知覚と現象
寂れたボーリング場、口髭をたくわえ、でっぷりと肥った中年男が経営している。客は居ない。片付けられていないボーリングのピンが一つだけ残っている。ボールを投げず、褪せた緑色のプラスチックで出来た椅子に凭れ掛かる。半分だけで眠れたらいいのに。浅い眠りでは無く半分だけでの眠り。どうせ誰も待っていない。どうせ誰もそこに居ない。バスの最終便。やはり誰も客は居ない。耳慣れない言語の歌が流れる。忘れられない思い出。海中に沈んだ醜い言葉たち。虐げられた証拠を目前に、形にならない傷の数々に視線を配る。どこも正常じゃなかった。どこも綺麗なところなんて無かった。ゆっくりとした雲が足元を流れている。どうしてこんなにも価値が無いのか。つまらなかった。何よりそれが苦しかった。
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