第1話 起きたら状況は変化していた

 おはようございます! ノエルです! まだ少し混乱しているけどノエルらしいです!


 混乱してオーバーヒート気味だった脳みそを休めるためにもう一度寝たら状況が変わってました。どう変わっていたかというと、お母さんが激怒してたね。もう寝ないのでお尻をつねらないでください。


 まぁ冗談はさておき、数分間でも眠ったのが良かったのか多少頭の中が整理されたような気がする。正確に言うと整理されたというよりは棚上げにした。


 暇なときに少しずつ片付けていけばいいだろう。私に難しいことはわからんし。


 今わかっているのは、春から女子大生になる松浦瑞希という女性の記憶と、今日五歳の洗礼式を教会で受けるノエルという女の子の記憶があるってことだけ。


 卒業式の日の夜、眠ったら何故か五歳の女の子になっている。高校卒業した筈なのに松浦瑞希を卒業しちゃった感じだね。笑えないぞ!


 どんなに混乱していても、どんなに納得がいかなかったとしても、それでも今現在ノエルである以上、お母さんを怒らせるわけにはいかないので鬼の監視の下、急いで朝ご飯を食べているのだ。


 朝ご飯のメニューはなんかやたらと固いパンにうっすら塩味の健康志向の野菜スープだ。できればヨーグルトも欲しい。フルーツもいれてくれ。あと肉も欲しい。私は朝でも肉を食べるぞ。


 今日は朝ご飯が食べ終わったら洗礼式にいくことになっている。ご近所さんで仲良しのエマちゃんと一緒に行く約束をしてるみたいだね。洗礼式というのは今年五歳になる子供たちが教会へ行って神様にご挨拶をする行事だそうだ。それ以上のことはわからない。


 本当に神様に会えるわけではないだろうが、察するに七五三的なやつでしょう? これが村のしきたりなのか国のしきたりなのかもわからないけど。折角だし千歳飴買おう。七五三以外で買ったことないからこの機会を逃さずに買わなければ!


 ●


 ごちそうさまでしたと手を合わせる私を怪訝そうに見つめる母をよそに、時間まで木の椅子に座りながらリビング的な部屋を見渡す。初めて見る部屋のはずなのに見覚えがあって、なんだかデジャヴみたいで凄く気持ち悪い。


 電化製品もないし、部屋にあるものがほとんど木で出来ている。これだけ木製の家具で統一するのって逆に裕福なのでは、と思わなくもないがなんというかオシャレ感は一切感じられない。


 ぶっちゃけ日曜大工感が凄い。お父さんが作ったのかな? ノエルの記憶にはそのあたりの事はなさそうだ。


 まぁそりゃそうか、この家具はどこの家具? なんて聞く五歳児はいないしそれを急に五歳児に語り出す親もいないだろう。天井だってなんかの草っぽいのと木でできてる。茅葺屋根っていうの? ああいう感じだ。朝食のメニューやノエルの記憶から察するにあまり裕福ではなさそうだ。


 寝起きよりほんの少しだけ頭がまわると他にも気になることができた。果たしてここがどこなのか、である。窓から見える景色はザ・田舎の農村って感じだ。木の家がちらほらあって後は畑と小高い丘しかない。凄く遠くに山とたぶん森もあるみたい。畑も麦っぽいものを育ててるようだけど私には小麦も大麦も何なら稲穂の違いもわからないぞ。都会暮らしの現代っ子には加工前の、ましてや収穫時期ですらない植物なんて意識して見たことないよ。しょうがないね。


 でも、ここがどこかは私の中では一つの答えが浮かんでいる。瑞希の筋肉でできた脳みそが言っているのだ、ここは異世界だと。


 考えたところで答えはでないのだから聞くしかないだろう。


 変な子だと思われちゃうかな? それはできれば避けたいが、異世界かどうかは私の今後を大きく左右するから聞かないなんて選択肢はないよ。


 緊張と、興奮と、混乱交じりに私はついに口を開いた。


「ねぇお母さん。日本は異世界?」


 なんか聞き方を間違えた気がするぞこれ。

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