第75話 暴露

――――【善行目線】


 俺は教室に戻るなり、雅人の席に座ってる見知らぬ女の子をガン見していた。背丈こそ男子くらいあるが、身体つきは丸みを帯びて雅人が女装したにしては妙に雌々しい……。


 目つきは雅人のようなつり目だったが、雅人より優しげな眼差しで整った顔立ちで美少女ではある。


 ことごとくヒロインたちに悪だくみが露見して、雅人はおかしくなってついには男の娘になってしまったのかもしれない。


 とりあえず、そんな風に解釈した。


 授業中にも拘らずクラスメートたちは雅人の席に座った男の娘のことをひそひそと話しているようだった。


 ――――おいおい、あれ雅人だろ?


 ――――ああ。なにがあった?


 ――――わかんね。片玉だから……。


 ――――まさか去勢したとかか?


 ――――それだ!


「こらぁ! おまえら授業に集中せんか!」


 ひそひそ話が盛り上がってしまい、ひとりの男子生徒が出した答えに周りの男子たちが激しく同意したことで、中年の数学教師の雷が落ちた。それでもまったく懲りた様子のない男子たちは授業が終わるなり、雅人の変貌について話している。



 男の娘と化した雅人に疑念を抱いた俺は、雅人の机を叩いて問い質した。


「おい、雅人! なんのつもりだ。女装したところでおまえがやろうとしていたことは立派な犯罪なんだよ。ちゃんと夕霧に謝れ」


 以前の雅人なら女装して女子トイレや女子更衣室に忍びこむなんて真似を平気でやる。


 だが男の娘と化した雅人の受け答えに俺は目を見開いて驚いた。


「ごめんね、八乙女くん……ちゃんと夕霧さんには謝るから許して」

「なっ!? おまえは本当に雅人なのか?」


 あの傲岸不遜な雅人が涙目になりながら、俺に頭を下げてしおらしい態度をみせたのだ。


「うん……もう身も心も女の子になってしまったみたいなの」


 パッドを入れているのか、ふくよかになった胸元を腕で押さえて女の子っぽい仕草で頬を赤らめた雅人……。


 演技にしては手のこんだことをする。


 俺が雅人に気を取られていると若葉の姿がない。それにイケメン転校生もいなかった。


 まさか龍崎が若葉をどこかに連れて行ってしまったのか!?


「誰か若葉を知らないか?」


 俺たちの席の近くにいたクラスメートたちに訊ねると、


「龍崎くんが若葉さんと話があるって」

「どこに行った?」

「知んない……」


 ギャルっぽい子が答えてくれたのだが、つまらなさそうに空を蹴る。どうやら龍崎に気があったらしい。


「八乙女は放課後、暇?」

「ごめん、いまそれどころじゃない」


 俺は若葉のことが気になって、教室を飛び出すとギャルっぽい女子が「もうっ!」って怒っていた。



――――【若葉目線】


 私と転校生は屋上にいた。


「なんですか、兄さんに関するお話って?」


 兄さん以外の男の子に興味のない私だったが、転校生から兄さんのことで話があると言われ、気になって彼のあとをついて行ってしまった。


「ボクについて来てくれて、うれしいよ」

「そんなことはどうでもいいんです。それよりも兄さんの話をしてください。なにもないなら、帰ります」


 屋上の欄干に手をかけて遠くを見つめる彼だったが、私は踵を返して屋上から立ち去ろうとしていた。


「待って、若葉! 本当にボクが誰だか分からないのかい? ボクだよ、ボクが本当の善行なんだ」


「は? あなたは頭がおかしいのですか? 善行は兄さん以外の誰でもありません! つまらない冗談で私の気を引こうなんて、あなたもあの雅人って言う男と大差ありませんね」


「いまは分かってもらえないかもしれない……。だけどいつか分かる。ボクが本当の善行だってこと。それにあの男は雅人以上に最低な女ったらしなんだよ!!!」

「兄さんが女ったらし?」


 兄さんとあの雅人っていう男と同列に見ている時点でムカムカと腸が煮えくり返るような思いがしたのです。


「ああ、あの男は女の子たちを手練手管で言いくるめて手込めにしてる最低野郎だ。若葉……キミも彼女たちと同じ目に遭わないうちにあの男からすぐ離れるのがいい。そうだ、ボクの家に来るといい」


 転校生はなにも分かっていない。私は兄さんに成り代わって、彼に反論した。


「はっきり言って、あなたは兄さんのことをなにも分かってません! 兄さんはただ優しすぎるだけなんです。兄さんと関係を持った女の子たちは誰も兄さんを悪く言う人はいません。彼女たちの意志で兄さんと……。女の子が困っているのに見過ごすような人なら、私は兄さんを好きになってなんかいませんから!」


「わ、若葉! あいつはなにかハーレムでも作ろうとしてるんだ! あんな奴、好きになったら最低の未来しかないんだぞ。ボクはキミのためを思って言ってるんだ……なぜ分かってくれない」


「私が誰を好きなろうがあなたには関係ありません。それに止めてもらえますか、その若葉って馴れ馴れしく私の名前を呼ぶのは……不愉快です」


 私が捨て台詞のように妄想癖のある彼に告げて、立ち去ろうとしたときでした。


 びゅうっと強い風が吹いて、スカートが捲れてしまう。


「若葉! キミはあの男になんて酷いことをされてるんだ。ボクがあいつを懲らしめてやる」


 私のお尻が彼に見られてしまったのだ。


 さっき兄さんに初めてを捧げるつもりがとつぜん現れた秋月先生に見つかって結局うやむやになってしまった結果、私は下着を穿かずに授業を受ける羽目になってしまった。


 兄さんだけに見てもらいたかったのに他の男の子に見られるなんて、最低としか言いようがない!


「勝手に決めつけないでください! 私の意志で脱いでいただけなんですから!」


 すぐにスカートを手で押さえ、いやらしい目で……って、彼の目はあきらかに男の子のような反応ではなかった。


 ズボンの股間周りを見てもなにも変化していない。


 どういうことなの?


 私が不思議がっていると身内の者でしか知り得ないことを彼はうそぶいた。


「あいつは金で若……いやキミを買ったんだ! キミを性奴隷にするためにね!」

「はてして、そうでしょうか? それなら、もっと早く兄さんは私に手を出してくれていたはずです。意外と奥手なのにびっくりしました」


 勝ち誇った顔の彼に私は反論すると、彼は歯噛みして悔しがっていた。


 ガチャッ!


「若葉、ここにいたのか……なにもされてないか?」

「兄さん……はい、無事です」


 そのとき屋上のドアが開いて、兄さんが息を切らして私の下に駆けつけてけれたのだった。


「お、おい若葉!?」


 私はうれしくなって、兄さんに駆け寄り抱きついていた。


「ありがとう、兄さん……必ず駆けつけてくれると信じてました」


―――――――――あとがき――――――――――

新作書きました。

【勇者学院の没落令嬢を性欲処理メイドとして飼い、最期にざまぁされる悪役御曹司に俺は転生した。普通に接したら、彼女が毎日逆夜這いに来て困る……。】

石鹸枠の悪役に転生したラブコメです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330665423914887


よかったら見てくださ~い。

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