この恋とたった100kmにも満たないどこか

牛寺光

初め

 部活の引退。

 一年生の時、三年の先輩が引退したときにこの言葉はとても遠くの出来事に見えた。

 それは私が二年生に上がって後輩が出来ても、その時の三年生が引退しても変わらなかった。


 そして私たちの代がやってきた。

 私の学校の私の所属する女子ハンドボール部はそこそこ強かった。

 県でトップ4には毎年、どの大会でも見かける。

 インターハイの出場実績ももちろんある。


 その実績に見合うきつい練習。

 謎過ぎる部則。

 私のこの部活は強豪校らしい強豪校だった。


 中学校でもやっていたハンドボールを続けたくて勉強を頑張ってこの学校に来た。

 けど現実は残酷で中学校でスタメンに選ばれていた私はこの学校では下から数えた方が早い実力だった。

 でも、諦めきれなくて家で毎日、毎日自主練をして。

 朝練も早く家を出て一番最初に準備を終わらせて練習して。

『この部活をやってきたこの期間でなにか思い出は?』って聞かれたら堂々と部活って答えるしかないくらいに部活に打ち込んできた。


 三年生になるまで大会メンバーに選ばれることはなかった。

 それでも私と一緒に練習をやってきてくださった先輩方が私の練習態度を見てキャプテンに指名してくれた。

 そして同級生たちも実力のともなわない私について来てくれた。

 努力が実って三年生になってからはスタメンに選ばれ続けた。

 そして試合で何をひっくり返すほどの英雄に慣れはしなかった。

 でもある程度の活躍はし続けた。


 ――――――部活最後のあの試合までは。


 大会はトーナメント式で初戦は無名の高校。

 油断がなかったって言えばウソになるけどいつも通り全力で準備をしたつもりだった。


 後半三分までは全くのゴブだった。


「ヘイ!」

 チームメイトが私の持つボールを呼ぶ声がする。

 パスを出した。

 その瞬間に私の視界入ってきたのは敵チームの鮮やかな黄いユニホーム。


「戻って!!」

 後ろで叫ぶ声が聞こえたすぐ後に笛の音が鳴る。

 シュート一本分リードされてしまった。



 ―――――そしてこのまま私たちの部活は終わりを迎えた。

 顧問の先生からは厳しい言葉をもらい、一緒にプレイした戦友からは慰めの言葉をもらった。


 帰り、学校に荷物を置くから学校に行くための電車に揺られる。


「なんで私……。」

 なんで今まで頑張ってきたのか分からなくなってきてしまった。

 どこか遠くへ行きたい。

 海を見に行きたい。


 そんな時に電車の上にある広告が目に入る。

『電車で一本。鎌倉へお越しください』


 財布の中を確認するとほとんどない。

 部活をまだまだ続けるぞっていう覚悟を決めるために新しいシューズを買ってしまったから。

 でも私は今いる学校っていう空間から出たくて出たくてたまらなかった。

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