第12話本気か正気かダブルデート
チャラ男の実力はこれだけにとどまらない。
試験が終わりと同時に球技大会が開かれる。
俺はバスケットボールに参加。
3年の俺のクラスにはバスケ部なし、引退した元バスケ部もいない。
対する2年チームにはバスケ部レギュラーで固めるというイレギュラー。
はっきりいって優秀候補というより、その2年チームが勝てないわけがない。
そんな状況。
学校の球技大会なんだから、本職バスケ部は参加禁止にしとけよ!
そのチーム相手に……。
「そっち行ったぞ!」
「遅い」
ブロックに回った2年チーム長身190cmのバスケ部員をくるりと反転してかわす。
さらに前に入ってきたこれまた長身のバスケ部員から、わずかに1歩距離を置きスリーポイントシュート。
それがゴールネットに入り勝負を決めた。
その瞬間に湧き上がる歓声。
男女ともに黄色の声をあげる。
俺の大活躍で運動不足の3年チームがまさかの優勝。
正直、調子に乗ってやらかしてしまった。
だってこの身体、思う以上に動くんだもの。
「チャラ男先輩。はい、タオル」
「ありがとう、高野」
クラスのメンバーとハイタッチして喜びを分かち合っていると、その集団の中を華麗にかわして、高野がタオルを差し出してくれた。
高野のクラスの2年チームを今、負けさせたところなんだけど、凹んでる自分のクラス男子を励まさなくていいの?
あと3年の中に紛れ込むあたりメンタル劇強だよね?
「部活の先輩を優先ですよ。
……ところでチャラ男先輩、なんで文芸部入ってるんですか?」
さあ?
本、好きだったからじゃないか?
ほんとチャラ男の俺、なんで文芸部にしたんだろう?
この可愛げのある高野でも狙ってたのだろうか?
その割には何回かデートしても手を出してなかったようだし、うむむ……。
一瞬、背中がゾクリとして振り返ると、何故か姫乃が背後でにっこり笑って首を傾げていた。
あ、汗が乾いて身体が冷えたのかな?
きっとそうだ。
そんな日々が過ぎて。
「待て、もう一度言ってみろ」
とある昼休み。
食堂でいつもの量だけが理由で食べている焼きそばパンとコロッケパンを食べ終わった俺。
そんな俺のところに真幸がわざわざ俺の教室にまで来て、真幸はとんでもないことを言い出した。
「そんな変なことか?
ダブルデートに行こうと言っただけだが。
前にもちょくちょく4人で遊びに行ってただろ?
用事がないならテスト明けの土曜日な」
「あー」
そう言われてみれば、記憶の中でも4人で遊ぶことをダブルデートだとチャラ男の俺が調子良く言ってた気がするわ。
寝取り浮気をする前からそういう言い方をしてたものだから、すっかり4人で遊びに行くだけのことをダブルデートと言うようになってしまったのだ。
罪深い。
記憶を思い出し生返事をした。
そこでふと姫乃の方を見ると、さっきまでクラスの友達である飛田や有田と話をしていたはずが、いつのまにか笑顔でこちらを見て手を振ってきている。
それに応える真幸。
あー、仲がおよろしいことで。
良きかな良きかな。
良いことだから、嫉妬をするのやめろ俺の心。
とりあえず割り込むように、元気よく身体いっぱい両手を振り返しておいた。
姫乃を含むお嬢さんたちにクスクスと楽しそうに笑われた。
俺、チャラ男というよりただのお調子者?
おっといかん、真幸との話の途中だった。
あれよあれよの間に今度の土曜日に行くことになった。
あれっ?
俺返事したっけ?
特に小悪魔姫乃の接吻事件以来……。
つまり、最初からだが、姫乃の口元というか艶やかな奪いたくなる唇を見るだけでドキドキして落ち着かなくなる。
教室でも頑張って視線を逸らしているが、勝手に身体がそっちを向くのだ。
この若い身体は本当にもう!!
悲劇はそこで起こったというより、起こしてしまった。
それだけ俺たちは限界だったのだろう。
少なくとも俺は姫乃への感情が限界だったようだ。
なにもかも俺が悪いと言いたいが、そうではなかった。
寝取り浮気が犯罪的なものでもない限り、悪いのはそれを行った当人2人ともが悪いのだ。
つまり俺と姫乃は……どうしようもないほど、最低だった。
ダブルデートの行き先は遊園地だった。
俺と真幸と姫乃と夢野という組み合わせ。
もちろん4人でずっと一緒に行動するが、2人ずつに分かれるときは正しい組み合わせ。
俺と夢野の友人コンビで、真幸と姫乃の幼馴染カップルだ。
通常の土曜日なら日曜日よりは人も少ないが、そこそこの人がいるはずだが夏休みが近いせいだろう。
逆に穴になり、今日はあまり混んではおらず乗り物もほぼ待ち時間なしで乗れたのは良かった。
だけど人が少ないことが災いしたこともある。
定番のジェットコースターものとお化け屋敷を回り、休憩がてらショップに入る。
特にショップで見るものもない俺はトイレに行ってくると3人から離れる。
そこに少し遅れて姫乃が俺に追いつく。
「トイレって言って来ちゃった。
少しだけ、少しだけで我慢するから」
そのまま2人でトイレまでの道を並んで歩く。
なにを我慢するのか、考えてはいけないことだった。
姫乃が俺に寝取られてしまっている事実は、自業自得であるから余計に俺の胸を突き刺す。
真幸と夢野はショップで待っていてくれるようだ。
俺たち2人を信用しているというよりも疑ってもいないことだろう。
それだけに俺と姫乃が寝取り浮気をしている事実に、罪悪感で胸がずきりとするのは当然のことだ。
遊園地の中はまるでデートコースとして散策出来るように、木々といくつもの花が丁寧に並んだ遊歩道があった。
なんとなく2人同時に足を止め、周りを見回す。
デート用の服で遊歩道を何気に見回す姫乃はとても可愛い。
それが俺のための格好ではなく、彼氏のためのものであることだけで俺の中に暗い嫉妬の感情がずくんとうずく。
遊園地は遊具を楽しむことがメインなので、人の多いときとは違い、今日は特に人が少ない。
その中を2人だけで歩く。
まるで恋人同士のように。
それは思ってはいけないことだった。
だけど、お互いの気持ちが同調したかのように姫乃は言ってしまう。
「恋人みたいだね」
冗談めかしたように。
姫乃は俺を下から覗くようにして、はにかむような笑顔を俺に見せ……。
それが限界だった。
俺は姫乃の身体を抱きしめた。
そして驚く姫乃の瞳がなにかの色を映す前に。
俺は姫乃の柔らかく艶やかなで情動的なピンク色のその唇に、自らの唇を深く重ねた。
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