侯爵令嬢の豪華な仮面の裏に隠された真実
克全
第1話:侯爵令嬢の豪華な仮面の裏に隠された真実
私はカチュア・フォン・ローレンと申します。
皇国で有数の財力と軍事力を誇る侯爵家の令嬢です。
ですが、初めて会う人にそう名乗っても、誰も信じてくれません。
下手な冗談だと鼻で笑われてしまうだけです。
でもそれも仕方のない事です。
カチュア・フォン・ローレンといえば、その膨大な魔力と強力な魔法の数々で、大陸中に天下無双の魔導師として名が轟いているのです。
それが、風が吹けば倒れてしまいそうなほど痩せ細った四肢を持ち、身長も一五〇センチもない小柄な身体の、絵に描いたような地味が顔の小娘が名乗っているのですから、社交の未熟な子供が下手な冗談を言っていると思われるのが普通なのです。
私にも、嫌になるほどの自覚があります。
こんな見た目では仕方のない事だという自覚はあるのです。
ですが、その度に心は傷つきます。
姉アフロディーテのような美貌があればよかったのに
妹フローレンスのような愛らしさがあればよかったのに。
本当なら、侯爵家の令嬢にそんな魔力など不要です。
貴族の令嬢に必要なのは、社交界で流行を発信するファッションセンスと、会話で人を引き付ける機智、それに何と言っても美貌です。
残念ながら私には、その全てが欠けてしまっています。
天性の莫大な魔力と稀有な魔法の才能は、他のすべての才能の犠牲でなりたっているのでしょう。
もし、そう、もし私が正室の子供に生まれていたのなら。
父上が私を少しでも愛してくださっていたのなら。
どれほど社交の能力がなくても、もう少しましな状態でおられたでしょう。
側近につけられた侍女達が体裁を整えてくれた事でしょう。
しかし、私の母上は名目だけの側室なのです。
しかも愛されて生まれたのではなく、父上の戯れと悪趣味な性癖の末に生まれた、忌み子なのです。
本来ならば、母上の妊娠が分かった時点で母子ともに闇に葬られる所でした。
ですが、先代の皇国占星術師長様が、私を運命の子供と占われたのです。
父上が母上を凌辱した直後に、その天命が占星術師長様に下されたそうです。
いつもなら、父上が散々痛めつけた後で家臣に下され、最後は売春宿に売り払われるはずの女が、勅命によって仕方なく無理矢理とは言え、側室にされたのです。
しかもその子供である私は、勅命で皇嫡孫の婚約者に選ばれてしまいました。
その頃父上と正室は、アフロディーテ姉様を皇嫡孫の婚約者にしようと、ありとあらゆる手を使って、暗躍していたと言うのに。
当然正室には疎まれ嫌われました。
それでも、生まれたばかりの赤子でも、皇嫡孫の婚約者です。
体裁は整えてくれました。
体裁だけは整えてくれました。
豪華なだけで、私には決して似合わない、嫌味の塊のような衣装です。
私の貧弱な身体が強調されるように、私に対する家族の悪意が周囲に悟られないように、流行に合わせた衣装なのです。
具体的に言えば、煌びやかな宝石が施され、絹の生地が贅沢に広がる衣装は、まるで豪華さの象徴そのものでした。
しかし、その一方で、私を嫌味な女に見せるのです。
最初に目に飛び込んでくるのは、深紅のボディコンを覆うように配された大胆なレースのデザイン。
そのレースはまるで蔦のようにからみつき、私の体を包み込むような姿でした。
鋭いスパイクがちりばめられ、まるで触れるだけで傷を負わせるかのような危険な雰囲気を醸し出すものでした。
次に目に留まるのは、華やかな宝石の装飾。
ダイヤモンドやエメラルド、ルビーなど、きらびやかな宝石が数多く散りばめられています。
しかし、その配置は乱雑であり、まるで無作法な招待状のように見えました。
宝石たちはただ目を引くだけでなく、私を傲慢な性格に見せてしまいます。
さらに、衣装の生地自体も特徴的でした。
シルクは光沢のある高品質なのですが、金持ちを鼻にかけるように、過剰にふんだんに使われています。
その光沢はまるで照明のようで、私を浮かび上がらせる一方で、自己主張し過ぎる性格だと思わせてしまいます。
このように、豪華なだけで私には似合わない、嫌味の塊のような衣装は、まるで傲慢で挑発的な存在として私を取り囲んでいるかのような印象を与えました。
その派手で豪華で、悪趣味で悪意に満ちていて、私の本当の性格を誤解させるように作られた、悪意の塊です。
でも、もう慣れました。
晩餐会や舞踏会の度に陰口を叩かれ続けられたので、神経が摩耗してしまい、鈍感になっていたのです。
心が消耗して、傷つき血を流し過ぎて、半分壊れているのかもしれません。
今日もまた、婚約者の皇太子に罵倒されて過ごす事になるのでしょう。
婚約決められて十五年、当時の皇帝は崩御され皇嫡孫は皇太子となられています。
「余はカチュア・フォン・ローレンとの婚約を破棄する」
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