一つの手ではないかと。ただ、後ろ盾になってもらう場合どういう扱いになるかはわからないが、このまま村に住むってわけにはいかないと思うから良く考えてってエリーズさんには言われているってさ。


 今すぐに決められる事ではないけど、安全面を考えると悠長にしていられる問題でもないらしい。


 折角の異世界だ、私だってずっとこの村で暮らすとは思っていなかったけど何だか急な話だよね。調味料が買いたいと思っただけなのにどうしてこんな面倒な話になったのやら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る