xanny


クリトリスの疼きが夢の挨拶である。

もう既に、さっきナイフで脚を切ったら、足が痛いのかナイフが痛いのか分からなかった。チョコレートを食べても、わたしが美味しいと思っているのかチョコレートが美味しいと思っているのか分からなかった。自分とナイフとチョコレートと痛覚と味覚との区別がつかない。

なんにでも混ざり合い一つになることが出来るのに、彼とだけは出来ない。何をしてもどうしても一つになれないし混ざり合えない。同じ感覚を共有したり、同じ長さの時間を過ごすことは出来るけど、それは同じでありながら同時に違うものであって、同じでありながら同時に同じものであるのでは無いのだから、どんなに触れて舐めて試しても、同じ一つになることが出来ない。


体が水に溶けて下から青白い光に照らされる。洞窟の中で、空気の振動に揺れ、重なって溶け合えない。誰もが誰もに対して、では無くわたしたちがわたしたちのたった一組の知恵と愛に対するためだけの表現。


誰よりも愛していて、誰とも少しも似ていなくて、一番わたしから遠いあなた。


緑色をした版画調の空の群れ、自転車に跨った労働者ふうの男が帽子の鍔に左手を添えつつこちらを振り返る。微笑んでいるようだが、逆光でその顔がよく見えない。それでもなんだか嫌な予感、嫌な笑顔であると思った。


ここにまでそんな妄想を持ち込んではだめだ。xanny。何度でも名前を呼ぶ。xanny。

駆け回る仔犬、金色の仔犬、賢くて優しくて世界一愛している。可愛いわたしのxanny。

わたしと同じ日の同じ時間に産まれたxanny。

木陰の中を駆け回るxanny。

陶器の皿の上を、ナイフとフォークがかちゃかちゃいう音の中で伸びたり縮んだりしているxanny。可愛い仔犬。愛おしい仔犬。二人の時にだけ人間の姿になるxanny。

美しい人間の姿でわたしにだけ微笑む。その美しい姿を他の誰にも見せないために。可愛い可愛いxanny。

煙を吐き出す。ゆっくり、最後はシュッと速く。

わたしはあなたに大丈夫になって欲しいだけ。xanny。可愛いxanny。ずっと仔犬のまま、可愛いままのxanny。

いつまでも葉の隙間から溢れる陽の光の中で、こちらに向かって微笑んでいて。ふかふかの毛をわたしにだけ触らせて。わたしだけが撫でる。わたしの指を舐める。わたしの顔を舐める。愛している。xanny。


わたしは性器になりたい。太腿を小さい白馬が駆け回っている。彼らはそれにうまく乗る。

タダ同然で札束を作り出していく。

死ぬまで毎日セックスする。死んでも海辺の岩陰でこっそりセックスする。一生言葉に絡まって蛇の交尾みたいにセックスする。

馬のようにもなる。猫のようにも、薬のようにも、ピンク色のようにも、煙のようにも、ピアノのようにも、低い男の声のようにも、咳払いのようにも、密売人のようにもなる。


空気の揺らめきが、あなたが手を動かした陰の動きと重なる。柔らかい泡。

この歌の作り方は分かった。身体を反らせると、もう二度と同じ勘違いは出来なかった。

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